一章 長男、冬児を守れ! 1、正義感のある冬児はクラスの人気者

「お父さんお母さんおはよう!」


「おはよう冬児ふゆじ。」


「あら、ふゆちゃんは今朝から元気いっぱいね。」


赤いエプロンを付けた母・夏子は冬児の茶碗にご飯を盛り付けている。

ネクタイを締めた父・春彦はダイニングテーブルに座り、読み終えた朝刊を丁寧に折り畳んで新聞ストッカーに収納すると、豆腐の入った味噌汁に箸をつけた。


「秋ちゃんはまだ寝ているの?」


「さぁ、まだ寝てるんじゃない?」


そっけなく返事をした冬児はスイーツニャンコの箸を使い目玉焼きをムシャムシャ食べている。


夏子は壁掛け時計を見た。


「秋ちゃんたら今日はいつもより30分早く起きて、みんなと朝ご飯を食べる事にしたなんて言っておきながら初日から約束を破ってるわ。」


、秋奈の事は放っておきなさい。

もう高校生なんだ。子供じゃない。

どんな事情かは知らないが、遅刻をしたらそれは秋奈自身の責任だ。」


春彦は娘の秋奈の部屋へ行き、眠っている秋奈を起こそうとする夏子を止めた。


「春く…コホン。

そうは言っても大切な用があるのかもしれないのよ。」


「甘やかすのはいかん。」


春彦の呼びかけを無視した夏子は秋奈の居る子供部屋へ向かった。


「秋ちゃん、入るわよ。」


秋奈は母が部屋に入ってきた事にも気付かず寝息を立てている。


「あらあら、寝相が悪いわね。おへそがでているじゃないの。

秋ちゃん?秋奈?

いつもより早起きしなきゃならない理由があったんじゃないのかな?」


身体を揺する母の手に反応した娘は目元を擦りながら、鈍い声をだした。


「う~ん。」


「ほら、もう起きなさい。せっかく作った朝ご飯が冷めちゃうわよ。」


母・夏子の呼び声むなしくベッドから起床する事はできず、毛布をかけ身体を丸めた。


「まったく、この子ったら。」


夏子は背後に気配を感じ、素早く振り返った。


「はぁ。なんてしようもない娘だ。

そんな甘っちょろいやり方では、一向に起きやしないさ。

お母さん、私に任せなさい。」


フカフカのベッドで眠る秋奈の襟を掴み、足に力が入らない状態のままであろうが構わず強引に立位の姿勢をとった。


「秋奈、いつまで寝ているつもりだ?起きろ。」


「春くっ!!?

そんな危険な起こし方ってないでしょ?」


「お父さん、私になにすんのさ!」


「おまえがいけないんだぞ。

お母さんと約束した時間になっても起きてこないからだ。

もう、約束の時間から既に15分も過ぎているぞ。」


「お母さんと約束…あっ?いっけない!」


秋奈は急いで制服に着替える為、パジャマの上着のボタンを外そうとしたが、腕を組んで睨みつける父がいる。


「いつまでも、私の部屋に居たんじゃ着替えられないじゃん!

早く出ていってよ!」


「フン。おまえの着替えなんぞ、一切興味はない。

だいたいな、ここはお父さんが汗水流して働いて建てた家だ。

出て行くならおまえのほうだろう?」


「仕方ないじゃん!まだ高校生なんだから。

私だってこんなヘンテコなお父さんがいる家、早く出て行きたいよ!」


「親の脛齧りすねかじりの分際でヘンテコとはなんだ!」


「2人ともやめなさい!

秋奈は早く着替えて。アナタもお仕事に遅れてしまうわよ。」


興奮して肩で息をする秋奈は唇をプルプル震わせている。


「高校生にもなって幼児のように泣くのか。

どうしてこうも、うちの娘は幼稚なんだ。」


「はぁ?幼稚?

お父さんなんて、おじさんのくせに子供みたいな見た目じゃんよ!

こないだの日曜日、友達を家に連れてきた時、友達が私に向かってなんて言ったか教えてあげようか?

秋奈ちゃんて、2?可愛いね、そう言ったんだよ!」


「ちょっと秋ちゃん、それは言ってはいけなーーーー!?」


バチン


春彦は秋奈の頬を平手で叩いた。


「アナタ!秋ちゃんに暴力なんて許せないわ!」


「うわぁぁぁぁ!」


泣きじゃくる秋奈を夏子は強く抱きしめている。


「おまえがそうやって秋奈を甘やかすからだ。」


怒りが収まらない春彦だったが、秋奈の部屋に飾られているスイーツニャンコの壁掛け時計を見て、みるみる青白い顔になった。


「し、しまった。これじゃあ遅刻してしまう。」


秋奈の部屋から大急ぎで玄関へ向かい、乱暴に玄関のドアを開けて鍵もかけず、駅へと向かって行った。

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