俺の青春はラブコメだけで終わらない。第二章
夜九笑雨
第2章 体育祭編
第1話 これが本気のカンニングッ!
【ナシカ視点】
「ここが今、彼が生きる世界ですか……」
わたしも遠い昔に見たことのある懐かし光景が広がる。
周辺で一番高いビルの屋上に乗って景色と空気を堪能する。
あちらの世界でエルトさんが死んで数百年。
わたしの右手にはいまだにギルドマスターをしているハゲおやじからいまの彼に届けて欲しいと言われた手紙がある。
内容が気になるけど……開けたらだめですよね?
と、考えつつ容赦なく封筒を破いて中身を取り出す。
手紙の内容はと言うと……。
『親愛なる友へ
お前は覚えてないかもしれないが今のお前の前世で無二の親友をやっていた者だ。名前はバーモンド。俺とお前の関係はよく一緒に酒を飲みかわし、女の愚痴を言い合い、冒険で切磋琢磨しながら絆を高め合った最高の友人だ。そこで頼みがあるんだが……一度こちらの世界のエーリューン王国の冒険者ギルドに来てくれないか? そこで久しぶりに言葉を交わそう。どうしてもお前にしか頼めないことなんだ。冒険者ギルド全体で歓迎するから待ってるぞ!
最高の友より』
グシャッ。
気付いたときにはわたしは手紙を握りつぶしていた。
このハゲはどのツラ下げて彼に手紙を書いたんだろうか?
無二の親友って……いつも彼のあげ足をとろうとばかりしていたくせに。
厄介な敵やモンスターはほとんど彼一人に丸投げしていた。
クルトさんやトーレさんがあまりにもちゃらんぽらんで能力があるのに役に立たなかったせいだ。
「はあ……」
とてつもなく疲れる。
よし、この手紙はわたしで処分しておこう。
「さて、まずは着替えないといけないですね……魔力で編めばどうとでもなりますか」
わたしの来ていたドレスが現代風のカジュアルな服に変わる。
「できればトーレさん……確か今は優女さんでしたっけ……」
彼女に会って彼の現状を確認しなければ。
もうわたしのことは覚えていないのだろうけど……時々こちらの世界に来てお土産を持ってくる優女さんの話では、今も変わらず彼のままらししい。
会うのが少し怖いけど、楽しみでもある。
本当は転会のみんなにも彼と合わせてあげたかったけど、現代で大勢がごろごろと動くのは目立ちすぎる。
わたしの他にすでに彼の周りにいるメンバーもいるけど、報告は適当だ。
彼にラブコメの面白さを理解してもらえないだとか。
女の口説き方を彼に教えようとするクズもいるし。
彼が禁断の愛に目覚めないのかなとか言う腐女子もいる。
正直、彼らは役に立ってない。
彼を一人にさせないと言う意味では助かっているけど……変な知識を植え付けようとしないで欲しい。
優女さんの話では体育祭の準備期間に入ったところらしい。
自分が学生だった頃はもう朧気ではっきりと思い出せないけど、彼と青春を過ごしている優女さんが羨ましい。
早く優女さんに会わなければ。
【ハルト視点】
時期は夏。この学校の体育祭の時期に入ってきた。
生徒会は体育祭実行委員と協力し盛り上げていこうぜ!
などという暑苦しい空気がクラスに漂い始めている。
今はクラスでクラス代表の実行委員を決める会議が始まっているが誰も積極的に立候補する人間はいない。
武先が体育祭の参加種目のアンケートを取った時まではあれほど賑やかだったのに今はお通夜状態だ。
このクラスでどちらにせよ働かせられることが決まっている俺、優女、浅川はどうでもいい話題だが、クラスの連中にとってはそうではないらしい。
クラスのあちこちで「お前がやれよ」「いやあんたが」と呟く声が聞える。
労働者確定している俺たちの身にもなって欲しいものだ。
どうでならクラス全員を働かせて作業密度上げればいいのにと一瞬考えたが、作業効率が落ちるだろうことを考えてやめた。
「優女、世間って厳しいな」
「お兄ちゃん、急になに言ってるの?」
優女は現在魔法で未来を机の上に転写している。
どんな映像が流れているかと言うと、一学期末のテストの予想問題と解答だ。
「お前、そこまでして俺に勝ちたいの?」
普通にカンニング以外の何物でもない。
「わたしはね、お兄ちゃんのことを一人の男として見てるのはもちろんのこと、しかしライバルだとも思ってるんだよ」
「前者は今すぐ捨てようか?」
「わたしはね、カンニングは時と場合を考えれば別に構わないと思ってるんだよ。今回はそれ。時は戦国、敵は兄、下剋上じゃあー!」
「現実に戻ってこーい」
最近優女の情緒がおかしい気がする。
元からおかしいところはあったがこの前読んだ戦国もののラノベが影響しているのだろうか?
すぐ影響を受けるところは直したほうがいいと兄としては思うのだが……。
優女は高精度な魔法技術により、本当に机に問題と解答を転写してみせる。
それを顎にてを当てながら眺めている優女。
「なあ、俺も見ていいか? お前絶対今度満点取るだろそれ」
「お兄ちゃんは駄目だよ。わたしが勝てなくなるからね」
「そうか……なら恵奈にでも頼もうかな」
「意味ないよ。お姉ちゃんは単純な魔法はすごいけど、高度な構成が必要な魔法は苦手だからね」
そうなのか……姉妹でも違いが出るんだな。
なら次は……。
「浅川に聞くか」
優女の動きがピクッと止まった。
ギギギッとこっちに身体を向けた優女は頭を下げてきた。
「それだけはやめてください」
……もしかして、その魔法って百パーセント当たるわけじゃないのかな?
「なら俺にもその転写したやつ見せろよ」
「でもそうしたらわたしの勝ちが~」
「別に兄妹で競うこともないだろ」
「それはお兄ちゃんが強者側の人間だから言えるんだよ」
確かに。
誰かと比べたり競ったりしようと思わない俺には無自覚に余裕があったのかもしれない。
ただ俺の場合、余裕と言うよりか何事にも関心がないだけだが。
テストの結果にも興味はない。
なんなら赤点さえ取らなければ何点を取ってもいいと思っている。
手を抜いたら優女に怒られそうなので成績は落とさないほうがいいかもな。
「なあ、このクラスって実行委員に向いてそうな奴いたっけ?」
「そうだね……奥村君とか佐江村さんとかは向いてるんじゃないかな?」
「へ~」
「その顔は誰のこと言ってるのかわかってない顔だね」
バレたか。
クラスメイトの名前を言われても顔も思い浮かばない。
何度か顔を合わせても相手の名前を聞こうとしないのが俺だからなあ。
聞いても覚えない説まである。
「誰かやりたい者はいないのかー?」
武先が呼びかけるが一向に手をあげる様子を見せないクラスメイト。
この後どうなるんだろうなあ。
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