第41話 毒の治療
バーランダーの町に着いた私達は、思った以上に暗い雰囲気に驚きながらも、病気で苦しむ子供を助けることにした。
白衣の男性……イシヤさんはお医者さんだったようで、「薬を用意できるかも」って説明して彼の運営している診療所に案内して貰うことに。
そこではたくさんの人が床で横になっていて、苦しそうに呻き声を上げている。
「薬が足りないって言ってましたけど、ポーションはもう飲ませたんですか?」
「ああ、しかし回復ポーションはあまり効果がなくてな……一時的に良くなるのだが、すぐにまた悪化してしまう」
回復ポーションで一度は回復するけど、すぐにまた悪くなる、かぁ。
なら持続ダメージ系……普通に考えると、毒?
「なら、解毒ポーションを飲ませてみましょうか」
「む? いやしかし、解毒ポーションは病には……」
「試すだけならタダです。ちょっと待っていてください」
「いやタダではないと思うが!?」
叫んでるイシヤさんを余所に、私はプルルに素材を出して貰う。
薬草系の素材なら、ファームで育てられるものは全部ララのところで育ててるから、プルルの《収納》スキルの中に入ってる。
“薬草”それから“毒消し草”、この二つで解毒ポーションを作れるんだ。
「準備出来ました!」
完成した解毒ポーションを持って、苦しむ子供の下へ向かう。
祈るような眼差しの母親の前で、私は解毒ポーションを使用して……すぐに、効果が現れた。
「うぅ……」
「っ、コウタ、大丈夫!? ああ、良かった……!!」
一気に顔色が良くなった子供を見て、母親も歓喜の涙を流す。
「バカな、本当に解毒ポーションが効いたのか!?」
「ありがとうございます! 本当に!」
「気にしないでください。それより、効果があるならどんどん作っていきますから、元気な人で配っていって貰えますか?」
「ふぅ……分かったわ、やりましょうか」
というわけで、私がじゃんじゃん解毒ポーションを作っている間に、ミレイさんやイシヤさん達にそれを配って貰った。
そうして、一通りの病人が元気になったところで、イシヤさんと話し合うことに。
「改めて……この度は私の患者達を助けてくださり、ありがとうございました。あなた方がいなければ、どれほどの犠牲が出ていたことか……」
「困った時はお互い様ですよ、気にしないでください」
何度も頭を下げるイシヤさんに、私も改めて大したことじゃないって伝えようとしたんだけど……そんな私を制して、ミレイさんが会話の矢面に立った。
最近は私に任せてくれることの方が多かったのに、どうしたんだろう……?
「私達も、自分の役目を果たしただけですから、大丈夫ですよ」
「役目、ですか……そういえば、あまり見ない顔ですが、あなた方は一体?」
「私達は、アクアレーンからこの町の状況を確認してくるようにと派遣された者です」
「ふえ?」
派遣? いや、私達はお呼びがかかって来ただけで、別にカルロスさんが派遣したわけじゃ……と思ったんだけど、ミレイさんは「私に任せて」とばかりに小さくウインクする。
何か考えがあるみたいだし、ここは黙っておこう。
「なんと、そうなのですか!?」
「ええ。私は単なる護衛ですが、この子はマナミ・アクアレーン……アクアレーンの町をS級モンスターの脅威から救い出し、“海の聖女”と呼ばれるようになったお嬢様なんですよ」
ちょっ、ミレイさん、私別にお嬢様とかそんな立場じゃないよ!? アクアレーンの苗字も、単に借りてるだけだし!
けど、イシヤさんにとってはよっぽど嬉しかったのか、「おお……!」と感激の涙を流した。
「それほどの方が来てくれたのでしたら、この町も救われる! ありがとうございます!」
「あはは、どういたしまして……?」
手を握られた私は、愛想笑いで何とか誤魔化す。
その後、ミレイさんと一緒に診療所を出た私は、周りに誰もいないことを確認してから問い掛けた。
「ミレイさん、どうして派遣されて来た、なんて嘘を吐いたんですか?」
「……やっぱり、どうにも怪しいのよ。病じゃなくて毒だったってことは、生活用水か何かが毒で汚染されてるってことだと思うんだけど、それをあの男が見抜けなかったとは思えない……このタイミングで私達を呼び付けた理由も分からないし、ここはせっかく手に入れた後ろ盾の使い時かなって」
保険みたいなものよ、とミレイさんは語る。
ミレイさんが一体何を警戒しているのか、その核心部分についてはよく分からないけど……これだけ大勢の人が苦しんでいる原因に気付きながら、敢えて放置したんじゃないかっていうミレイさんの予想が正解なら、とても許せない。
「ミレイさん、行きましょう」
「行くって、どこへ?」
「バーランダー家のお屋敷です! 何を考えているのか、直接確かめましょう!」
呼ばれて来たんだし、まずは乗り込んで反応を見るっていうのは悪くないと思う。
そんな私の意見に、ミレイさんも頷いた。
「そうね、もし私の考えすぎだったとしても、何かしら情報は手に入るだろうし……行ってみましょうか」
「はい!」
こうして私は、ミレイさんの実家に乗り込むことになった。
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