12
通報を聞きつけた警察官がスーパーカブに跨りやってきた。
警察官の登場により鬼頭の顔は
「まもなく救急車もくる。
鼻が折れているかもしれない。君はすぐ病院だな。
君の方は怪我なさそうだが精神的なショックがあるね。」
不良カップルは泣きながら春彦に感謝の気持ちを述べている。
「この少女から聞きました。
目撃したお兄さんが2人を助けたとの事でーーーー」
春彦の近くまでやってきた若い警察官は話しを止めて男の顔を凝視した。
「季節原さんでしたか!?これは誠に失礼しました!」
警察官はバツが悪そうに大きな声で謝罪した。
「いえいえ。この公園は電灯がありませんからね。
これほどまで暗いと容姿まではなかなかわかりませんよ。
それより、もう少しこの辺りを見回りしてほしいですな。」
若い警察官は春彦に再度、深々と頭を下げて謝罪をしたあと、苦笑いをしながら言った。
「我々としても、重点的にパトロールはしているのですけどね…。
季節原さんは今夜も地域の見回りでしょうか?」
「ええ。残業がない日はなるべく毎晩見回りを行いたいのですがね。
なんせ私も
"季節原"という珍しい苗字を警察官の口から聞いた中牧は、ほぼ同じ身長の春彦(160センチ)を見た。
世帯持ちだって?
どうみても13歳から15歳くらいの小年じゃないかよ。
中牧は思った。
申し訳なさそうにしている警察官を気遣った春彦だったが、話を切り上げ身体を中牧側に向けた。
「ところで君は?こんな時間に何をしている?」
中牧はなんと答えれべばよいかわからず、黙っている。
「まだ小学生だな?身長こそあるが、顔があどけない。」
「俺は…。」
自分がなぜここにいるか、鬼頭との関係や万引きこそしていないものの、鬼頭に関わってしまっている為、個人商店での件がバレてしまう事を恐れた。
いっそ全てを話したらラクになるのではないかという考えが頭を過ったものの、やはり補導はされたくない。
短絡的な感情に支配された中牧はその場から逃れようと走りだしたが、いとも簡単に手首を掴まれてしまい身動きが取れない。
「何かやましい事があるから逃げるんだ。そうだろう?」
振り解こうにも強い力で押さえつけられている。
そうこうしている間、救急車が到着し、鼻を折られた不良少年は彼女とともに救急車で搬送され病院に向かった。
春彦は鬼頭を警察官に引き渡した後、中牧を自宅まで送る事にした。
「もう一度聞く。
君はあの
なぜあの場に君がいた?」
中牧は何も言わず黙りこくった。
「つまらん意地を張らず答えなさい。」
理由を聞き出そうとする春彦だが、中牧は頑なに口を開かない。
強硬な態度を貫く中牧にさすがの春彦も、それ以上の追求はしなかった。
20分ほど歩いた先に、木造の4戸アパートがある。
雑草が生い茂り、2階へ続く階段は所々、手すりが赤茶色に錆びていた。
どの部屋にも汚れた洗濯機が玄関前に設置されている。
アパート付近で中牧は足を止めた。
「もう自分の家に着いたんで。」
「このアパートが君の住む自宅か。
夜分遅いが、ご両親にお伝えしなければなるまいな。」
「はぁ?警察から特に何も言われてないし、これで話は終わりだろ?」
「甘いな、このまま終わりではないぞ。
この後、警察からも連絡があるはずだ。」
「えっそうなの?」
イラついた表情で中牧は頭を掻いた。
この先、直面するであろう面倒ごとを思うと冷静ではいられなかったのだ。
「君の住む部屋はどちらだ?」
「1階の右…」
春彦は玄関先にある表札を確認した。
「中牧さんか。」
一つ、咳払いをしてからチャイムを鳴らそうとした時だ。
ガチャ
経年劣化したアパートの1階の玄関ドアが突然開いた。
黒いカーディガンを羽織ったパジャマ姿の女性が姿を現した。
「あっコウジ!アンタ、いま何時だと思ってんの!」
甲高い声で怒鳴りだしてから、バチンと乾いた音がした。
「親に心配かけさせてんじゃないよ!このバカタレ!」
「痛えよ~。」
「"痛えよ"じゃないだろ?どこをほっつき歩いてたんだ?」
春彦は息子を叱る母親を見て、止める事はせず敢えて一歩引いて黙っていた。
叱るのは当然だと思っていたからだ。
だが、すぐに説明をしなければならない立場に立たされた。
「ところで坊やはなに?
アンタがウチの子をこんな時間まで連れ回していたのかい?」
「…私は季節原と申します。
まだ幼い息子さんをご自宅まで送りにきたのですが、私が見回りをしていた際にお宅のお子さんが、不良少年が起こした暴行事件の現場におりましてね。
詳細を説明させていただきますとーーーー」
春彦は丁寧に今までの事を中牧の母に話した。
「コウジ!また喧嘩していたのね!
あれほど喧嘩は止めろと言ったでしょうが!」
先ほどよりも強い口調で怒鳴り、腕をテニスのラケットを振りかぶるかのような構えで力いっぱい中牧の頬を張ろうとしたが、今回は春彦が仲裁に入った。
「奥さん、ここは冷静になりましょう。」
「はぁ?何が奥さんよ、まだ子どものくせして偉そうに。」
コンプレックスである童顔を抉られた春彦は、コウジに変わってビンタをされた気分だった。
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