呪医テイト・ラオの診療日誌・ep01「暴走する恋心 」
小椋夏己
1 呪いの診察
「あ~、これは呪われてますね」
「やっぱりそうですか……」
ここは「
「呪医」とは人の肉体に起こる
「このところ寝ると金縛りにあうんです。それに続けて怖い夢も見ます」
少女はそう訴えてここに来た。
「どんな夢でした?」
少女の訴えを男はさらさらと紙に書きつける。
「昨夜はなんだか分からない動物がぐるぐると周囲を走り回る夢です。その前の夜は人形のような女がじっとこちらを見ていました」
「ふむふむ」
男は少女の言葉を一文字も逃すまいとするように書いていく。汚い字だ、他人が見ても何を書いているのかすぐには判別できないだろう。
「で、他には何かありますか?」
「いえ、今のところ思い浮かぶのはこのぐらいです」
「ふむふむ」
男は今まで聞いた話を総合してこう結論を出した。
「多分、
「恋敵、ですか?」
「そう、恋敵」
少女は困ったように首を傾げる。
「いえ、心当たりはありません」
「えっと、こんなこと聞くと失礼かも知れませんが、まあ呪いと関係があると思って許してもらいたい。あなたの交際相手には何か心当たりはないですかね? というか、そもそもお付き合いしてる方は?」
「あの、それは、あります……」
少女は男の言葉に恥ずかしそうに俯いてしまった。
「えっと、あるというのはお付き合いしてる方が? それとも心当たり?」
「あ、あの、お付き合いしてる方です」
「ふむふむ」
男はさらに書き足す。
「まあ
「生霊!」
「とりあえず
「はい、分かりました。ありがとうございます」
「もしも7日やってもあまり効果がなかったらまた来てください」
「あの、効き目がないこともあるんですか!」
少女がビクッとしながら男に聞く。
「あ~、まあねえ、多少やり方が違うってこともありますし、本人の自覚があるかないかも関係します。それから、言いにくいんですが、あなたのお付き合いしてる方、その人とどういう関わりのある相手か、そんなことでも違ってきますしね」
「そ、そうなんですか……」
「場合によってはその男性にも来てもらう必要がある場合もあるんですが、う~ん、まあ、その必要はなさそうに今のところは思えます」
「それは、どういうことでしょう?」
「えっとですね」
男は一瞬、どう言ったものかと考える風に言葉を切ったが、さっきまで走らせていたペンの尻で頭をカリカリかきながら、
「その男性が浮気してるとか、その女性を
「!」
少女の目がまん丸に見開かれた。
「あ、大丈夫! 少なくとも今の見立てではそういうことではなさそうだなと思います。もっとも、僕はその男性に会ったことがないから、そうじゃないかなと思うだけですが」
「とても優しい人なんです!」
少女が身を乗り出すようにして男性の弁護を始めた。
「だから浮気とか、ましてや女性を弄ぶなんてこと、する人じゃないです!」
「あ、あ、そう?」
男は困ったなという顔になる。
(こういうケースでは大体がそういうこと言うんだけど、これが結構あることなんだよなあ)
男はまたカリカリとペンで頭をかいた。
「まあ、僕もそうじゃないかと思いますよ。ですから、きっとあなたのお付き合いしてる方を好きな人がいて、その人の念があなたに来てるんじゃないかと思います。だからとりあえず7日ね」
そう言ってサラサラと何かを書いた紙を少女に渡す。
「はい、これを隣の処方箋窓口で出してくださいね、お大事に」
「ありがとうございました!」
少女は書きつけをしっかり抱きしめると、お礼を言って部屋を出ていった。
「今日の1人目は嫉妬の生霊、と……」
男、この「テイト・ラオ診療院」の院長テイト・ラオは、忘れないうちに今の患者のことで気がついたことを書き足していく。
「えっと、こんなもんかな」
書いた文字をふむふむと言いながら確かめ、最後に締めくくりの斜線を引く。書き終わったらそれは「一時預け箱」に入れておき、また新しい紙を出す。初診の時の決まった手順だ。再診の患者の時には
「次もまた初診だな。次の方どうぞー」
そうしてこの日の午前中は5人の患者の診察をした。これは普段の平均的人数だと言えるだろう。
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