第32話 蛇足① ロイド
「お前、もう怪我は平気なのか?」
「肯定。完治しました」
そういつもと変わらぬ口調で話す黒髪の男、ロイドは剣を腰に下げたまま、腕を後ろに組んで俺の前に立っている。
今日の訓練は休みなのだが、どうしてもやりたいことがあり、付き合ってもらっている。
「それにしてもよく殺されなかったよな、お前」
『狂人』との戦いで瀕死の重症を負ったロイドは、しばらくの間寝たきりだった。
俺が心配して見に行ったときは、まだ目覚めていなかったのだか、目を覚ましてからは凄い速度で回復していった。流石は吸血鬼といったところだろう。
「再戦。次は負けません」
「また挑むつもりなのかよ……」
ロイドはもちろん強いのだが、正直クラリスの方が遥かに強いだろう。あの夢を通して、彼女の強さはハッキリと分かった。
「お前に勝つくらい強いって、あいつ本当に人間か?」
俺の中での人間の基準がヘルドなのだが、そのヘルドはロイド達に瞬殺だった。それに、吸血鬼は人間よりも身体能力が高い。そこから考えてもあの強さはやはり異常だ。
「疑問。確かにあの強さは尋常ではありませんでした。ですが、紛れもなく人間かと」
「そうか……」
ということは素であの強さってことか。ソルヴァと同程度だとすると、いよいよ化け物じみている。
「思案。もしくは、何か固有魔法を持っている可能性もあります」
「固有魔法かぁ」
自己強化の固有魔法があるとすればあの強さにも納得がいく。
「羨望。だとすれば少し羨ましいですね」
「まぁ、そりゃあれば強力だしな。でも、持ってなくてもお前は十分強いと思うぞ?」
「……?」
「な、なんだその顔」
「否定。私は固有魔法を持っていますよ」
「え?」
ロイドが固有魔法を持っているなんて話を1回も聞いたことがない。それに、それを使っているのも見たことがない。
ということは持っていて負けたということか?
それとも何か条件が厳しくて使えなかったということだろうか?
「ち、ちなみにどんな能力なんだ?」
「予測。その日の天気を知ることができます」
「天気って……あれってお前だったのかよ!」
以前にフリードがしていた話が甦ってくる。不死に念話は、フリードとメアだと聞いていた。その中で、天気予報の能力もきいたのだが、それが誰のものかは言っていなかった。
それがまさかこんな形で知ることになるとは。
「でもそうか、それなら戦闘向きじゃねぇよな……」
日常生活では相当に便利なのだが、それを戦闘に活かせることは出来なそうだ。
「肯定。ですが、この世界の悪天候はかなり危険なのでこの能力には何度も助けられました」
「あー確かに……この世の終わりみたいな天気の時とかあるからな」
屋敷の中から雨が降っているのを何度か見たことがあるのだが、それはそれはとてつもない天気だった。
雨は銃弾みたいだし、雷も物凄い頻度で落ちてくる。しかもそれが中々止まないのだ。相当にタチが悪い。
「修正。話はここまでにして、訓練の続きをしましょうか。まだ魔力はありますか?」
「ああ、あと1回はできそうだ。避けられるなら容赦なく避けていいからな」
こうして、ロイドとの魔法特訓が再びスタートしたのだった。
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