第14話 朝陽の下で
「どうやら、向こうも終わったみたいだね。」
「はい・・・」
フィナの頭を撫でながら、残された篝火の明かりに浮かび上がる、もう一つの戦場に目をやれば、
ヴィニアの矢の雨は止み、リリネの植物魔法が一帯を制圧している。
「ベルシアさん、フィナさん、大丈夫ですか?」
そして間もなく、森の中からリリネの声が響き、二人がこちらへやって来る足音が聞こえた。
「その血は・・・怪我ではないようで、良かったです。先程は、実を食べる前のベルシアさんと、似た気配を感じましたが、今の貴女は・・・」
「ああ、切り換えやすくなった気はするけど、基本的には実を食べた後だよ。フィナが私を引き戻してくれたから。」
「そ、そうでしたか・・・フィナさんも、お疲れ様でした。」
私達の表情を見て、リリネが答える・・・少し疲れた様子をフィナが見せているのも、気付いているだろうか。
「私は、さっきのベルシアのほうがいいかな。」
「うん、ヴィニアはちょっと黙ろうか。」
本当にさっきの私なら、一撃喰らわせているかもしれないよ?
「それで、向こうの状況は・・・見れば何となく分かるけど。」
「はい。ヴィニアさんがほとんど射抜いてくれました。話を聞けそうな、ある程度従順な気配だった人は、少し残していますが。」
「そっか・・・リリネがやったらしい跡も、なかなかの見映えだよね。」
夜闇の中、篝火に照らし出される、物言わぬ存在となった人を絡め取った植物・・・実の知識にある、ホラー作品といったものに出てきそうだ。
「ベルシアさんが、それを言います?」
「うん・・・今のは、何かごめん。」
焼け焦げた地面と、辺りに転がる色々が目に入り、リリネに少し頭を下げた。
「とりあえず、戦いは終わりましたけど、後片付けは必要ですね。
植物にも力を借りて、大きめの穴を掘ったりしますので・・・ベルシアさんは、フィナさんと一緒に休んではいかがですか?」
「ありがとう、そうさせてもらうよ。」
リリネの言葉に甘えることにして、湖の
「あ、あの・・・お水を出しますので、身体を洗いませんか? その・・・」
「うん、戦いの最中ならともかく、これはちょっと酷いよね。お願いするよ、フィナ。」
さっき、リリネにも心配されていたけれど、身体には返り血がべっとりと付いたまま。
戦いの場に身を置くのなら、避けては通れないことだけど、これから休もうという時に、気分の良いものではないだろう。
「は、はい! それでは・・・!」
フィナがその手から水魔法を放ち、私の身体にこびり付いたものを、洗い流してくれる。
「服も脱いで、ちゃんと洗っておこうかな。フィナも、身体を綺麗にしたほうがいいよ。」
「ひゃ、ひゃい!」
辺りにリリネとヴィニア以外の気配が無いことを慎重に確かめてから、返り血も汗も全て洗い流し、フィナと一緒に布にくるまって、寝床に体を横たえた。
「ねえ、フィナ。呼び方は、好きにしてくれて良いからね。」
「あっ・・・」
さっきから不自然なくらいに、フィナが私の名前を呼んでいない。戦いの時のこともあって、どう呼ぶか迷っていることは、想像がつく。
着ていた服は焚き火の所に干し、元より荷物は少なくしてきた強行軍ということもあって、
一枚の大きめの布を共有する中で、遮るもののない肌の感触が、フィナの高まってゆく鼓動を感じさせる。
「えっと・・・お、お姉ちゃん、おやすみなさい!」
「うん! おやすみ、フィナ。」
思いきった様子で口にした後、恥ずかしそうに私の胸に顔を埋めてしまうのを見ると、可愛らしくてたまらなくなり、ぎゅっと抱きしめる。
私より少し体温の低い身体は、戦いを終えた身には初めのうち心地よくて、だんだんと私の温度と重なってゆくのも愛おしくて、
可愛らしい寝息を聞きながら、私も穏やかな眠りにつくことができた。
「ベルシアさん、休息は取れましたか?」
こちらへ近付いてくる足音に気付き、目を覚ませば、間もなくリリネが声をかけてくる。
「うん。私は十分だけど、そろそろ交代する?」
「いえ、作業は終わりましたし、どちらかといえば家に帰って休みたいので・・・
もう少し経って日が昇れば、捕虜を連れてマハベールへ戻りたいと思います。」
「分かった、それでもいいよ。今、フィナを起こして準備するから・・・」
「あれ? ここに干してあるのは、お二人の服・・・わ、私はしばらく後ろを向いていますので!」
「ああ、実の知識だと、割と恥ずかしいほうかな。リリネに見られる程度なら、私は気にしないけど。」
「あっちの知識とか関係なく、私は気になるほうですから!」
足音が少しだけ遠ざかる。これも個人差というものかな・・・
「ん・・・」
そして、リリネとの会話もあってか、フィナが声を発し、目覚める気配を見せる。
「おはよう、フィナ。そろそろ朝みたいだよ。」
「ん・・・お姉ちゃん、おはよう・・・」
声をかければ、まだ半分ほど夢の中と見える、可愛らしい朝の挨拶が私に届いた。
間もなく、顔を真っ赤にしたフィナと一緒に、外へ出て服を着れば、やがて朝陽が昇り出し、私達を穏やかに照らし始めた。
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