プロローグ④

「本当に悲しいんだよ。いくら俺でも、そんなに性格はわるくない。俺への呪いが君に移ったことを喜んだりしていない」


 悲しいというが、目がわらっている。やっぱり喜んでいる気がする。


 責任は取るよと、シーファウは微笑んだ。


「呪いを引き受けてくれたお礼に、これからは俺が君を護る。なるべく俺から離れないように。霊石の守護も強化するからね」


 なるべくって……。


「うれしそうに見えるのは、俺がこの生活をわるくないって思ってるからだよ。誰かを護るって幸せを、アイが教えてくれた。とにかく、この離宮の中では、呪いは封じられる。ずっといていいんだよ」


 護るのが幸せ? いつもの冗談だろうか。


 この離宮に、ずっと?


 畏れ多いし、落ち着かない。王宮というと、普通は喜ぶのかもしれない。でも、ここはきっと夢の世界じゃない。


 それに、わたしは外の世界でやりたいことがある。外で大好きなもふもふを……。






 ふわっと風が流れ込んで、カーテンが揺れる。


 部屋の奥の、レースの向こうのシーファウは、消えてしまいそうに儚げに見えた。彼には、こんな霞んだ世界が似合う。

 城下でも、儚げなかすみの王子、深窓の王子と呼ばれている。


 また魅了されそうになった。


 だが、どれほどの美しさでも彼にはどこか闇を感じる。震えが走って、アイリーナは腕をさすった。


 責任……。

 それに、親切すぎる気がする。


 呪いを引き受けたといっても、アイリーナとシーファウは初対面だった。よく知らない人間を離宮に上げるのは、やっぱりおかしい。


 王族はそんなに甘くないはずだ。なにか別の理由があるような気がする。彼の本心が知り合いが、探っても全然分からない。


 ……怖い。

 王子も王宮も、なんだか怖い。考えていることが分からない。

 呪いどころではない、恐ろしいことが待っているに決まってる。


 ……どうしてこうなったんだろう。


 アイリーナは二日前の、森でのことを思い出した。

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