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「ただいま~。」
合鍵で玄関ドアを開けた冬児はチャイムを鳴らす習慣がなく、普段から自分で玄関の鍵を開けて帰宅していた。
母・夏子は実家にいる母(冬児との関係は祖母)と電話をしており、息子の声には気付いていない。
洗面所で手を洗い、リビングのソファに座って電話をする夏子に姿を見せ、改めて「ただいま」と挨拶をした。
「あら?冬ちゃん。
いつの間に帰ってきていたの?
テーブルに手作りのカップケーキがあるから手を洗ってから食べてね。」
手洗いは済んだよと喉まで言いかけたが、言わずにダイニングキッチンへ向かった。
喉が渇いていたので冷蔵庫から牛乳を取り出し、冬児専用のスイーツニャンコの水色のマグカップになみなみ注いだ。
すぐに4人掛けテーブルに腰掛けて、お目当てのカップケーキを目にした冬児は満面の笑みを浮かべる。
カップケーキは3つあり、フカフカのケーキの上にホイップクリームが絞らていて、銀色に光るアラザンやチョコペンで可愛くデコレーションされていた。
「初めて作ったんだよね~。どう早く食べてみて。」
祖母との電話を終わらせた母は、
「すごくおいひぃ。」
「成功だね!見た目も可愛いし味も良き。フッフン、完璧ぃ。」
誇らしげな夏子のまえで笑顔を浮かべる冬児はマグカップの把手を掴んで牛乳を飲んだ。
「ん?」
何かを直感的に感じ取った夏子は、口の周りにホイップクリームが付いた息子の顔へ、目を合わせて近づいていく。
「なあに?お母さん。」
「…なにか学校であったの?」
「えっ、なんにもないけど?」
咄嗟に冬児は嘘をついた。
「お腹を痛めて冬ちゃんを産んだ、母の目は伊達じゃないわよ。
冬ちゃんのその顔、何かを隠しているのは明らかだわ。
さぁ、言いなさい。
学校で何かあったんでしょ?」
瞳を覗きこむ夏子に冬児は視線をそらす。
「本当になにもないから。」
「怪しい…。」
「怪しくなんかないよ。僕の事、信じてくれないわけ?」
腕組みする夏子は何も語らず冬児をじっと見つめている。
「そっかぁ、そうよね~。男の子だもんね~。
なんでも話す秋ちゃんとは正反対。」
冬児に向かって話すというよりは、独り言のように夏子はブツブツ口にしている。
オヤツのカップケーキを食べ終えた冬児は気まずそうに自分の部屋に行き、ベッドへ寝転がってスマホを手にしていた。
****
「
鬼頭の唐突な発言に中牧は首を横に振って答えた。
「だよなぁ。ガキのおまえに金があるわけないわな。」
鬼頭は首の骨を左右に振ってゴキゴキ音を鳴らした。
「ちょっとしたスリルある夕メシ前のオヤツタイムにするか。
おまえと揉めたクソガキをシメる前に栄養補給しないとな。」
数えきれないほどの悪事を働き、小学生時代から手のつけられない悪童で有名な鬼頭をよく知る中牧は、鬼頭が何を企んでいるか手に取るようにわかった。
気乗りしない中牧であったが、どんなに深刻な帰宅理由を述べても一般常識が欠如した鬼頭は中牧を帰宅させはしないだろう。
寧ろ、思い通りにいかないと機嫌を損ねて暴れ回る鬼頭を何度も目にしてきている。
中牧はタイミングを見計らって悪童の魔の手から逃れるチャンスを探さなければならい。
「マキゾー、人間には3大要求がある。
まずは"食欲"を満たすぞ。」
悪童は個人商店の前で足を止めた。
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