第二章 剣聖と黒帝竜

第二十八話 最強のブレイバー

「これで、終わりだ!!」


 斬ッ!!

 と、俺は小太刀で巨大な蜂型モンスター、ホーネットを両断。

 よし、これでこっちは片付いた。

 あとは——。


「クレハ、今だし!!」


「クレハにお任せだ!!」


 と、聞こえてくる飛鳥とクレハの声。

 見ればそこでは、重力により叩き落とされたホーネットへと、クレハがちょうどトドメを刺すところで。


「やぁあああああっ!!」


 ドゴッ!!

 と、激しい音を立ててホーネットを拳により粉砕するクレハ。

 瞬間。


『クエストクリア!』


『報酬として100ポイントを獲得しました』


 なるほど。

 ということは、さっきのホーネットは一匹50ポイントということか。

 もらえるポイントの判定基準は不明だが、美味いことには変わり無い。


 さて。

 話が遅れたが時は日本、多摩境にてフェンリルを討伐してからちょうど二週間後。

 俺はあれから二日ほど身体を休めた後、今日までまた以前と変わらぬ頻度で異世界へとレベル上げに来ていた。


 その理由は簡単。

 もっと強くなりたい。

 飛鳥のように、そして天音を守って魔王を倒す。

 

 橋本ダンジョン攻略という、直近の問題を越えたからといって、そこの根底部分は揺るがないからだ。


 結果。

 俺のレベルは17に。

 天音のレベルは19へと上がっていた。


 そして現在。

 時は昼、場所は異世界——新しく見つけた『ファストトラベルポイント』の側である湖畔地帯。

 俺たちは今日も変わらずレベル上げ中だったというわけだ。

 もっとも、今日は昨日までと違うことがある。


「飛鳥さん、身体の調子は大丈夫ですか!?」


 と、聞こえてくるのは天音の声。

 見れば、とてとてと飛鳥に駆け寄る天音の姿。

 彼女は飛鳥のそばに着くや否や、わたわたとした様子で、彼女の身体をチェックしている。

 それも当然だ。


 そう。

 今日は異世界での飛鳥の初陣。

 要するに、日本で致命傷を負ってからの初めての戦闘なのだ。

 俺だって心配だ。

 故に、俺が飛鳥の返答を待っていると。


「ん〜まだ本調子じゃないかなぁ……『グラビティコア』の出力にかなりの制限を感じるし」


「体調も本調子じゃない感じですか?」


「体調だけなら全然普通だし! 少し前はフラフラしてたけど、今はそんな感じはないかな……うん、日常生活は支障ないってやつ?」


「それならとりあえずはよかったです!」


「というか……うちに聞くの、それ?」


「え、えっと……」


 と、何やら困った様子の天音。

 飛鳥はそんな彼女から、俺へと視線を移してくると。


「この異世界に慣れた? とか、そういうのをまず第一声で聞いてくるのが、あんたの役割なんじゃないの!?」


「え……あ、いや、飛鳥なら適応力ありそうだから、大丈夫かなぁと」


「なによそれ! うちが鈍感とでも言ってんの?」


「違うって! 単純に褒めてるんだよ。それに確かに飛鳥にとって異世界は今日が初めてだけど、それまでに俺の中から見てたんだろ?」


 フェンリルとの戦いの中。

 飛鳥は召喚されてないにもかかわらず、『グラビティコア』により俺たちを守ってくれた。

 これすなわち、見ようと思えば召喚獣は俺を通して外を見れるということに…….。


「ん、待てよ…….召喚獣って、好きなタイミングで俺を通して外を見れるってことは」


 いろいろやばくね?

 いろいろ見られてね?

 例えば——。


「ちょ…….あんたキモすぎだし!! 変な想像しないんで欲しいんですけど! そのくらいの配慮はするし! うちを何だと思ってるのよ!」


 ビシビシ!

 と、チョップしてくる飛鳥。

 とりあえず何はともあれ、この程度のスキンシップが出来るくらいには回復してくれてよかった。

 などなど、俺がそんなことを考えていると。


「なぁなぁ、取得したポイントはどうするんだ?」


 ワクワク。

 と、そんな様子で聞いてくるのはクレハ。

 当然、それはさっきホーネットを倒した時のポイントに違いない。


 持っているポイントは100。


 ちょうどレベルアップ、スキル取得、アイテム取得から選べるポイント数だ。

 まぁここは。


「レベルアップだろうな。天音もそれでいいか?」


「はい!!」


 と、頷いてくる天音。

 そして、俺たちは互いにレベルアップの操作をしていく。


「よし」


 これで俺のレベルは18

 天音が20になったわけだ。


 こうなると、いい加減目を逸らしていたことを考える時が来た。

 本当は危険だからやりたくはないが。


「琥太郎、あたしも自分がどれくらい戦えるか試してみたいです。それである程度戦えたら、次はスキルの取得をしたいです」


 要するにこういうことだ。

 まぁそうだな。


「次に異世界に来た時にやってみるか……それで、次からのポイントはスキル取得に使おう」


「いよいよスキルですか!?」


「あぁ。20レベルで区切りがいいしな。俺も20レベルになり次第、当面はスキルやアイテム取得をメインにポイントを振り分ける予定だ」


「わかりました! 琥太郎が言うならきっと正しいです!」


 キラキラ。

 と、子犬のように見つめてくる天音。

 こうまで信頼してくれるのだから、天音に何かあった際は絶対に守らなければ。

 特に次——天音がモンスターと初のタイマンバトルする際には。


 などなど。

 俺がそんなことを考えていると。


 ピピピピピピッ。


 なり出すのは俺のスマートフォン。

 見れば、画面に浮かんでいた文字は。


「っと、アラームか。今日は昼過ぎに朱奈支部長のところに行くんだったな」


 南大沢支部のブレイバーは、新人を除いて(俺も新人だが)先の戦いで朱奈支部長と俺たちだけと言っていい状態になった。

 故に先日、朱奈支部長が応援を呼んでくれたのだ。

 そして今日はその応援が到着する日。


「顔見せで隊長格は招集って、クソめんどうなんですけど〜」


「アスカは間違ってるぞ! 仲間を知るのは大切なことなんだ! だから、クレハももっとアスカのことを知りたい!」


「それとこれとは話が違うし。小学生じゃないんだから、いわゆる転校生相手に顔合わせしなくてもいいって話……うちとしても強けりゃ文句ないし」


「でも——」


「あ、じゃあスイーツ食べ放題のお店行くし!」


「スイーツ……ケーキか!?」


「うちは今日、異世界での初陣キメたし、お祝いするしかないっしょ! 女子陣三人でスイーツキメるしかないって感じ!」


「クレハ、ケーキ食べたい!」


「ってわけで——」


 ニッコリとこちらを見てくる飛鳥。

 なるほど。

 言いたいことはわかったけど。



 それから少し後。

 場所は日本、ブレイバー協会南大沢支部へと向かう道。


「マジか……」


 天音とクレハ、それに飛鳥はもう居ない。

 理由は簡単、前者二人は飛鳥に連行されてスイーツ食べ放題のお店に行ってしまった。


「まぁいいけど……甘物にはあんまり興味ないし、食べ放題となれば尚更だ」


 ただ問題は飛鳥だ。

 天音とクレハはブレイバー隊の隊長でないからともかく、俺と飛鳥は隊長。

 要するに新顔との顔合わせに呼ばれいるのだ。


「あいつが来ない言い訳、どうしよう……はぁ」


 せいぜい頑張って考えるとしよう。

 幸い、この道は裏道。

 人通りがなく、夜中の治安があまり良くない代わりに、ブレイバー協会へは近道なのだ。


 故に考える時間はある。

 この先の神社を過ぎてしばらく歩いたところに、露店を出している占い師のおばちゃんが居るのだが、彼女に捕まらない限りは時間は余裕だ。


 などなど。

 俺がそんなことを考えつつも歩き、神社の前へと差し掛かると。


「ねぇねぇ、お兄さん! お兄さんってば!」


 ツンツン。

 っと突かれる背中。

 一瞬、まさか占い師のおばちゃんかと思うが、ここは彼女のテリトリーではない。それに声が若くて全然違う。

 ではいったい誰だ——俺は立ち止まり、振り返ってみるとそこに居たのは。


「キミにちょっとお願い事があるんだけど、いいかな?」


 茶色の髪を肩辺り——ミディアムロングに伸ばし、胸以外健康的な体つきをした愛くるしい少女。

 細長い袋に入った何かを手に持ち、俺と同じ学校の制服を見に纏ったその少女。

 そんな彼女は八重歯を可愛らしく輝かせながら、俺へとさらに言葉を続けてくる。


「実はボク、今すっごい困ってるんだけど……お願い! 助けて〜!!」


「困ってるって、どうしたんだ? 内容にもよるけど出来る範囲でなら助けるけど」


 ブレイバー協会での用事の時間までは、まだ少しある。

 この少女の質問に答えるくらいはできる。

 いずれにしろ、時間だからとここでこの少女をスルーすれば、後から確実に嫌な気分になる。

 助けない選択は百害あって一利なしだ。


「ほんと!? わぁ〜、キミって優しいね!」


「とはいえ、あんまり時間があるわけじゃない。悪いけど手短に頼む」


「あーうん、ごめんね! すぐ終わるから大丈夫!! それでね、ボクの困り事なんだけど——」


 瞬間。

 俺を襲ったのは圧倒的な死の気配。


 フェンリルなんて目じゃない。

 あれが小物に思える圧倒的な殺意。


 全身の汗が吹き出る。

 意識が飛びかける。


「っ!?」


 気がつくと、俺は全力で後ろに飛び退いていた。

 殺意の元凶たる目の前の少女から逃れるために。

 すると。


「うわっ。すごい……今のを避けるんだ! だいぶ手加減したけど、うん……本当にボク以来の逸材かもね!」


 太陽のような笑顔で言ってくる少女。

 彼女はいつの間にやら右手に剥き出しの刀を、左手に鞘を持ち言ってくるのだった。


「ボクの困り事は簡単だよ! キミの実力が知りたいんだ!」




——————————————————

あとがき


というわけで新章です。

本日はP○ネットワークが障害起こしているので、上げる予定なかったのですが上げました。

僕と同じく暇に苦しむ方のためにあげようと思ったしだいです。

皆さんの苦しみを軽減できたら幸いです。


さて。

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