ロールプレイング!
水野むつき
1章
第1話 巻き込まれた!
昨日の私は妖怪世界の女番長。
今日の私は有能私立探偵。
全く違う役割を演じるの。
それがロールプレイング!
例えば、実は凄腕格闘家で教室に現れたテロ組織を壊滅させるとか。
例えば、人知れず戦う正義の味方とか。
ううん、そんな非現実的なものじゃなくていい。ただ自分とは全く違う自分になってみたいとそう思う。
性格……引っ込み思案。
見た目……地味。
成績……普通、より少し下。
うん、やっぱり変わりたいよ。
もし変われるとするなら、もっと明るくて誰とでも友達になれるような……そうだな、
同じ集団下校グループのコノカちゃんの方を見る。ポニーテールで、背が高くてスラッとしてて、パッチリしたお目々のかわいい女の子。
コノカちゃんは先頭の方で転入生の
「えっ、
「ああ。逆にこっち来て小学校から制服なのに驚いた」
「制服面倒だよ。この間木に制服の袖ひっかけて破いちゃって、大変だったんだ」
コノカちゃんとお話ししてる
やっぱりすごいよ。
私も話しかけに行けるぐらいの積極性があれば……。
深いため息をつきながら、ランドセルの紐を掴む。
「…………」
んー? なんか今日はいつもより軽い気がする。
んー? なんか入れ忘れたかなあ。
不安になって最後尾でこそこそとランドセルの中身を確かめる。
「……」
はい、予想通り。
筆箱が入ってないです。
なーんで筆箱を持って帰り忘れちゃうかな、私は。
もう、どうしよう。
とりに戻りたいけど、一人抜けたら迷惑だよね。かといって、「誰か一緒に来て」なんて言う勇気があるわけもなく────。
「どうしたの?」
「!」
コノカちゃんに声をかけられ、思わず顔をあげる。
「忘れ物?」
足を止めて、私の方を見て、コノカちゃんが尋ねてくる。私のことまで気にかけてくれたんだ……!
コノカちゃんに言えば一緒に取りに戻ってくれるかな。そう考えて。口を開いて────、やめた。
「何でもないよ」
何とかそれだけ言う。コノカちゃんは「そっか」と笑ってまたみんなと歩き出した。私は後ろでトボトボ歩く。
言えなかった。
きっと迷惑だし。
それに、──みんなが見てたから。
筆箱持って帰り忘れる恥ずかしい奴だって思われるのが嫌だった。
はぁ、家に帰ったら取りに行こう。
◇◇◇
一度家に戻ってからまた学校にやってきました。放課後の校舎って入って良かったのかな?
わかんないから誰かに見つかる前にさっさと終わらせよう。
シンとした校舎の中を歩き。5年2組の教室までやって来る。
ガラッと戸を開けて、自分の席まで行き、引き出しの中を見てみれば筆箱がぽつんと置いてあった。
良かった。
筆箱をカバンの中に入れて教室を出ようとしたところで、
「────ん?」
一枚の紙が落ちているのを見つけた。
ノートサイズの紙。
なんだろうと思ってみてみれば、見たこともない文字で題名のようなものがでかでかと書かれている。その下には何かを書く欄がいくつか。
へんなの。
誰かの落とし物かな。
でも、誰のかわかんない。
名前でも書かれていないかと、紙を拾う。
その瞬間、読めなかったはずの文字が読めるようになった。
『あなたはどんな人?』
一番上の題名のようなものは確かにそう書かれていた。さっきまで読めなかったはずの文字がスラスラ読める。
不思議に思いつつほかの文字を見てみれば、やっぱり読めるようになっていた。
『名前は?』『見た目は?』『性格は?』『運動能力は?』『何が得意?』
まるでプロフィール帳みたい。
売られてるのと違って、キャラもマークもないシンプルなものだし、お手製なのかな。こんなの作っている人いたかな、と考えながら、気づけば私はプロフィール帳の質問に答えていた。
『名前は?』
「永田若葉」
『見た目は?』
「地味」
『性格は?』
「引っ込み思案」
『運動能力は?』
「ダメ」
『何が得意?』
「特になし」
答えたくて答えてるわけじゃない。ただ、気づけば答えてしまっているのだ。
まるで操られているように────。
質問にすべて答え終わったあたりで、ようやく口が動くのを止めた。
今の、何だったんだろう。なんだか気味悪い。落とし主さんには悪いけど、見なかったふりしてさっさと帰ろう。
紙を床へと戻す。
「痛っ!」
紙で手を切り、思わず声をあげてしまった。
指から血が流れる。
もうやだ。
紙を置くだけで手を切るって、私、どんだけバカなの。
紙にもちょっと血がついちゃったし――――。
『口頭設定認証しました。生成します』
声が響いた。
誰もいない空間で、機械のような声が響く。
『登録番号0022、永田若葉』
名前が読み上げられ、そして、私の体が光に包まれる。
キィィィインと、耳に痛い音も鳴り、怖くて思わず目を閉じる。
一秒、二秒、三秒。
ようやく音は鳴りやんで、目を開けてみれば──、そこはさっきまでと変わらない普通の教室だった。
机、いす、教卓、黒板、掃除用具入れ。
あとは、紙が落ちているくらい。
本当に何の変哲もない教室。
「……」
それが逆になんだか怖くて、鞄の紐をきゅっと握りしめ、逃げるように教室の戸に手をかける。
ガッシャアアアアン
大きな音を立てて戸のガラスが割れた。
割れたガラスの破片が、私の頬をかすめる。
「っ! ──っ!」
痛い。
痛い、痛い。
痛い痛い痛い痛い。
紙で指を切った時の比じゃないくらいの激痛が私を襲う。
なんで急にガラスが……。
もうやだあ……。
泣きそうになりながら頬に手を当てれば、ぬるっとした感触とともに手に大量の血が付いていた。
頭の中が真っ白になる。
放課後の校舎にこっそり忍び込んだとか、もうどうでも良くて、助けが欲しくて、人を呼ぶために悲鳴を上げようと口を開く。
「──」
声が、出なかった。
恐怖。
混乱。
狂気。
とにかく声が出なかった。
そんな私に、さらに追い打ちをかけるような事態が襲い来る。
割れたガラス部分から見たこともないような化け物が顔を突き出していた。
ウロコが溶けた半魚人の化け物。
少し顔を動かすたびに溶けたウロコがボタ、と落ちるほど不定形でありながら、金色の目だけは異様にしっかりと私を見据えている。
気づいてしまう。
悟ってしまう。
私、ここで死ぬんだ────。
その瞬間、
「幽遠閃華・桜」
桜が、舞った。
まるで化け物から私を隠すようにたくさんの桜が目の前に吹雪く。普通なら突然現れた桜に驚いて更に混乱するんだろうけど、なんだか桜が守ってくれているような気がして、気づけば私は正気を取り戻していた。
暖かく優しい色の桜吹雪は、しだいに止み、目の前には刀を持った女の子がいた。
化け物はいない。
女の子の刀に、あの化け物と同じ色の液体がちょっとだけついてる。この子が倒してくれたのかな。
私はまじまじと女の子を見る。
ポニーテールで、背が高くてスラッとしてて、パッチリしたお目々のかわいい女の子。この学校の制服着てて、右袖に破れた後がある。
見知った顔。
彼女は刀を置いて、腰を抜かしたままの私に手を差し出さてきた。
「大丈夫、
その声も、その顔も、その仕草も、コノカちゃんそっくりの女の子。
でも、私は彼女の手を取りながらこう言った。
「ありがとう、
「──」
コノカちゃんそっくりの女の子は、コノカちゃんがしないような表情で顔を引きつらせる。
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