俺、可愛い 〜魔族の姫に生まれ変わった俺が可愛くない世界で可愛く頑張るお話〜

@atuma_hira10

第1章

第1話

 目の前には、とても可愛い女の子がいる。



 年齢は10歳くらいだろうか。

 ふわふわの髪の毛に整った顔立ち。

 華奢な体に小さなお顔。

 ガーリーな寝間着がとても似合うお姫様の様な女の子だ。


 俺が笑顔で手を振れば、同じく笑顔で振り返してくれる。

 俺が一歩近付けば、向こうも嬉しそうに一歩近付いて来てくれる。


 なんていい娘なんだろうか。


 容姿だけでなく愛嬌も良いなんて。

 まさに非の打ち所がない完璧な美少女だ。


 そんな彼女を前に、胸の昂りは収えられず。

 更に歩を進めると、同じく彼女も此方へと歩を進める。


 そうして互いに距離を詰め、真正面にまで接近すると真剣な表情で見つめ合う。


 よし行くぞ。


 覚悟を決め、少女の肩ーー硬く冷たい感触に手を添える。

 そして瞳を閉じ、ゆっくりと顔を寄せて行く。


 その瞬間。胸の昂りは最高潮。


 僅かに瞳を開けると、少女の可愛らしい尊顔が視界を占拠する。

 やばい。可愛すぎる。まるでこの世の天使だ。


 こんなに可愛い娘とキスできるなんて。

 今まで善行を積んだ甲斐があったぜ。


 そして俺の念願は叶い、今まさに唇と唇が触れ様とした。

 その瞬間だった。



「何をやっているのですか?」



 抑揚のない声で現実に戻される。



「あっ!クレアさんおはよう!」



 振り返ると。そこには見知った顔がいた。


 エプロンドレスを着込んだ黒髪の美女。

 彼女の名前はクレア。

 俺のお世話係ーー所謂メイドさんだ。



「おはようございます。今日も元気が良い様で何よりです」


「勿論!」


「それより。先程までは何を?」


「チューしようと思って!」


「チュー?」



 呆れた目で此方を見つめるクレアさん。



「うん。朝起きてベッドから降りたら目の前に物凄く可愛い女の子が居たんだ。彼女の反応も良いし、満更でもなさそうだったから、気付いたら体が動いてたよ」



 そう言って。

 少女が居る方向ーー背後を指差しながら説明すると。



「はぁ」



 深く溜め息を吐くクレアさん。心無しか瞳も更に曇った。


 何?その目は何?

 少し。いやかなり怖いんですけど。


 怯えながら戸惑っていると、クレアさんはゆっくりと口を開く。

 そして俺の背後ーー姿を指差しながら。



「いい加減、鏡に写るご自身と接吻するのはお辞め下さい」



 呆れた様に言い放つのだった。



 改めて自己紹介をしよう。

 俺の名前はリリィ。

 この国ーー魔帝国を統一する魔王の1人娘。

 つまりは魔族のお姫様だ。


 そして先程まで俺がアプローチを掛けていた美少女の正体は鏡に写った俺自身。


 そう。俺自身なのだ。


 最初から説明しよう。

 前世:日本で死んだ俺は気付けば異世界に転生していた。

 それも前世とは異なる性別の所謂、TS転生だ。


 その事に気付いたのは3歳の時。


 階段の手摺りに頭を打ち付けた際、前世の記憶が滝の様に流れ込んできたのだ。


 なにコレ?


 直後はとても驚いた。

 だが同時に漫画やアニメの知識も得た事で、自分の置かれた状況を割と簡単に受け入れる事ができた。


 それから7年。


 前世とは異なる性別に戸惑いを覚えた事もあったが。

 人とは慣れる生き物。

 何時しかそんな感情は消え去り。

 気付けば可愛い自分の事が大好きなーー所謂ナルシストと呼ばれる存在になっていた。


 だって仕方ないじゃん。

 あまりにも可愛いすぎるのだから。



「ね、クレアさん」


「はい?」


「今日も可愛い?」



 両頬に指を当てながら可愛らしく聞いてみる。



「そうですね。その自信満々なところがなければ」


「なにそれ〜」



 納得のいかない回答に頬を膨らませながら不満を訴える。



 因みに説明しておくと。クレアさんも俺と同じ魔族だ。


 ぱっと見は只の人族にしか見えない。

 だが額のツノと背中の小さな羽がその証拠。


 彼女の様に魔族は皆な、人族とは異なる身体的特徴を有している。


 にも関わらず俺の容姿は完全な人族。

 ツノや羽などの特徴は一切ないのだ。

 唯一違う点と言えば少しだけ長く伸びた犬歯くらいなモノだろうか。


 何故か俺には魔族的な特徴がない。

 でもそんな事は全く気にしていないのだ。


 だって前世が地球ーー日本で暮らしていた俺にとっては、1番馴染みやすい姿だから。

 むしろツノや羽がある方が違和感が強くて困る。


 てな訳でどうでも良いのだ。



「今日のお召し物は何にしますか?」


「可愛いやつ!」



 そんな事よりも今日の服選びに集中する。


 何を隠そう。俺はお洒落が大好きなのだ。

 なんて言ったって俺の容姿は最上級の美少女。

 これで着飾らないなんて、完全に宝の持ち腐れだ。


 それに前世とは異なり、技術が未発達な今世に於いては、娯楽も少なく熱中できる事が少ない。


 要は暇なのだ。


 その為、例え前世が男であろうと、ファッションや美容に熱中するのは当然の事だと思う。


 クレアさんに寝間着を脱がして貰い、手渡されたワンピースを頭からスッポリと被る。

 今日はお気に入り。お花柄のワンピースだ。

 髪もハーフアップに結って貰い、結び目にリボンを付ける。このリボンが可愛いポイントなのだ。

 そして最後に軽くお化粧をして完了。


 よし。今日も可愛い。とっても可愛い。

 流石はクレアさん。今日も完璧だ。



「クレアさんありがとう」


「どういたしまして」



 姿見の前でクルリと回転し、クレアさんへお礼を述べる。



「着替えも終わった事ですし、このまま朝食になさいますか?」


「うん!そうする!」


「かしこまりました」



 こうして朝の一幕は終わり、共に食堂へと移動するのだった。

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