第15話 行く先を見据えて
「それじゃあ、リリネから指定があった荷物は、これで全部だね。あたいが持っていくよ。」
「あ、ああ・・・」
マハベールの門で、大きな荷物を背負い、顔見知りの見張りと話していれば、戸惑いの表情・・・何となく、想像はつくけれど。
「ん? なんだい。あたいがリリネの使い走りみたいにしているのが、
「い、いや、そこまで言うつもりは無いが、あんたらが随分と上手く行ってるようなのが、ちょっと驚きでな。」
「ああ、ヴィニアの奴は相変わらずだけど、簡単に言えば、私とリリネの話が合ったってことだ。それに、矢を放つことばかり考えてる奴も、役に立つ時はあるからね。」
「ははは、そりゃあ違いねえ。獣を狩る時には、あんたとヴィニアがいないと、こっちも困るってもんだ。」
「ああ、それで思い出したよ。リリネからの言伝だ。急に報せが必要になったら、こいつに手紙を括り付けて、空に放ってほしいってね。」
「何だ、こりゃあ。作り物の蝶と、止まるための花か?」
「そうだね。私も、リリネが頑張って作ってたことくらいしか分からないが・・・ともかく、そいつで手紙をやり取りできる。
『この花は、私達のところから飛ばす蝶も止まるので、できれば外から入れる所に置いてくださいね。もしも壊したら、怒りますよ?』と言ってたねえ。」
「そ、そいつは主だったところに伝えて、大事にしないとな・・・しかし、リリネさんの真似、随分と似ていて驚きだ。」
「ははは、あたいも『学ぶ』ってことくらいは、するんだよ。・・・それでは、私はこれで失礼します。よろしくお願いしますね。」
「あ、ああ・・・」
うん、実を食べる前の私が原因なのは分かるけど、少し丁寧な言葉を使ったら、この上なく信じられないものを見たような顔をされるのは、何でだろうね。
「それじゃあ、行くよ、フィナ。」
「はい、ベルシア様!」
そうして、マハベールでの用事を終えたところで、フィナと並んで歩き出す・・・・・・そろそろ、十分に離れたかな。
「リリネが、出来れば早めに戻ってほしいと言ってたし、いつものをやろうか。」
「わ、分かりました、お姉ちゃん・・・」
声をかければ、まだ少し慣れない様子で、二人きりの時の呼び方をする。
「身体を固定するから、しっかり掴まっててね。」
「はい・・・!」
それでも、私の胸に抱き付く時は、いつものように嬉しそうな表情が見えて、優しく頭を撫でた。
「さて、『黒の森』まで戻ってきたけど・・・」
荷物を背負い、フィナを胸に抱いたまま、森の境までやって来れば、私達のことを認識してか、拠点への道を開くように草木が少し動く。
「マハベールに置いてきた蝶といい、この辺りは何がどうなってるのか、本当に分からないんだけどね・・・」
この草木は植物魔法の効果で、あの蝶は妖精の力とか言ってたっけ・・・この辺りは、実の知識にも無いところなので、本当にお手上げだ。
「その、何となく、なのですが・・・ルビィさんの力みたいなものを感じます。植物魔法と妖精さんは、本当に仲が良いのかもしれません。」
「そうか・・・私が実から得た知識でも、伝承みたいな話だったからなあ。それを感じられるなんて、フィナは本当にすごいね。」
「あ、ありがとう、お姉ちゃん・・・」
うん、少し前に進もうとする様子も、可愛いな。
「あっ! お帰りなさい、ベルシアさん、フィナさん!」
そうして森の中を進み、湖のそばにたどり着けば、リリネが声をかけてくる。
私が幾人もの盗賊達を切り伏せ、あるいは焼き尽くした辺りは、既に近くから土が運び込まれ、『畑を作るんです!』と楽しそうな声を、先日聞いたばかりだ。
彼女の持っている『実の知識』がどのようなものか、詳しいことは分からないけれど、戦えば相手に脅威となる植物魔法は、本当はこんな風に使いたいのかもしれない。
「フィナさんにお願いしたいことがあったんですが、そこの湖からスプリンクラー・・・えっと、水を細い線や霧みたいに細かくして、この土の辺り全体に行き渡るように出来ないか、確かめたいんです。
もし上手く行けば、これからの食糧生産がすごく便利になりますから。」
「は、はい! 頑張ってみます!」
そしてフィナも・・・戦いが好きではないこの子も、こんな風に穏やかな時間を過ごさせてあげたいな。
「それから、ベルシアさん。余った木屑を火魔法で燃やして、灰にしてくれませんか? 肥料になるんですよ。」
「ああ、それなら私が持ってる知識にもあるね。分かったよ!」
もちろん、そこには私も一緒に。
「リリネ、いい獣を狩ってきた。あっ、ベルシアが帰ってる。退屈だから、一戦やる?」
「今、農作業のほうを頼まれてるから、後でね?」
だけど、実の記憶にある場所に比べれば、此処は争い事や盗賊のような存在も多いから、戦いの備えも必要だろう。
その時は、フィナが穏やかに暮らせるこの場所を、必ず守り抜いてみせる。
『黒の森』に出来たばかりの、私達の拠点を眺め渡し、肥料となる灰を作り始めた。
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