俺、ほとんどファンタジー知らないんだよなぁ

はるゆめ

第一話 いつもの朝から始まる

 目を覚ますと既に明るくなってる天幕内。


「んんー?!寝過ごしたっ」


 慌てて飛び起き、外に出ると太陽はまだ山の上から顔出してるだけだ。


「セーフセーフ」


 遠くに雪を冠にした山脈。

 それを埋め尽くすような大森林。

 周りにはいくつもの天幕。


 傭兵部族『き』、その本拠地だ。

 戦士の人材派遣を唯一の産業とする大部族。


「準備しとかないと」


 天幕へ戻る。

 大小様々な壺が並べられた棚。

 作業台の上には色々な薬草が散乱してる。

 連日の突貫作業で片付ける暇がない。


「今年になってからの忙しさは異常だよな。


 傭兵部族『き』が属する大国の周辺は常に騒がしい。小さな国々が数えきれないぐらいあるのだ。

 それらは国と言うより規模として集落って言葉が似合うけど。それれをどんどん平定し、飲み込み、国が大きくなってる最中。

 ちなみにこの国の名前はまだ定まってない。国の中枢を担う部族達の間で揉め続けているそうだ。


「えっと、傷薬、強壮剤、胃腸薬に鎮痛剤、それと塩」


 戦士達の携行する物資、薬の占める割合は少なくない。森の中を野営しながら進み敵と交戦。怪我、骨折、捻挫、筋肉痛、消化不良、あげたらキリがない。病院だのドラッグストアだのそんなものは存在しない。


「ミサー、起きろー」


 俺が記憶を頼りに試作したハンモックでまだ夢見てる少女、ミサ。こいつ、寝る時は裸族。生まれたままの姿だ。


「やれやれ、こいつの寝起きの悪さは大会優勝クラスだな」


 俺とミサは生みの親の顔をもう覚えていない。

 二人とも幼い頃に、貧しい部族の村から口減しとして売られたのだ。それを『き』が買い取り、ここに連れてこられた。

 だから俺たちの年齢も正確にはわからん。

 多分小学生の高学年〜中学生と思う。

『き』は孤児も全て受け入れる。傭兵稼業だから死亡率は他部族とは比較にならないぐらい高い。


 傭兵部族『き』は、男女一組で子育てをする。

 乳幼児のうちは主に部族の女衆が面倒を見るが、物心つく頃になると大巫女さまが役割を与える。

 大巫女さまの言うことは絶対。

 そうやって部族は繁栄してきた。

 大巫女さまの言う役割に相応しく育つよう、担当となった者が親代わりに育てていく。


 俺は大人達の手伝いをする中で薬草を見つけるのが頭一つ抜きん出ていた。 

 大巫女さまの一言『この子は薬師に』で俺の将来は決まった。薬師の長が親代わりとなる。


「おいミサ、起きろ」


 ハンモックをひっくり返す。


「みゃぎゃぁ」


 猫みたいに柔らかく地面に落ちるミサ。


「すぅすぅ」

「寝たふりやめろって。ほい起きた起きた」

「あたしはまだ起きたくない」


(あ〜あ、こいつ連日の残業にキレてるな)

 そっとミサの髪を撫でながら


「今日は休みにするから」

「ほんと!?」

「うん。ミサも疲れてるだろ?」

「やった!嬉しい〜」


 俺に抱きつくミサ。第二次性徴期を迎えた柔らかな感触。

 しかし俺は中身がおっさんなので動揺はない。ロリコンじゃないし。


 気がついたら子どもになっていた。

 最初はわけがわからなかったな。


 時代劇で見たのよりもっと粗末で貧しい暮らしをする農家。

 俺は三人目の子どもだが、両親は俺に愛情らしきものを示したことはない。食うや食わずの生活していたら、そんな余裕は無いものだと俺はわかってしまう。それでも時折母親はそれらしい表情を浮かべることもあったが、


 俺は……日本でサラリーマンをしていた普通のいや、ちょいとオタク趣味がある、それでも平凡だと言える人生を送っていたおっさんだった。妻と娘二人。だがその顔も名前も思い出せない。他にも暮らしていた土地の名前など思い出せないことが多々ある。

 どういうことだ?

 異世界転生ってやつか?SFが趣味だったが、それぐらいは知っている。

 なぜ異世界だと思ったかって?

 まず夜空を見たらお馴染みの星座が見えなかった。地球の遥か未来か過去なのか、または他の天体って可能性もあるだろう。


 確信したのは『匂い』だ。


 全国あちこち出張や旅行に行ったり、外国にも行った経験上、その土地独特の雰囲気というか『匂い』があるんだ。その匂いに違いはあれど根底にあるものは同じだった。安心感というか、『当たり前』という感覚。『ここは地球』だと告げているものが。


 だがここの『匂い』は全然違う。ずっと感じてる。地球じゃないって魂で感じる。俺はここでは異物だと。


 五歳ぐらいになる前に俺は人買いに売られた。口減しだ。

 日本にも昔は普通にあったこと。人買いのおじさんは優しかったなぁ。

 それで『き』に連れてこられた。


 厳つい身体つきの男達、女達も筋肉質だ。今までいた農村とはえらい違い。

 俺と同じような子どもが毎日増えていく。


 子どもは立派な労働力。

 俺は薬草を見つけるのが他の子どもより上手いらしい。

 中身はおっさんだからな。山菜や山野草を見つけるのは得意だったし。


 そのうち女の子とペアを組まされ、オザマってマッチョおじのところへ連れて行かれた。薬師の長をしている。

 俺らの父親代わりになるって話。


 女の子はミサ。笑うと垂れ目が糸になるのが可愛らしい。将来はこの娘と子どもをもうけるらしいが、中身おっさんの俺には背徳感が半端ないよ……。

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