その翼はまだ羽ばたけるか
鹿目陽
第1話 人生とは唐突に終わりを迎える
人生の絶頂期といわれると、いつを思い出すだろうか?
中学校生活だろうか?
ひと夏を全力で駆け抜けた高校生?
恋にサークルに勉強に盛り上がった大学生活?
お金に余裕ができた社会人3年目?
あなたの人生は、いつ絶頂期を迎え急降下していくのだろうか。
その急降下は、自分で選択できるものか。それとも、唐突に理不尽に不条理に何の前触れもなく、そして何の言伝もなく情け容赦なく君の未来を奪うものだろうか?
少なくとも俺、禅定夏樹の輝かしい未来は4月3日。
自らの手で閉じることとなった。
後悔はない。悔いもないし、このことを悲しいとは思わない。
なぜなら、俺は今生きているし、こうしてまた日常を送ることが許されているのだから。
ただ、許されるのであれば
命があっただけマシだと言いながら、もう一つだけ贅沢を言っていいのなら
なぁ、神様。もう一度、コートを全力で駆け回って飛び跳ねて、もう一度だけ。
もう一度だけでいいから、俺
バスケットボールがしたかったよ
ピピピ、ピピッ、ピーーーーー!
「くぁ~~ああーあ」
聞きなれた目覚ましの音で目を覚まし、両腕を使って無理やり体を起こす。寝ている間にいやな夢でも見たのか、妙に汗ばんでいる肌が気持ち悪い。
「はぁ、もう朝なのか。学校、行くか………」
ため息交じりに呟きながら、もう随分と見慣れて体になじみ始めた足を手に取る。入学式の日、事故にあった俺に与えられた、新しい取り外し可能な足。随所から金属光沢を放ち、その表面は基本的に肌色のプラスチック。人肌ほどの温かみもないそれを取り付けて、未だ慣れないバランス感覚に四苦八苦しながら部屋を後にした。
春先であれば、ピンク一色に染まっていたであろう正面道路を一人歩いて登校する。花芽を作り、葉を生い茂らせて次の季節に、来年のための準備を整えている。熱すぎる気温に、ジメッとした嫌な日本特有の空気。それを重たく、煩わしく感じさせない軽快な動きで、そよ風が桜の葉を揺らして通り過ぎていく。
「ふぅ、まだ難しいな」
義足で歩くのは、結構難しい。バランス感覚もそうだが、人間がどれほど自分の足の裏側から情報を得ていたのか。それを初めて理解した。全くと言っていいほど、俺の右足からは地べたの情報を得ることができない。凹凸があっても、踏み抜きバランスを崩すまで気が付かないのだ。
「しかも、この微妙な坂道がうざいなぁ」
学校の正門まで、約200m程度の道のり。ただ、本当に僅かに傾斜がついていて、体力がある頃の自分であれば何ともないはずなのに、今となってはずいぶんとキツイ。息を切らして、時間をかけて何とか登りきる。
「さて、初登校だ。だいぶ遅れたし、友人の一人もいない。何なら、スポセンの俺がこの様だからなぁ、何とか頑張らないとな」
小さく自分に活を入れながら、俺は「一条高校」と書かれた校門を潜り抜けた。
公立一条高校といえば、全国でもちょっと有名だ。
バスケットボールで超強豪であり、中部地方有数のマンモス校だからだ。スポーツ推薦および学力推薦が存在する珍しい学校であり、私立高校顔負けの寮が作られ、多くの学生が共同生活を送りながら、勉強と部活に励んでいる。
自由な校風を重んじており、制服着用は義務ではなく自由選択。授業に関しても、大学を参考にした、自分で選択する方式が採用される。自分で好きな授業の選択を行い、必要ないものや興味のない科目に関しては必修科目でない以上履修する必要性がない。
学校の行事に関しても、生徒自らが発案、行動することが求められている。強要はされず、2年前には学園祭も体育祭も、何なら新入生歓迎会も実施されなかったらしい。なお、当時の新入生は涙を流して悲しんだとか・・・・。自由すぎる一方で、生徒自身への責任も重い。それは、自立することが求められているからである。
当然だが、自分の選択・行動には相応の責任が発生するからだ。そのため、退学率も高く、留年してしまう生徒数も多かった。
そんな、ちょっとだけ特殊な学校に、俺は半年遅れで合流することになった。。
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