第2話 生徒会は通常運行です~。


クラスの実行委員はなんとか男女一人ずつ決まり、クラスの沈んだ空気も緩和された。


俺と優女はお昼休みの生徒会室に向かい体育祭の準備が始まる前の話し合いをすることに。


「それで、体育祭をするわけだけど……無難、目新しさ……あなたたちはどっちを求める?」


リアサが俺と優女、浅川に聞いてきた。


体育祭に思い入れのない人間にとっては無難一択か。


他にも運動が苦手な人間や体育祭のノリについて行けない者たちにとっては地獄の一日となるだろう。


俺は暑い日差しが苦手だから体育館で行えばいいと思ったが、それではクラスマッチと内容が被るし、観客が入りきれない。


目新しさをとれば地域住民や保護者、生徒の意見反応も想定して考えないといけない。


もし問題になれば学校側に苦情が入るリスクもある。


だから俺は全校生徒の意見を代表して言おうじゃないか……。


「体育祭はやらなくてもいいんじゃないか?」


リアサが「なに言ってるんだコイツ」って顔で見てきた。


いや、だって体育祭に意味を見いだせないんだよなあ。


「そもそも体育祭って何のためにあるんだ?」


「生徒が集団行動をとって社会に出るときの社会生活に必要な教養を育み、運動にふれ健康体力を維持向上するためのものかしら」


「その目的って生徒は理解してるのか?」


「……おそらく大抵の生徒が理解していないまま過ごしているわね」


「なら意味ないだろ。生徒がその意味を理解してないならはみ出し者がでる。集団行動が苦手もしくは嫌いな生徒はめんどうなだけだし、運動に興味がない人間からすれば一日地獄を味わって、解放されたとでも思うんじゃないか?」


「……それはそうね」


「優女と浅川はどう思う?」


机でふて寝をしていた優女が顔をあげる。


「わたしはどっちでもいいかな、イベントが嫌いなわけじゃないけど、好きなわけでもないしね」


浅川の反応はというと。


「わたしは皆が楽しんでくれるなら体育祭、やってもいいんじゃないかと思ってるよ」


つまり体育祭の意味を理解したうえで全員が楽しめるイベントになればいいということ。


「でも、伝統や習慣もあるのよ?」


「それはまあ、仕方ないよな……体育祭をしなくてもいいって言ったのは冗談だ。生徒の中には楽しみにしている生徒もいるだろうし、保護者からの批判もすごそうだ」


いや、普通に野次が飛ぶだろう。


子供の楽しみを奪うなとか言ってくる保護者ならびに地域住民の方々。


自分達の青春を奪うなと抗議してくる陽キャども。


想像するだけで面倒だ。


「とりあえずなにか体育祭に前向きな人間だけじゃなく、ノリ気のない人間にも楽しめるイベントにしよう。はい優女さん、なにかいい競技案はあるかね?」


「うーん……パンツ食い競争」


「パン食い競争か。無難だな」


「……パンツ食い競争」


「聞いてて流したんだよ」


この妹の発案はどうもクレイジーすぎる気がする。


「一応、理由を聞こうか?」


「これは運動が苦手な男子にとっても嬉しいんじゃない? 新品の女子のパンツを使用済みパンツって嘘ついて小麦粉の中に混ぜて取らせるの……パンツも真っ白だから保護者もなに咥えているのか気づかないはずだよ?」


冷静に計算してんじゃねーよ。


しかもそれ男子興奮してるじゃないか。


これは健全な目的を意識したイベントなのに煩悩に走ってどうする。


「優女の意見に賛成のものは?」


シーン。


優女含め誰一人手をあげなかった。


確かに運動が苦手な男子も楽しめる案としては良かった。


褒めていいことなのかは知らんけどまあ良かった。


ただ咥えているものがなにかバレた時が大変なことになるので却下。


「いい案だと思ったけど、わたしもやっぱなしかな? お兄ちゃんのパンツじゃないと意味ないしね」


「シレっと痴女るな妹」


俺は恥ずかしいよ。


たぶんリアサと浅川だからこう言うこともシレっと言えるんだろうけど……。


お兄ちゃんは嬉しいぞ?


本音を赤裸々に話せる友達がで来たみたいで。


内容はアレだが……。


「わたしは目新しい、今までにない体育祭にしたいのだけれど」


「なんでだ?」


リアサが自分のお弁当から卵焼きをつまみ食べる。


「……わたしはこう見えて承認欲求が強いの。生徒全員がこの一年を楽しめたのは今期の生徒会長がわたしだったから……そう思ってもらいたいのよ」


「なるほどね……」


俺はあまり地位名誉に興味はないが一般的にはそうかもしれない。


ならばここは天下の浅川様に頼るしかないのでは?


浅川の力なら大体の問題はクリアできるだろうし、ちょっと弾けたイベントにしても周囲の人間の認識を誤魔化せるだろう。


「なら浅川の洗脳能力があるんだし、ちょっぴりファンタジーな世界観を出してもいいんじゃないか?」


「「「というと?」」」


俺は考えた。


世の男の子はみなカッコいい主人公に憧れる。


女の子の前で格好つけてキャーキャー言われ、「あの人足速い!」「なにあれ最高! 素敵!」と言うことを求めているはずだ。


と言うわけでファンタジー的な世界を創ってあげてカッコいいし主人公たちと、それを応援するヒロインどもを作ってやろうではないか!


「どう?」


「それ、予算はどうなるの?」


リアサはなんとなく俺の頭の中がわかったらしい。


とんでもなくくだらないとした目を向けてくるが……。


「浅川、これ作るのにいくらバイト代欲しい?」


「え、お金貰えるの?」


浅川は俺の思考が読めるらしいし大体何がしたくて作りたいかわかるだろう。


これは正直言ってサクラダファミリア並みに大変なことだ。


なにせ俺の中にある皆が楽しめるファンタジーな体育祭の設計図はめちゃくちゃ曖昧だ。


だれがこんなもの作ってくれるというのだろうかと……。


浅川が期待の目で見てくる。


だが悪い浅川。


この学校の予算は一般的な学校に比べて裕福だが君の働きに見合う分だけの額を用意できない。


「浅川、百万円ぐらいでどうだ?」


俺の貯金からこっそり出そう……。


「わかった! 頑張るよ!」


優女が真顔になって両方の頬を抑えてる。


あれ、笑うの必死にこらえてる奴だ。


リアサは完全に冷めている。


俺は心の奥に罪悪感を……覚えていなかった。


うん! みんなこれでハッピーだしオールオッケーだよね!


……浅川の笑顔の裏が読めなくて怖いよ……。

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