第2話 ぼうずじゃなくて、ガンちゃん!


 なんだか、お父さんと同じような口ぶりです。


『縄跳びは、集中力で、とぶんだ。足でとぶから足に引っかかっる。手でとぶと、タイミングが狂う。いいか、集中力でとぶんだ。で、坊主はいくつだ?』


『ぼうずじゃないけど、ごさい!』


『5歳は、坊主だ』


『ぼうずじゃなくて、ガンちゃん!』


『はっはっ。い~か?耳かっぽじってよーく聞きな。おまえは、前跳びが跳べるようになるまでずーっと坊主だ』



 その日、ガンちゃんは、悔しくて日が暮れるまで練習しました。


 ガンちゃんが、20回跳べるようになって、おじさんを見ると、


『坊主、まだまだ、練習が足りないぞ』


 ガンちゃんが、40回跳べるようになると、


『坊主、40回で満足してるようじゃ、先が思いやられるわ』


 ガンちゃんが、80回跳べるようになると、


『坊主、やればできるじゃないか? だが、男なら100回を越えないとな』



 ガンちゃんは、日が暮れる頃、とうとう100回跳べました。


 疲れて、よろよろと地面に座りこんだガンちゃんの姿を見ると、おじさんは、言いました。


『やったな、3丁目のガンちゃん、またな』


 おじさんは、ガンちゃんがなわ跳びをしている間、鉄棒にかけてあったカウボーイぼうを手にとると、ガンちゃんの頭にのせて、行ってしまいました。


 歩いて行くおじさんの野球ぼうの上に、桜の花びらがたくさん積もっていました。



 次の体育の時間、ガンちゃんは高杉先生となわ跳び勝負をしました。


 高杉先生が97回でなわを足に引っかけた時、子供たちの大歓声がとまりませんでした。


 これほど誇らしげなガンちゃんの顔を見たのは、高杉先生もはじめてでした。



 あれからガンちゃんは、耳かっぽじおじさんには、一度も会っていません。


 ガンちゃんは、また会いたくて、毎週土曜日と日曜日には、谷中3丁目公園で遊びました。



 1年後、ゴールデン・ウィークが過ぎ、夏が来ました。


 ガンちゃんの通う幼稚園も長い夏休みに入りました。


 ガンちゃんの家は、谷中3丁目公園の隣のマンションの1階にありました。


 だから気軽に隣の公園へ遊びに行けました。


 夏休みの谷中3丁目公園では、子供たちはドッチボールに夢中でした。



 ガンちゃんは、外野から思いっきりボールを投げます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る