第29話 セオside:貴族街へ駆け抜けろ
レトのことを見送ったセオたちは、宿屋に戻って最低限の物だけカバンの中に入れると、宿屋を出発した。
貴族街へと通じる城門があるのは、中央広場を西の方角へと抜けて、大通りを直進した先にある。いまいる地点からはかなり距離があるので、駆け足で移動する。
隊列は旅のときと同様に二列で組んでいる。第一小隊はシェリル、テッド、セオという並びで、第二小隊はデイジー、フェイ、エド、マリルとなっている。
大通りにはセオたちと同じく、大勢の住民が貴族街に向かって走っている。
平民街はそこかしこに松明が設置され、視界は保たれている。
中央広場まで歩を進めると、北門の方角から、脳まで響かせ全身を押しつぶす重い衝撃音を感知した。
みんなに動揺が走る中、セオが声をかける。
「慌てないで。魔物は王国軍が食い止めてくれているからすぐには侵入してこない」
その一声で冷静さを取り戻し、迅速かつ慎重に目的地を目指す。
大通りを西の方角に突き進んでいると、遠くに階段が見えてきた。その先には張り巡らされた城壁に挟まれた城門がある。
「——もう少しだ、頑張れ」
セオが最後尾から発破をかける。
階段に差しかかったその直後————最上段にある城門がなんと閉じ始めた。
先頭のデイジーは、息が切れかけている後ろのフェイを持ち上げて抱っこし、そのまま階段を駆け上がる。
(ギリギリ間に合いそうだ……!)
残りの距離から換算してそう推測した。
そのとき、隣を走っていたマリルが階段の途中で足を踏み外したのか、転倒してしまう。
「大丈夫⁉︎」
「……ええ、平気よ」
幸い怪我はしていないようだ。
セオの手を借りてすぐに起き上がり、再び門へと続く階段を上ろうとした瞬間、後続の住民たちが一気に押し寄せてきて、もみくちゃにされる。
子供の力ではその人波に抗えず、最上段に辿り着いた頃には、無慈悲にも門は閉ざされていた。
城門の前では、取り残された住民たちが不平等に怒りを露わにして抗議する。
隣のマリルは、事態の深刻さに気づいたのか、しょんぼりとうなだれていた。
「悪かったわね……マリルのせいであんたも道連れしちゃって……」
「道連れなんて思ってないよ。まだ助かる道はきっとある」
貴族街への進む道は諦めて、引き返そうと階下を見下ろした。
すると、真っ直ぐ伸びる大通りの奥から、二体の魔物がこっちに向かってくる。
「みんな、魔物が迫ってきます! どこか安全な場所に逃げましょう!」
セオが大声で注意喚起すると、慌てふためくように人波が再度こちらに押し寄せてくる。
「僕らも急ごう!」
「ええ!」
階段を駆け下りて大通りに戻ってくる。
正面から来る魔物に追いつかれる前に、二人は南の方角にある路地に入った。
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