8

とっぷり日が沈み、星がキラキラ光っている。

公園に備え付けられている時計は19時をまわっていた。


「鬼頭くん。俺はそろそろ帰らないと。親がうるさいし。」


「あぁ?こっからが本番だぞ。

生意気なクラスのガキをやっちまうのを、諦めたのか?」


「本番て言っても万引きしただけだよ。

それに…。」


「それに?」


身を乗り出した鬼頭は木製のテーブルに両腕を置いて、中牧に顔を近づけた。


「いや、それにって意味は…あの、季節原を呼びだすつもりでしょ?

もう夜だし俺と同じ小学生の季節原は勝手に家を出歩けないんじゃないかなって、思ったんだ。」


「なんだぁ、そんなんかぁ。そんなんで悩んでいたのか?

呼び出しはしねえよ。

俺はそのガキの家まで行くんだからよーーーー」


鬼頭が話している途中で、ブレザーを着たカップルが現れ、2人が座るテーブルに置いてある菓子パンやスナック菓子に手をつけた。


「おまえ、一中の鬼頭だろ?

ここで春の菓子祭りでもやるのか?」


センター分けにした男子はそう言うと、隣にいるグリーンのインナーカラーを入れた女子に手渡す。

夜になって照明のない暗い公園でも、鬼頭と中牧は彼女のグリーンに染まった髪色を確認できた。


「この子が鬼頭なの?」


インナーカラーを入れた女子は鬼頭が店から盗んだメロンパンの袋を開けて頬張っている。


「コイツはかなり有名。

小学生の頃、SNSでオマワリに蹴りを入れて逃げる動画が拡散されていたし、ヤクザの車を強奪して警察に補導された話を先輩に聞いた事がある。」


「ヤバくね?この子。」


「でもな、コイツは悪りぃだけで喧嘩はそんな強くない。

先輩もそう言ってた。

先輩って、ほら、石井先輩がね。」


不良カップルに絡まれた中牧はうんざりしている。


「なんだ、おまえら。俺に喧嘩売ってんの?」


「まあね、そういうとこかな?」


「随分、俺について詳しいんだな。

俺はおまえなんか知らねえけどよ。

マキゾーは知ってる?この中分け小僧を。」


首を横に振って中牧は答えた。


「ほら、知らねえってよ。

有名なのは俺だけ!」


鬼頭は笑いながら、近くにいた不良少女の制服のミニスカートを捲った。

不良少女は素早く、股を手で押さえて叫んだ。


「キャッ!コイツ変態!死ね!」


「人の彼女に何をしやがるんだよ!」


怒り狂った彼氏は腰掛けている鬼頭に殴りかかる。


鬼頭の額に力のこもった拳が的中した。


突然の事で止めに入る余裕もなく中牧は茫然としている。


不良少年が更に拳を振り上げた時、鬼頭は頭突きを不良少年の鼻にいれた。


「うわぁぁぁ。」


のたうち回りながら鼻を押さえている。


「キャッアアアア!!」


「シャラップ!シャラップ!英語わかりますかー?」


鬼頭はそう言いながら、不良少女に近づく。


「なに?来ないでよ!クズ!」


わざとらしく鬼頭は奇声をあげてゆっくり近づく。


「ちょっとマジでこっち来ないでよ…聞こえねえのか!?くんじゃねえよ!」


「や、やめろ。鬼頭。」


足に力が入らずヨタヨタしてバランス感覚を失いつつあるものの、なんとか立ち上がった不良少年は鼻からおびただしい出血を片手で押さえ、鬼頭を背後から殴りつけた。

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