第41話 終戦



霹靂の間───


大勢の人々がリアンの帰りを待っていた。


リアン達が降りて行ってから15分ほどしか経っていない。


しかし、祭壇の間に降りる通路の入口を睨みつけながらボロスが焦りを見せていた。


「信じて待っているものの、いささか時間がかかっているんじゃねぇかぁ?」


「リアンを信じて待とう。今のところは無事のようだ。ただシュバルトの魔力にも変化はない。一体どういう状況なんだ?」


ボロスの傍らに、腕組みをしながらアントーンが立っていた。

『感知魔法』を使って、祭壇の間にいる二人の魔力の変化を探っていた。多少魔力の増減はあれど、途絶えてはいない。


二人とも生きている。

今のところそれだけしか分からない。


しかし、あの弱々しかったリアンが俺達に向かって“待っていてくれ”と言ったんだ。

今はその言葉通り、信じて待つしかない。


「まさか、最後にわしらの中で一番弱そうなあの小僧がここまで成長するとはな」


「ああ、確かにリアンは戦闘面での実力は乏しかった。しかし、出会ったときから芯の強さは持ち合わせていた。“狂薬”で魔力も備わったことから、本当の強さを得たんだろうな。あのシュバルトを───」

「そう!つまりワシの“狂薬”がすごかったっちゅうことだよな!?ここまで効果を発揮してくれたヤツはリアンが初めてだがな!」


「………ああ、そうだな。だがリアンの芯の強さと彼の『伝達魔法』があの強さをもたらしたのだろう」


アントーンは『感知魔法』により、リアンの魔力が増幅しているのを感じ取っていた。それは、“狂薬”が『伝達魔法』を強化し、『伝達魔法』が“狂薬”の効果を強めた。お互いが作用し、リアンを最強の戦士にさせたのだ。


(俺やオルスロンが“狂薬”を飲んだとしても、リアンほど強くはなれず、シュバルトに敗れていただろう。

ボロスがリアンを救おうとしなければ、もしかするとここまでシュバルトを追い詰められなかっただろうな)


「ワシの“狂薬”が世界を救ったんじゃあ!」


「………」


ボロスにはアントーンの言葉が耳に入っていないみたいで、自身の手柄のように“狂薬”の活躍を喜んでいた。


やれやれと、心の中で呟いた時、不意に歓声が上がった。


祭壇の間から2つの人影が見えてくる。


リアンとシュバルトだった。


そして、階段を上がってくるリアンの両腕にはキールが抱えられていた。


「みんな、お待たせ!全部終わったよ」


リアンが無事な様子で安心したが、シュバルトもダメージを負っている様子はなかったのは意外だった。


リアン達がボロス達のところまで歩き着くと、ボロスが疑わしそうにシュバルトを睨みつけた。


「終わった…でいいんだよな?お前さんらが仲良く出てきたはいいが、やけにあっさりしてねぇかい?リアンはお前の『奴隷魔法』とやらで操られてたりせんよな?」


「いいや…わたしの完全敗北だ。安心しろ、もう余計な抵抗はしないよ。……わたしのせいで、大勢の人が死に、この国を混乱させてしまったな」


「本当に申し訳なかった」


シュバルトは、ボロス達…この霹靂の間に集まる全ての国民に対して、頭を下げ謝罪しているようだった。



しかし…


「そんなこと信じられるか!」


「まだ俺達を騙してるんだろう」


「そいつは生かしておくなっ!」


霹靂の間に集まった国民達は口々に叫んでいた。やはり、シュバルトを許す訳にはいかない雰囲気であった。


しかし、見かねたリアンが国民を諭す。


「みなさん!シュバルトはもうみなさんに危害を加えたりしません!信じてください!」


リアンの言葉に、先程まで叫んでいた者達は静かになる。


必死に戦ってきた男が放つ言葉に、みな迷いが生じているようだ。


リアンの一言で、空気に漂っていた殺気が緩和されたようだった。そして、それを後押しするようにアントーンが言葉を続けた。


「この青年の言う通り、もうシュバルトに敵意はない。魔力を見れば分かる。シュバルトの身柄は我々が責任を持って預かる」


「また、悪さしようってもんなら、次は国将二人が相手をするから安心してくれ」


ボロスとアントーンの言葉に人々はやっと安堵したようだった。

数刻前までの殺気はもうない。


「ボロスさん、アントーンさん、本当にありがとうございました…僕は…」


リアンの言葉は最後まで続かずに途切れ、正面に倒れ込みながら気を失った。キールの亡骸もリアンの両腕を離れ地面に着地する──その時──


ボスンっと、柔らかなクッションに当たるような音がした。


いつの間にか、リアンとキールが倒れこんだ地面の上に綿のようなものが敷かれていた。

綿がクッションになったおかげで、体を打ちつけずにすんだ。


リアンは気を失ったように倒れ、そのまま眠りについたようだった。

ほとんど眠らず2日間戦い続けてのだ。戦いが終わったことに安堵して、緊張の糸が切れたようだった。


しかし、この綿のようなクッションは誰の魔法なのか。


「お疲れ!リアン!」


部屋の中央から元気な声がした。意識を失うように眠りについたリアンとは反対に、魔人のほうはお目覚めのようだった。


「おめーさんが寝てる間に、リアンは男になってきたようだぜぇ」


「リアンならやってくれると思ってたぜ!なんてったって俺の親友だからな」


リアンとキールを受け止めたのは、魔人オルスロンの『足場魔法』だった。


さっきまで寝ていたためか、あくびをしながら、リアンの元に歩いてくる。

しかし、シュバルトの姿が目に入り、再び緊張した顔に戻る。


「おぅっ!何でコイツもピンピンしてんだ!戦わずに和解でもしたんか!?」


「どうやらそのようだ」


アントーンは優しく、倒れているリアン達を見つめながら、オルスロンの問いに答える。


「よし!じゃあ、みんな解散だ!アントーンは、大臣達と次将達を軍議室に集めてくれ。まぁ、大体のことはさっきのテレパシーみたいなやつで、みんな状況は分かってると思うがな。シュバルトも来い」


シュバルトはボロスに一礼し、アントーンと共に部屋を出て行った。


「オルスロンは、リアンとキールを丁重に医務室に運んでやってくれや。キールは遺体の保管庫に運んでもらうようにしてくれ」


「分かった」



そして、ボロスは振り返り、国民達に声をかける。


「さぁ、みなさん一時解散だ!ことの顛末は改めてお知らせする。そんで、今日の祭りも当然中止だ!全員ただちに帰宅!」




ボロスの言葉に、みな散り散りに部屋を出ていく。


これからは今回の事件の後始末だ。




戦いは終わったのだ。


この逃亡劇も───






そして、最後に別れがひとつ残っている。

この国を救った英雄との別れが───



続く

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