第8話 街散策
「おおっ!これめっちゃうまいな!」
寿司屋(レストラン)を後にした俺たちはぶらぶら街を散策していた。その中で俺は焼き鳥を買い、こうして歩き食いをしている。
え、さっき寿司を食べたよな?なんてことは聞かないで欲しい。匂いにつられてしまったので仕方がないのだ。
ん?何やら視線を感じる。横を見るとティアが俺を、いや、俺の手に持っている物を凝視していた。
「……食うか?」
そう言うと、瞬時に奪い取り食べてしまった。そう、まるで飢えた獣のように一瞬で、だ。
「そんなに食いたかったなら、俺と一緒に買えば良かったじゃねぇか。」
「こうやって人に貰って食った方が数倍美味しいんだよ」
串をひらひらさせながら言ってくるのでムカつく。俺の金……って訳じゃないからまぁいいが。
今、俺が所持している金はフリードの金だ。街に出かけるって言ったらくれたのだ。ただし、現金ではない。このクレジットカードのような板だ。というか機能的には間違いなくクレジットカードだ。これまた店に置いてある板にかざすだけで決済が完了する。なんと現代的で便利なのだろう。
てか、吸血鬼の王がキャッシュレス決済してるとか想像するだけで笑えてくるな。なんなら買い物してるだけで笑える。
「それにしてもここら辺は人多いな。ん、なんだあれ?」
目に付いたのは屋台の出店のようなもの。人が的に向かって魔法を放っている。
「おぉ、なんか射的みたいだな」
「あれはここら辺だと、結構人気の出し物ですねぇ。特に子供達がよくやってます」
「的に魔法を当てて景品を……って感じか。こっちでも考えることは似るんだな」
景品は見た感じだと、おもちゃの剣や人形だ。本当に子供向けらしい。
「でも、今の俺じゃ魔法をあんなに真っ直ぐ撃てないから馬鹿に出来ねぇな、はは」
パッと見で6歳くらいに見える子供だが、的に向かって炎の塊を撃ち込んでいる。凄い簡単そうに見えるのだが、やってみると難しいことはよく分かっている。
「そういや、2人ってどんな魔法使えるんだ?シャロが回復魔法ってのはよく知ってるけど」
「そうですねぇ、シャロは回復魔法の他に氷と水、あとは雷ですかねぇ」
そう言って目の前で雷をバチバチさせて見せてくる。うまく扱えない俺への当てつけだろうか。くそ、早く習得しなければ。
「アタシは火と土だな。でも正直、練習とかちゃんとしてないから料理に使ったりするくらいだぞ?」
「なるほど、な。……もしかしてだけどフリードの奴ってめっちゃすごい?」
「凄いなんてもんじゃないぞ。全ての属性を扱えて、尚且つ固有魔法も持ってるなんて他を探してもまずいないだろうな」
「彼の名前は大陸の向こう側にいっても知らない人はいないくらいですからねぇ」
そんな凄い奴に教えてもらっても中々伸びない俺って一体……
やめだやめだ。そう悲観的になるな、俺。あいつの因子があるならそれなりに強くなれるはずだ。
でも実際今の俺の強さはどのくらいなのだろうか。対戦相手はまだフリードだけだ。仮に、あの平原のカマキリと戦わされたとしたら果たして勝てるだろうか。
うーん。無理な気がするな。
第一怖い。今はフリードが手加減してくれてるのが分かる。それに絶対に死なないということもだ。もし、命のやり取りをすることがあるなら、俺はきっと動けないだろう。
「はぁ、頑張らなきゃ……」
「まぁそんなしけた顔すんなって。あんな化け物と戦ってるだけでもすごいんだからさ」
「そんなもんかねぇ。俺にはあいつに手が触れる未来が見えねぇよ」
「あっ、それならあそこ行きませんか?あの有名な占い師の」
「あぁーあそこか。たしかにせっかく街に来たんだから行った方がいいかもな。よし、行こうぜイスルギ」
「あ、ちょっ、待てって」
こうして俺は占い師の店に連れて来られた。さっきの口ぶりから有名そうなのだが、あまり人がいないし、店もこじんまりとしている。店の周辺は薄暗く、輩がいつ出てきてもおかしくないくらいだ。
「いらっしゃい。おやおや、3人の内の誰の何を占って欲しいんだい?」
おお、想像どおりのテンプレセリフだ。
「こちらの方をお願いします」
「あ、ああ。よろしく、です」
「ふぅん。まぁいいだろう。そこに座りな」
「あっはい」
言われたとおりに座る。机を隔てて占い師と対面しているのだが、ローブで顔が隠れている。
「それで何を占おうか」
「えっと……逆に何が占えますか?」
「そうだねぇ、どんな障害がこれから訪れるかとかかねぇ。後は将来どれくらい女ができるかとかも分かったりするよ」
「じゃあそんな感じでお願いします」
「では始めようか。こちらの目をじっと見つめな」
そう言ってローブを少しだけとると、中から青い目が覗きこんできた。海のように青い、その目が俺の意識を飲み込んでくる。
深く、深く引きずり込まれそうな程のその青い目に俺は一瞬、我をうしなったのだが、
「はい、おしまい。」
その声にハッと意識を取り戻した。
「え、もうですか?」
何か、もっとこう見通す時間があると思ったのだが、ほんの数秒で終わってしまった。
「ふぅ、、結論から言おうか。アンタを見てもあまり分からなかった。」
「え?」
「なんでかは分からないがぼやけて、フィルターがかかったかのように見れないんだよ。」
そう聞いてどきりとする。思いあたる節はある。もしかすると俺が異世界から来たことが関係しているのだろうか。
「分かった範囲で教えようか。まずは近々、大体1年以内だね、その間にアンタにとっての障害が2つ現れるだろう」
「俺にとっての……障害……」
「普段ならそれがどういった系統かまでは分かるんだけどねぇ、それ以上は分からなかった」
「そう、、ですか、、」
「で、次は女運の方なんだが―――」
そう聞いた途端、俺は体勢を立て直す。何せこれは俺の異世界ライフの中で割と重要な部類に入る。多くは望まない。
一人だ、頼む一人さえいれば―――
「ゼロ、だったね」
「なん……だと……」
あまりにショックを受けてしばらく放心状態が続く。なせならば俺はまだ童貞だ。女の子と付き合ったのだって中2以来1度もない。それでも、それなりの結婚願望は持っていたのだが、今その希望は潰えてしまった。
「ただ不思議なことにねぇ。これもぼやけてるというか、なんというか。揺らいで複数人に見えるときもあるんだよ」
「え、」
「こんなことは初めてだよ。もしかすると、これからアンタ次第で相手が変わるかもだね」
「……そうですか」
俺次第か。今のままだとダメだということだろうか。俺は変われるのか?
そんなことを考えながら俺らは館を後にした。
「ははっ、ゼロってすげぇ可哀想だな」
ティアが俺のことをニヤニヤしながら見てくる。
「馬鹿にすんじゃねぇよ!まだ決まった訳じゃないからな!って、そういえばこの世界の結婚とかってどうなってるんだ?」
「あー、割と自由だぞ。一夫多妻もあれば一妻多夫もあるし、逆にお互いに一人なんてこともある。まぁその場合、男が奴隷を愛人にしてることが多いけどな」
「奴隷に愛人って……。なんかエグイな」
奴隷という言葉が引っかかる。今度フリードに聞いてみるか。中々にキツイ内容である可能性が高い。それを女の子の口から聞くのは流石に憚られる。
そう考えながら歩いていると、ふと後ろから声をかけられた。
「よう、兄ちゃん。そこの女2人は愛人か?」
「へへっ、こんな可愛いの中々いないですぜ」
「それに男の方も顔は悪くないぞ」
そう言いながら、汚い風貌をした、おそらく熊系統の獣人3人がにじり寄ってくる。
「よし、3人まとめてブチ犯してやる」
「うわぁテンプレ……え?」
今こいつなんて言った。2人はまぁ分かる。3人?え、おれ?
「兄ちゃんは少し筋肉がありそうだから、それはそれで楽しめそうだな。へへへ」
冗談じゃない!まだした事ないのに逆にされるなんてギャグだろ!キスだけで十分だ。それにこいつら体とか洗ってなさそうだ。見るからにばっちぃ。
とは言え、俺を抜きにしても2人が犯されるのは看過できない。逃げるか?いや、追いつかれるかもしれない。俺だけなら何とかなるが2人はどうだ?
靴を見た感じ走りにくそうだ。
それなら―――
「2人とも、俺がここで足止めするから一気に大通りまで逃げてくれ。俺は後から追いつく」
「ダメですよ!いくら何でも3対1は無茶です!」
「そうだ!アタシは足でまといかもしれないけど囮くらいなら―――」
「バカか、女の子囮にして俺だけ逃げるなんざゴメンだね。ただでさえ、さっき女ゼロ宣告食らったんだ。だったら女の子の前でせめてカッコつけなきゃだろ。いいからいけ」
負けたら男としての尊厳を、身も心も両方とも失うだろう。だがしかし、ここで戦わなければ俺はいつカッコつけるんだ?
シャロには毎日のように回復魔法をかけてもらい、ティアには毎日ご飯を作ってもらってる。なら俺は……
「上等じゃねぇか。どんくらい通用するか分かんねぇけど、やれるだけやってやるよ」
そう啖呵をきって、左手首を右手で押さえ、腰についている切れない刀を構える。
よし集中だ。いつものようにやればいい。怖くは無い。
刀に電気が宿る。
「よし、さぁしょうぶ―――」
「否定。その必要はありません」
「あ?」
声の場所を探ると、上から黒髪の男が降ってきた。
「護衛。私はあなたを守る立場です。危険ですので下がっていてください」
「ばっ、おまっ、どこからっ!てか、俺のカッコイイ活躍の場は!」
「否定。無理に戦う必要はありません。下がっていて下さい」
そう言うと、この憎たらしい男、ロイドはあっという間に素手で相手を制圧してしまった。
「助かり……ましたね」
「こんなのが護衛って、吸血鬼の王も過保護だよな」
「ちっ、くそ……」
情けなさと敗北感に否が応でも襲われる。
「ま、まぁ命あっての物種っていいますし、それにシャロ達を真っ先に逃がそうとしてくれてありがとうございました」
「そ、そうそう。ありがとな、イスルギ」
気を遣ってくれてるのが分かって、より一層惨めになる。心の奥底からドス黒い感情が漏れだし、ふつふつと煮詰まっているのが分かる。因縁の相手に助けられたという事が俺の胸に深く突き刺さる。
「ふぅ、これは俺の心の問題だ。落ち着け、冷静に、だ。……よし」
過去を考えるより今を重視するべきだ。少なくとも俺はそう思う。だから―――
「あー、あれだ。一応助けてくれた礼は言っておく。……ありがとな」
「肯定。どういたしまして。ですが、これは仕事ですので―――」
「だぁぁ!分かってるって!一応だからな、一応。それ以上の意味なんてねぇから!」
こうして俺の約半日の街散策は、少ししこりの残る形で終わったのだった。
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