反則魔女の逃亡記

@murasaki0118

第1話 逃げよう!



「ちょっとどういうことですか!?キールさん!そこら中にキールさんの指名手配の似顔絵が貼られてるんですが!?」


そう叫びながら、リアンはキールの家の戸を開けた。肩で息を切らし、疲弊した様子のリアンに対し、肘掛け椅子に座りながらキールはくつろいでいた。


「おやおや、どうしたんだい?リアンくん?今は授業中のはずだろう?教師が授業放棄とは…保護者達から苦情がきてしまうではないか?」と、キールは冷静に答えた。片手には紅茶の入ったマグカップを持っている。


「いやいや、それどころじゃないっすよ!キールさんこそ学校に出勤してないじゃないですか!?この状況説明してくださいよ!?朝学校に出勤しようとしたら、町の掲示板やら壁にキールさんの似顔絵が貼られているので驚きました…。しかも、結構な額の懸賞金が懸けられてるじゃないですか!?」


「ふむ…。そのようだな。わたしの首がたかだか50万ゼルだとは。安く見積もられたものだ。」紅茶をすすりながら、お菓子の袋を開けようとするキールに再度リアンは質問をした。


「お菓子なんか食べてる場合じゃないですよ!一体何がどうなって、“国将”のキールさんが生死問わずの指名手配犯になるんですか!?しかも、50万ゼルって国王の城2つ建てられる金じゃないすか…」


「昨日、国王の息子をボコボコにして病院に送ってさしあげたんだ。昨日からわたしの担当するクラスに来たんだが、あの小僧…第一声でわたしに“図が高いぞ、魔女”と言ったんだ。それがわたしには“殺してください”と聞こえたから、ちょっと小突いたのさ。ただそれだけ。」

何当たり前のこと聞いてんだコイツと言わんばかりの顔である。

この人の小突きは致命傷になるというのに。


「理由は明らかじゃないですか!」とリアンは叫ぶ。

しかし、キールが非常にプライドの高い女性だということもよく知っており、立場が上の人間を毛嫌いしているフシがあるのはリアンも感じていた。

国王の息子の偉そうな態度が、キールのご機嫌を損ねるのは想像に難しくない。

「と、とりあえず国王様に事情を説明しに行きましょう!話せば分かってくれる…かも」

正直、国王を説得する自身はないが、この状況をなんとかするためにはそれしかない。

しかし、リアンの心配をよそにキールは淡々と言う。

「奥の部屋…見てごらん。実は今朝方、君が来るより1時間ほど前、わたしの家は襲撃を受けていてね。」


それを聞き恐る恐る奥の部屋の扉を開ける。そこには、死体が数体横たわっていた。体の一部が飛散してるものもある。

思わずリアンは尻もちを着いた。


「こ…これは、警護兵の死体ですか…?」

「そうだよ。わたしを討つ刺客を送ってきたんだ。人数は少ないが、どれも手練れだった。恐らく“国兵クラス”だろう。」

遅かったか。


国王には3人の息子がおり、どの子も溺愛していたのは知っていた。

城内では息子達で跡目争いしないように、国王を3人に増やすという話も出ていたほどだ。

その国王の息子に危害を加えたのだ。もうこの国では、キールは犯罪者として処刑されるしか道はないのかもしれない。


「今日にでもわたしを処刑するために他国に遠征に行ってる国将達が帰ってくるだろう。しかし、わたしは逃げる気はないよ。丁度良かったんだ。このままここでわたしを殺しにくる彼らを待とうと思う。さて…どの国将に殺されようかな。」

どこか楽しそうなキールに苛立ちを覚える。キールはもう死の覚悟ができているのだろうか。それとも自分のかつての仲間である国将達との闘いを望んでいるのか。本心は全く読めない。しかし…


「キ…キールさん!」たまらずリアンは叫ぶ。

「リアンくん、今までありがとう。同僚として、君と教鞭を取れたことを誇りに思うよ。君は早く去りたまえ。まだ死にたくないだろ?ここにいると君もわたしの同胞だと思われるよ。」キールはあくまで冷静に答える。

「死にたく…ない!でも、死んでほしくもない!あなたに!」

「嬉しいことを言ってくれるね。」寂しく笑うキール。続けて

「わたしはもうこの国で、国王のために生きるのに飽きてしまってね。国王は息子達のためにわたしだけをこの国に残し、教師として生活させたかったみたいだが、わたしも他の国将達と共に戦場に出ていたかったよ。子ども達に魔法を教えることはやりがいは多少あったが退屈だったね。やはり、わたしは戦場にいるほうが向いている。


君はわたしと10も歳が離れていたが、わたしによくしてくれたね。とても楽しい教師生活だったよ。君は人柄もいいし、多くの人を惹きつける教師だ。君は私と違っていい教師になる。…と、わたしのような犯罪者に言われても嬉しくないかもしれないが。」

まるで、お別れの言葉のようにキールは言ったあと、窓の外に顔をうつす。今の人生に悔いのないような顔。まるでこのまま死んでいく人のような顔だ。


それを否定したくて…どうにかしてあげたくて…少し考えた後、リアンは言う。

「キールさん!僕から提案があります!」

必死な顔で訴える。国王を説得できないのであれは、もうこの手しかない。


「僕と一緒逃げましょう…この国から!」

キールは少し驚いた顔をしてからこう続けた。


「リアンくん…それはおもしろそうじゃないか…!反則級におもしろい!」


意外な答えに返す言葉を失う。

それにしても…「反則」をまさかキールに言われるとは。


「ただ逃げるだけなら、ここで死んだほうがマシだったが、君と一緒なら退屈しなさそうだ。」


キールは生き生きとした顔で言う。

「逃げよう!」


続く

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