Gの戦略

きゆー

第1話 人間

 ―僕は初めて知った。僕たちは嫌われているということに―


 「祥太郎兄さん、今日は初めて人間を見れるんだね」

「そんなに慌てるなよ、三二郎。僕たちゴキブリからしたら人間は巨人みたいなものなんだからな。冷静にいかないと、と姉さんが言っていたぞ」

「分かってるよぉ。でも、楽しみだね」

 この時はまだ人間というものを知らなかった。これから初めて弟の三二郎と共に人間を見に行くのだ。

「それじゃあ、行こうか」

「うん!」

 嬉しそうな顔でこちらを見て三二郎は微笑んだ。




 姉さんから聞いていた目的地へ着いた。

「「おー!」」

 三二郎と口をそろえて叫ぶ。初めて人間の世界を見た。色々なものが大きくてそれになによりも明るかった。素晴らしいと思った。

 僕たちが初めて見る人間は、忙しそうに小走りをしている女の人だった。予想以上に人間も大きかった。

「兄さん、僕、もう少し近くで見てくるね」

 きっと隣で自分と人間の大きさを比べたいのだろう。しかし、心のままに行動したら危険だと姉さんに言われていた。

「待て、急ぐんじゃない」

 そう言ったのに三二郎は行ってしまった。

 あの時、三二郎の腕が千切れようと引っ張って止めるべきだったと思う。

 

 ―グチャ

 

 その音と共に目の前で三二郎は潰された。

 新聞紙といっただろうか。それを丸めたやつに潰された。そしてそのまま包み込まれて消えてしまった。

「さぶじろぉぉー」

 潰された弟を目の前にして、僕は大声で叫んだ。

「兄さん、祥太郎兄さん」

「えっ?」

 微かに、ほんの微かだが、声が聞こえる。

「幸せに、生き…て」

 間違いなくそれは三二郎のものだった。

 新聞紙の中からか細く聞こえる弟の声。そして出発前に微笑んだあの顔が脳裏によぎる。

 何故、あの時止められなかったのか。止める方法はいくつもあったはずだ。なのに、なんで。

 その場で僕は約一時間ほど立ち尽くしていた。



 僕は結局どうすることもできず、家へ帰った。家へ帰るまでの間も何も考えることはできなかった。

「姉さん…」

 家へ帰ると姉さんが待っていた。

「おかえり~。遅かったね。あと、帰ってきたなら、ただいまくらい言ってよね」

 笑顔で僕を見る。

「あれ、三二郎は?」

 姉さんの顔を見て一気に感情があふれてくる。どんなに頑張ろうと、涙が出てくるのは止められなかった。

「どうしたの、その顔。それに、三二郎は。一緒じゃなかったの?」

 僕は何も答えられなかった。過呼吸になりながら姉さんに支えられる。一人で立っていられなかった。

「まさか、殺されたの?」

 僕は頷くだけしかできなかった。姉さんの動揺した声。そして、泣いているであろう姉さんの顔が見えた。

 僕は絶対に今日の出来事を忘れないだろう。

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