第25話 大地林3

 操られた空が口を開く。本人は苦悶の表情を浮かべている。抵抗があるとはいえ、レベル4の操作系能力は強力で、自由に体が動かない空。


「青野くん。そちらの主戦力である飛行さんはいただいた。もう諦めたらどうかな? 飛行さんだけは編入試験に合格だね」


「それは困ります。大地先輩。みんなで合格しないと」


 一歩前に踏み出す海人。


 空を通して、空の声で、しゃべる大地林。


「3か月間、君たちの努力を見させていただいた。ボクの対策は万全にできている。ボクは君たちの努力量を、作戦を、戦略を、ちょっとだけ上回らせてもらった。正直に驚いている。クズがクズなりに努力すれば、天然型の天才に追いつくことができることをね。十人十色」


 アンダードッグの9人に同時に操作系の能力がかかる。大円をフォーメーションに組んでいたアンダードッグのメンバーが、真ん中の海人に襲いかかる。


「シャッフル」


 性別変更。アンダードッグの9人を同時に女の子に変身させて、唐変木直人は大地林の操作系の能力を打ち消す。


「十人十色」


「シャッフル」


 今度は男性に性別を戻して、大地林の操作系の能力を打ち消す。ものすごい成果。


「じゃあ、今度は唐変木くんに『十人十色』」


「シャッフル『性別変更』」


 TS唐変木直人の登場。大地林の操作系の能力『十人十色』は、タイムラグが存在する。操作されると分かった瞬間に、変化系の能力『性別変更』で変化すれば操作を打ち消すことができる。


 TS唐変木直人の出現に客席が沸く。女子にもモデルっぽい可愛さは十分に伝わるということ。そして、大地林に抗う姿に、さらに人気を集めるTS唐変木直人。


「ぐぬぬ。操作系の天敵め。変化系をここまで操ってレベル4に抗うレベル3は久しぶりに見た。ボクの見立てでは唐変木くんも合格だ」


「そいつは良かった」


「で? 坂道さんは元々白薔薇高校の生徒だから関係ないとして。何もしていない『女性強化』の青野くんはどうするわけ?」


 海人は気づく。大地林は誘導している。編入試験中、海人サイド各々の実力を観客に見せつけて、白薔薇高校の全体にアピールし、全員を合格させる腹積もり。


 きっと3か月間、ずっと海人たちの修業を隠れて監視していたのだろう。努力を認める、という大地林の器の大きさが垣間見える。


 ずっと『十人十色』と『性別変更』のシャッフルを繰り広げる大地林とTS唐変木直人。


 攻めてこない、と思ったら、白薔薇高校のお嬢様的に、みんなの前で男の姿に性別変更されるのは恥ずかしいらしい。そう坂道絆が教えてくれた。確かに、空や坂道絆の性別変更を見たことがなかった。唐変木直人が気を使っているらしい。思わぬ弱点を発見し、されど、拮抗が崩れる。


「らちが明かない。行けっ! 飛行さん!」


 拮抗を崩したのは空。大地林のコマとなり、襲ってくる。


 ――のはフェイクだった。


「――何!?」


 瞬間移動と透明変化。どちらかにぶっ飛ばされる海人。腹を殴られて、胃酸が逆流する。吐くのを懸命にこらえた。


「さすがは大地先輩。腹黒い」


「誉め言葉だね」


 操作系が効かないのであれば肉弾戦。最強の忍者部隊『瞬間移動』と『透明変化』がいる。


「坊主! 大丈夫か!?」


「何とか。奇襲に気をつけてください」


 一人。二人。とアンダードッグのメンバーがやられていく。安全装置が発動して、無力化されていく。奇襲と分かっていても透明人間が瞬間移動で飛んでくるのだ。防げるはずがない。


 結局、全員が倒されてしまう。残ったのは、操作されていない、海人、TS唐変木直人、坂道絆の三人だけ。空はいまだに操作されていて大地林の手に落ちている。


 相手は変化系の『瞬間移動』と『透明変化』状況は最悪だった。


「善戦したよ。青野くん。でも、これで終わりだ。君たちの残ったサポート組の三人では『瞬間移動』と『透明変化』のダブルコンビには勝てない」


 たしかに。変化系の『瞬間移動』と『透明変化』は顔が見えないので、海人は操作できない最悪の相性。多少、顔が隠れていたら、お面程度であれば操作できるのだけれども。透明になっている相手には操作系は無力だった。


 無力な海人。『性別変化』のTS唐変木直人。『能力強化』の坂道絆。なお『性別変更』は距離に限りがあるので、遠くにいる空の性別を変更して『十人十色』の操作を解くことはできない。相手の大地林も重々承知で、空を「見」に回らせている。


 打つ手なし。このままジリ貧で『瞬間移動』と『透明変化』の攻撃で体力を削られていく――かに見えた。会場の誰もが策士である大地林の勝利を信じた。もう白薔薇高校サイドの勝利は目前であると、会場の全員が思った。


 ――海人以外は。


「坂道さん。僕にありったけの『能力強化』をしてください」


「分かりました」


「今から空を取り返します」


 海人の超能力発動。『女性洗脳』のレベル4。


「ありったけの強化した『女性強化』を飛行空に使います」


 操作系を操作系で上書きした場合、レベルの上位の操作系が勝つ。


 海人の『女性洗脳』が『十人十色』を上回る。空の、操作の権限が海人に戻ってくる。いつも通り。やっぱり3年間ずっと修行してきた空が一番しっくりくる。海人は逆境を逆転する。下剋上の始まりだ。

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