かみつく(でも離す)

大滝のぐれ

1



   ●


 どこかへ落ちているような気がした。でも見える景色に変わりはない。見慣れた自室の天井の木目。蛇や魚、その他生きもののようにも見えるそれが、僕のことをじっとにらんでいる。遠くで誰かの声が聞こえる。僕はそれを無視する。

 わかっている。別に体が落ちていることはない。ただ、昼寝をしていただけだ。六月にあった最後の大会に負け部活を引退したのを機に、僕は高校受験のため週三で塾へと通うことになった。だから、それまでの時間でこうして昼寝をしている。部屋着になるのもベッドに入るのも面倒くさくて、ほこりがつくのも構わず制服のままで床に寝そべっている。

 とにかく、疲れていた。部活をやっていたときよりも疲労の色は濃い。理由は明白だった。バスケは自分で選び取ったものだったが、勉強は違う。後者のそれを選ぶか選ばないか、という選択肢はそもそも与えられていない。やらなくては、積み上げなくては、生きていくことも自分の希望するものをえり好みすることもままならない。僕たちはそういう生き物だ。みんなわかって勉強をしているし程度の差はあれど真剣でいるし、そうすることで世界を回している。軽口を叩きながら泣き言を吐きながらがんばろうねと励まし合いながら、足元に広がっている大きな穴を見ないようにして歩いている。それはただの黒くて丸い空間ではない。粘液にまみれたその表面には皮膚の肌理きめのようなおうとつがあり、生きもののようにうねうねとうごめいている。


「あんたいい加減にしてよ、そうやってなまけて。志望校落ちたらどうすんの。必ず行けるわけじゃないんだからね、落ちることだってありえるんだからね。危機感なさすぎ、もっと死にもの狂いで勉強しなさいよ」


 先ほどからずっと無視していた母の怒鳴り声が、一段大きくなって耳に届く。そう、わかっている。穴なんて実際には存在しない。ただの妄想だ。でも、床に寝そべっている僕の足元に、その黒い空間はたしかに口を開けていた。生きもののようにうごめきながら、それは体に力が入らない僕の周りをうねうねと回っていた。


「あんた、聞いてるの。落ちるときは落ちるのよ、しゃきっとしなさい」


 高校受験に失敗した僕。特に行きたいとも思っていないすべり止めの私立に通う僕。それにすら落ち、働き始める僕。働くこともできずに天井を見ながら寝そべり腐敗していく僕。母の声はあらゆる最悪の未来を僕に想像させた。が、それはどれもぼやぼやとしていて、はっきりとした像を結ばない。


「もうすこししたら夏休みで、そのあとは夏期講習でしょ。みんな頑張ってるの。必死で食らいついているの。気を抜いたらあっという間に置いていかれるよ」


 うん、わかってる。そう言いながらも、僕は起き上がることができない。落ちていないのに、体が強い重力によって床へぬいとめられているかのようだった。かろうじて自由のきく目玉を動かすと、椅子の足にもたれかかった通学かばんが目に入った。そこには学校経由で受けた模試の結果と、つい先日行われた学期末テストの答案の一部が収められている。A判定B判定A判定。九二点八九点九五点。帰宅してすぐ、母に公開した紙切れたち。

 こちらをのぞきこんだ彼女の不機嫌そうな顔が視界に割り込む。小脇には、この部屋の本棚に収まっていたはずの漫画本がいくつか抱えられていた。どうやらそれを持ち出すためにこの部屋へ入ってきたらしい。


 本当にいいかげんにしなよ、まったく。そんな捨て台詞と共に母は部屋を出ていく。階下へ遠ざかっていく足音が完全に消えたのを確認してから、大きく息を吐き出す。体の中に、ぬるくてねっとりとした気持ちが染み出してくるのがわかった。それを解放するように、おもむろにスラックスのベルトを外す。衣擦れの音が、足先へとずり下がる。目を閉じ、あらわになった張りつめた場所を強く握る。辺りをうごめいていたあの穴はもう見えない。でも、見えなくなっただけだ。

 顔にじんわりと汗が浮かび、手の動きが早まる。吐息が床にべったりと広がる。僕は名前を呼んだ。頭の中に浮かんだ、けっしてこちらを振り向くことのない人の名前を。



   ●


「ユウリ先生、頼むから授業してください」

 手狭な塾の教室。長机を挟んだ向こうで、ユウリ先生は頬をかいて呆けた顔をした。

「いや、してるじゃん」

「してません。今自分がなんの話してたか覚えてないんですか」

「いや、なんのことだか」

「この前のゼミ飲みの話ですよ。解散した後、先生は駅で道行く人に片っ端から絡んで」

「わーったやるからやるから」

 中断していた宿題の答え合わせが再開される。香水だろうか、なにか果物のような甘いにおいが彼のほうからふわっと香る。プリントの英文の上をペンがすべるたび、日本語に訳された内容が、解説と共にするすると彼の口から放たれていく。ポロシャツの襟が巻きついた首元はすこし赤くなっている。肌荒れか虫刺されだろうか。少なくとも先週の授業のときにはなかった。でも、僕はそれを先生に質問することはない。彼自身がなにか言ってくることもない。


「ほら、ぼうっとすんな」

 いつの間にか視線がかち合っており、今度は僕のほうが慌てて答案へ向き直った。落ちていくような感覚がしたあの日から、もう二週間が経過していた。もちろん今日も僕は自室の床で『昼寝』をしていた。別に今に始まったことではない。それは自分の気持ちを自覚してしまった半年ほど前からずっと続いていて、もはやなんの罪悪感もいだかない行為になりはてていた。

「キャサリンはジェシカに夜の八時に焼き上げたレモンパイを届ける予定だった、でもそこでそれを入れる箱がないことに気づき、さらに祖母から電話がかかってきてしまって、あ、レモンで思い出したわ。ちょいまち」

「ちょっと、塾長に言いつけますよ」

「それは勘弁! すぐ済むから! 今渡さないと忘れそう」

「早くしてくださいよ」

 でも、だからこそ、僕は素知らぬ顔で笑うことができる。自分のリュックを探るために背中を丸めた先生は、ややあって手にぎりぎり収まらないくらいの大きさの袋をふたつ取り出してきた。中には透明な液体にひたった、緑色をした果物のようなものが入っている。なんですかこれ。そうたずねようとする。


「なんすか、これ」


 瞬間、隣から低い声がして、ようやく僕は自分の隣に人が座っていたことを思い出す。いや、本当は最初から意識の隅には置いていた。一緒に授業を受けているのだから当たり前だった。

「青桃のシロップ漬けだよ。昔は家で作ってたんだけど、じいちゃん死んじゃってからは作ってなくて。この前さ、おれ実家に帰ってたじゃん。そのときに売ってるの見つけて。懐かしくて買っちゃった。あげる」

「そうすか。ありがとうございます」

「ん、マコトこういうの嫌いだった?」

「い、いやそんなことないっすぜんぜん。好きっす。たくさん食べます」

 そう、よかった。ほほえむ先生の視線を受けながら、マコトはやたら俊敏な動作で袋を自分のかばんへしまった。


「あ、あの、うちもおんなじ感じでした。父方の祖父母が長野にいて、趣味程度ですけど桃作ってて」

 袋をかばんへ放りこみながら、僕は思い浮かんだ言葉をふたりの間へ割り込ませた。それと同時に、記憶の中の風景が頭の中に立ちのぼる。じっとりと水分を含んだ空気。鋭い日差し。揺れる桃の木々の葉や枝がつくる木漏れ日。草と土のにおい。軍手に包まれた手によってもぎられてはかごに投げ込まれる、未成熟の果実たち。そういえば、僕はあのとき。


「ふーん、で、ケンタくん、授業はいいのかな」

「あ、えっと」

「そうだよケンタ、お前は頭いいしA判定出てるからいいだろうけど」

 ふたりの言葉へ交互に気恥ずかしさといらだちを感じていると、先生の解説が再開された。隣に座るマコトが、深刻そうな顔で答案と向き合っている。そこには、僕のノートにはあまりない赤いチェック印がいくつも踊っていた。え、マコト本当にここ受けるの? もうすこし下げても……。いや、ここに行きたいんす、行かなきゃ終わりなんすよ。塾に通い始めのころ、ふたりがそう話していたことを思い出す。


 僕とマコトは親同士の仲がいい。幼稚園も小学校も中学校も息子である僕たちが一緒だったせいかなにかと会う機会が多く、それで意気投合したらしい。だから塾も一緒に受ければいいじゃない、ということで、ユウリ先生の英語はこのように同じ教室で受けていた。個人指導をうたってはいるが、三人までだったら同時に受講でき、なおかつひとり頭の金額が安くなる。財布を握る親にとっては魅力的な話だったのだろう。

 が、僕たちのほうはそれとは対照的に微妙な関係だった。仲はよくもないし悪くもない。昔からなにかとセットで行動させられることは多かったが、水に対して向けるような気持ちしか僕たちの間にはなかった。選ぶ選ばない、好きか嫌いかのような概念が、そもそもないもの。だから、今までになにかをわかちあったり、同じものを見て心をふるわせたり、という経験はしたことがなかった。


「まあ、ぜったい受かるなんて無責任なことは言えないけどさ、頑張ったことはマイナスにはならないからな。大丈夫、ぜったい大丈夫。俺だってこんな感じだったし」

「あ、ありがとうございます」

 でも、だからこそ、ここにきて僕たちは初めて同じ気持ちをわかちあっている。この大学生アルバイト、先生としてここにいるユウリという名前の男が、どうしようもなく好きである、という点で。気づいているのは僕だけかもしれない。でも、どうしようもないほどにわかってしまう。僕が先生と話しているとき、頭に浮かぶ俯瞰した自分の姿。それと、今のマコトの立ち振る舞いはほぼぴったり重なっていた。


 先生の腕にいつもある大きな絆創膏。その先についたてのひらが、彼の黒髪にぽすんと埋もれる。あ、あの。ただの照れとは違う、もっと熱をはらんだ声をマコトがあげる。先生の表情が変わることはない。邪気も湿気もない笑み。そこからなにかを読み取ることはできない。都合のよい妄想はいくらでもできる。でも、それはどこにもたどり着くことはない。


「まあ、追い込みすぎるなよ。高校受験だったら望まない結果になっても、まだリカバリーきくから。信じられないかもだけど」

「信じられないすよ」

「ぼ、僕もそう思います」

「はは、そうだよな。おれもそう思ってたよお前たちぐらいのころ。でも、肩ひじ張らないくらいの気持ちで充分なときもあんだよ」

「そうなんすか」

「あ、で、ですよねー。先生もそう思」

「ケンタくん。別に勉強しなくていいってことじゃないからな」

 僕の言葉はやんわりと否定された。英文をなぞっていた彼の赤ペンが、いつの間に机のきわに転がっていっているのが見える。マコトが、かすかにため息をついた。


「でもなあ。どうにもならない、でもどうにかしないとやっていけないってときはまあ、くるんだよなー」


 ペンを拾い上げ、先生が答え合わせを再開する。垂れ下がる前髪がその表情を覆い隠す。彼の腕の絆創膏を見る。首元の荒れとは違い、これは最初の授業のときからある。その下を見たいと僕は思う。どうしようもないほどに。



   ●


 そうして夏が深まっていき夏期講習が始まると、塾の冷房はよりいっそう強くおれたちの肌を冷やし始めた。今年は観測史上最大の猛暑。温暖化の影響か。俺たちが若いころは夜と朝は涼しかったのに。テレビやネットなどから放たれる言葉を跳ね除けながら、僕は『昼寝』と塾と最低限の勉強を繰り返しながら日々を過ごした。進学塾よりもどこかゆるゆるとしているここにも、通っている受験生たちが放つぴりぴりとした空気は徐々に蔓延しつつあった。このままだと僕は志望校に問題なく受かり、マコトは普通に落ちてしまうだろう。それほどに、状況は変わっていなかった。


 でも、だからなんだというのだろう。生じた眠気を吹き飛ばすために腕をつねりながら授業を受け、ユウリ先生に軽く注意されながら明日までの宿題を受け取る。席を立った僕たちを、笑顔の彼が手を振って見送る。

「じゃ、俺自習していくから」

「ん」

 廊下を歩いていた僕たちは、分かれ道でそれぞれ別の方向を向いた。わかった。そう言いかけたところで、僕はその言葉を引っ込めてしまう。足先を、なにかぬるついたものがなでた気がした。立ち並ぶ教室の隙間から漏れ出る授業の音、コピー機が紙を吐き出す乾いた音、入り口付近でたむろしている生徒たちの話し声。塾の中に満ちた騒音に、一瞬だけ舌打ちが混ざる。それは僕の口から発せられたものだ。マコトが、こちらを怪訝そうな顔で見つめている。


「なあ。プール行かね。これから」

「は、え」


 彼の表情が、さらに濃い困惑の色を浮かべる。が、それはきっと僕も同じだった。適当に心の端で考えていたことが、勝手に口から出た。今まで遊びの約束をすることはあったが、こうして雑な思いつきを口にしたことはない。

「あ、いやなんでもない」

「そ、そう。じゃあ」

「じゃあね」

 だから、このときはあっさりと引き下がった。気恥ずかしさもあったし、マコトもなに言ってるんだこいつみたいな顔で、さっさと自習室に引っ込んでしまったからだ。


 が、後から聞いたところによると、これは嬉しさからくる照れのようなものだったらしい。


「ケンタ、もう」

「うん」


 僕の部屋。広くて固い床ではなく、狭くてやわらかいベッドの上で抱き合っていると、彼はそう言って僕の上へ覆いかぶさってきた。冷房の風にさらされている部分と、重なり合って熱を持った部分。それぞれの肌の質感をたしかめながら、裸の僕たちはもぞもぞと動いていろいろなところをくっつけあった。カーテンと扉を締め切った暗がりの中、その闇をまとった僕たちの体は黒ずみ、さながら死体のように見えた。が、にぎったりこすったり吸い上げたりすると、その下には行き場を失った熱が隙間なく宿っていることがわかった。


 プールに行くことを提案した次の日以降、僕はときどき塾の後の予定を彼に提案するようになった。川沿いを散歩してから帰ろう。駅前のケンタッキーでレッドホットチキンを食べよう。ゲーセンに行こう。やっぱり、本当にプールで泳がない? ユウリ先生のいる教室から出たとたん、僕たちを取り囲む現実から離れた楽しい妄想たちは自然と口からこぼれた。それにすこしずつマコトは応じるようになり、やがて彼からも同じようなことが提案されるようになった。


「ケンタ、マコトくんと最近仲いいみたいね。いいことだけど、あまり羽目を外しすぎないでね。あんただけならともかく、マコトくんは大変なんだからね」

 ふたりの変化はすぐに母の知るところとなり、僕はそう釘を刺された。わかったよ。そう口にしながら、先生にもらった青桃のシロップ漬けをかじる。冷蔵庫で保存していたそれは、もう最後のひとつになっていた。よく冷えた果汁があふれ、甘みと酸味が喉をすべる。窓際で漫画を読みながら、彼女は切り分けられた桃をつまんでいる。今年も無事に収穫できました、と祖父の家から送られてきたものだ。

「ねえ、ケンタ」

「なに」

「謝りたいことがあるの」

 ごめんね、この前は強く言い過ぎた。そう言って、彼女はかつて自分も勉強が嫌だったこと、この前の僕みたいな反抗もよくしていたこと、それによって生じた後悔を僕にはしてほしくなかったと考えていたことなどを、自分のエピソードを交えながら語って聞かせてきた。


「別に失敗したとは思っていない。だってあのときはあれしかできなかった。あれが正しかった。でも、だからこそケンタにはすこしでも私の経験したものを避けて、いい未来に行ってほしいと思ってたの」

 頭を下げながら、彼女は桃の切り身にフォークを突き立てる。手の中にあるかじりかけの青桃を飲み込み、僕はうなずく。


「お前たち、さいきん妙に仲良くなってね?」 

 先生にもそう言われることが増えた。僕たちがああはいー、そうなんすよーとへらへらするのを、彼は微笑みながらまっすぐな瞳で眺めていた。

 教室の空気の中を、口に出された英文や問題文がすべっていく。僕はすこし考え込むだけでほとんどが簡単に解けてしまう。が、マコトは考え抜いて考え抜いても半分ほどを間違えてしまう。吹きつける冷房が僕たちをあぶる。窓のブラインドは完全に下りており、外の景色は見えない。会話も特に起こらない。


 塾を出てふたりで川沿いを歩きながら、僕は自分の足元を意識した。うねうねとうごめく大きな穴。それは今や僕のつま先をなかばそこへ飲み込みかけたり、広がったり縮んだりを繰り返している。草のにおい。立ち揺らめく陽炎。かすかにどぶくさい水の流れる音。それらに包まれながら、僕は一歩を踏み出す。ひやりとした感覚。握りこんだてのひらに、汗があふれる。かつて想像した、画素の荒い自分の姿。そこへ近づき、足元に広がる穴を、思い切り踏みしめる。


「マコト。お前、先生のこと好きなの?」


 風がばたばたとおたがいの服や髪をはためかせる。冗談めかして否定しても不自然にならないタイミングが、遥か後方へ過ぎ去っていく。

 そう、ほんらい僕たちはこうなのだ。そのことも、この事態をややこしくしていた。僕たちは高さの違う三つの段差を飛び越える勇気を出さなくてはならない。性別、恋人の有無、年齢と立場の違い。最後がもっとも難関に思えた。段差だけではなく、その手前には穴があいている。いつも見ないふりをしているあの穴と、それはとてもよく似ている。


 今の僕たちは、そのどちらへ落ちてしまったのだろう。勉強道具を放り出し、あの教室で待っている先生の姿を思いながら、ふたりでこんなことをするようになってしまった。そうすることで埋められるものもあった。インターネットやテレビの向こう側にいる同じ属性を名乗る存在ではなく、見て聞いて触れられる存在がいる安心感。その奥に入り込んだり、入り込まれたりすることによって生じる快感。それらを知れたことが、嬉しくないといえば嘘になる。チャンスなんてないかも、とあきらめたこともあったのだ。でも、だからこそ。


 甘い声をあげながら、僕たちはひとつになったりわかたれたりする。が、そのようにしてどれだけ濡れたところを混ぜ合っても、接したと思ったその部分はすぐに離れてしまう。余韻が糸を引くように伸びて途切れ、後にはなにも残らない。それでも、僕たちは休むことなく自分の中の高まりを掘り起こそうと躍起になっていた。おたがいのそれを口に含もうとしたとき、彼は急に体を起こした。なに、どうしたの。その後に言葉を続けようとして、僕は口をつぐむ。

「せん、せい」

 向かい合ったマコトの目はなにも映していなかった。でも、それは僕も同じだろう。おたがいの体を自分の胸へ引き寄せながら、下半身をぴとりとくっつけて腰を揺らす。目をつむると、胸の中に収まったぬくもりは先生の形へ変わり始める。


 不毛だ。カーテンの隙間から鋭い陽の光が差し込む。もう少しで塾の時間がくる。にぶい快感が、こすれ合うあそこから今にも飛び出そうとするのがわかる。たまらなくなって、僕たちは歯を立てることなくおたがいへかみついていく。が、どこをなめても吸い上げても、欲しいものが口内へ引っかかることはない。







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