第24話《あなたの一部をいただきます④》
「ねえ…どうすればいいの…?」
里奈は震える声で問いかけたが誰も返事をすることができないままだ。
彼女の目にはどう動かない愛美の体を見つめている。
血は一滴も流れていないが、その体は完全に壊れて生命の気配はもう消えていた。
「俺たちも…次はこうなるのかよちくしょう…」
大輝は呆然と立ち尽くし、怒りや恐怖の表情を見せながらスマホ画面を見つめている。
『次はあなたの番です』というメッセージが恐怖となって彼の心を締め付けていた。
「落ち着け大輝…まずは冷静になって何が出来るか考えよう…」
翔太が震える声で言うが、その言葉にも自信はない。
目の前で起きた恐ろしい現実を前に冷静さを保つのは不可能に近いからだ。
自身も内心では大輝と同じ思いだ。
「冷静に?何に対して?こんな状況でどうやって冷静になれって言うの!?愛美があんな無惨な姿になったのに!!?次は私たちかもしれないのよ!」
里奈が声をあげ感情を爆発させる。
彼女の瞳には恐怖と絶望しか映っていなかった。
「だからってパニックになっても状況は変わらないだろ!なにもしないままだと俺たちだって愛美のような無惨な姿になるだけだ!そうなりたくないだろ!」
翔太が懸命に説得を試みる。
しかし、どこへ逃げれば安全なのか誰にも分からなかった。
「出るって…どこに逃げるのよ!分かるの!?外に出てもあいつが追いかけてくるかもしれないじゃない!」
里美は泣きそうな顔で叫び 、部屋のドアに目をやる。
外に出れば何か変わる可能性は限りなく低い。
どこに逃げても怪人アンサーの手から逃げられないという恐怖が全員を支配していた。
「外に出ないと、ここにいたら確実に俺たちも…」
大輝が言葉を詰まらせながら思わず喉を押さえる。
その瞬間"ブウウウン"と再びスマホの震える音が聞こえた。
「ねえ、翔太。あなたのスマホ…」
「え…まさか…」
翔太は震える手でスマホ画面を見る。
「やめてくれ、こんどは俺かよ…」
「『次はあなたの目をいただきます』」
「や やめろ…なんで俺が…なんでこんなことになってるんだよ!」
翔太はスマホ画面を床に投げ捨てた後、頭を抱えて叫び出す。
恐怖が彼の理性を奪い、次に何が起きるが故にそれに抗う手段がどうやっても見つからない。
「翔太落ち着け!こんなことしたって無理に決まっているだろう!」
大輝が慌てて翔太を押さえようとするが翔太はその手を振り払うように暴れだす。
「無理に決まってるだと!?お前はあいつのメッセージを見ただろう!俺の目がねらわれてるんだぞ!次は俺があんなふうになるんだぞ!」
翔太の目には恐怖で狂乱し、周囲が見えなくなっている。
「やめろよ、落ち着いてくれ!俺たちだってどうしていいかわからないけど何とかして逃げられる方法を探すしかないだろ!」
大輝は必死に言い聞かせるが翔太の焦燥は治まらない。
それどころか酷くなるばかりだった。
「どうしてだ!どうやって逃げるんだよ!?愛美のときだって何も出来なかったんだぞ!俺たちだってもう…」
翔太が叫び続けるその時、不意に部屋全体が不気味な静寂に包まれる。
まるで周囲の音が吸い込まれていくかのような異様な静けさが全員を襲った。
「…何だ?…何かがおかしい…」
大輝はその異変に気づき、息を潜める。
「まさか…来てるの…?」
里奈が震える声で言い、部屋の中を見渡す。
しかし、視界に異常はない。
ただ嫌な感じがじわじわと広がっていく。
突然、部屋の電気が一瞬で消えた後すぐに点灯した。
その瞬間に翔太が再び声をあげる。
「ギャアアアアッ!何だ!?何が見えたんだ!?」
翔太の手が顔に向かって激しく動き、その瞳を必死にに守ろうとしている。
「やめろ翔太!落ち着け!」
大輝が慌てて彼に近付こうとするが、翔太は激しくもがきながら目を覆い隠し続けていた。
「見えない…何も見えない!俺の目が…みえなくなっているんだ!」
翔太が叫び声を上げ、ついには床に倒れ込んでしまう。
その瞳は虚ろでまるで何かに引き裂かれるように彼の視界は奪われていた。
「翔太…?」
「まさか…」
里奈は震える声で彼の名を呼ぶが、翔太はそれに答えられるだけの状況ではない。
彼の体はすでに動かず、目は完全に見えなくなっているようだった。
「嘘でしょ…こんなの…こんなのありえない…」
里奈はその場に崩れ落ち、嗚咽を漏らしながら泣き出した。
彼女の震える声が部屋の静寂に不気味に響いている。
「俺たちも…次はこうなるのか…?」
大輝は唇を噛みしめ翔太の無惨な姿を見つめた。
怪人アンサーの魔の手は確実に彼らを追い詰めていた。
――そして、次の犠牲者が誰になるかはもう目の前に迫って居るのは明らかだ。
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