なんじゃもんじゃ異聞樹譚
ヤマワロ
序章
プロローグ ニアヴは夢見がち
……その樹に触れてはなりません。あなたに森の王たる覚悟が、ないのならば……
その樹は、のたくるような
その生き物は、土色の肌の裸身をさらし、二足で直立していた。体毛は薄く、尾も羽もなかった。しかし頭部の毛は豊かで、それらは人間の特徴を示していた。
その生き物は、顔の部品の位置も人間同様だった。しかし、髪は草色で、耳はウサギのように長くとがり、鼻はブタのようにそり返っていた。大きな目玉をおさめる
その生き物は、
その生き物は、力なく
「やあ、ニアヴ!」
その
「ねえ、オシアン。この樹、まるで
ニアヴの長くまばゆい金髪は、葉っぱをかたどった髪どめとともに、微動だにもしない。
オシアンと呼ばれた青年は、
オシアンは、飾りけのない短ぐつを鳴らし、芝居がかった調子で答えた。
「ふーん、
そのあとのひと呼吸の間は、オシアンを不安にさせるものだった。
しかして娘は、すっくと立って、クルリとふり向いた――大きな
「この世には、樹にまつわるたくさんの物語があるわ!」
ニアヴは言いながら、両の手のひらをひと鳴らしして合わせた。夢みる瞳を薄目がちに、身ぶり手ぶりで話を続けた。
「
ニアヴの両手が、虚空にみのる幻想の実を包みこんだ。話は続く。
「古い
ニアヴは、右上に
「妖精は、生来の悪意によって、取りかえっ子をしました。産まれたばかりの人間の赤子をさらい、醜い
ニアヴは、胸もとに抱える幻影の赤子をあやした。話は続く。
「森の奥深きに、足を踏みいれてはなりません。鬼人に怪物、
ニアヴは語るにつれ
「樹は、あるところでは神の
ニアヴの物語がやっとひと息ついて、オシアンは
「やれやれ、ニアヴの空想癖は相変わらずだ! その木にも、何か
とたんにニアヴの顔から火が消えさり、プイと後ろを向いてしまった。
「伝説やおとぎ話にも、一片の真実があるものよ。ひと続きの歴史が、分裂融合、
ニアヴは続けた。先ほどまで、熱心に見いっていた足もとの木を、今度は冷たく見おろして。
「これはただの
ふたたびオシアンは、彼女の金髪に絡む、手のひらのような葉っぱを拝まされた。彼は思案げにあごをさすると、もうひと芝居としゃれこんだ。
「血を流す樹があった。悪魔は神罰により、身もだえも叶わぬ樹と変えられた。死を乞う樹は、その身切りさかれ命果てるとき、魔性の血を滴らせた。血は樹の力を帯び、不老長寿の
オシアンは、いつの間にやら拾っていた、枯れ枝をかざして続けた。
「そして、その血でその骨身をすすげば、樹は鉄なぎの魔剣と化し――」
「何それ」
ニアヴは誘い水に惹かれ、半身だけ返し尋ねた。オシアンは、弾んで問いかえした。
「その魔剣みたい?」
勢いづくオシアンとは裏腹に、ニアヴは冷ややかにひと言はねつけた。
「別に」
あせるオシアンはまくしたてた。
「なんとウチにあるんだよね!」
「へぇ」
「変な木のうわさ、知ってるだろ?あれを使ったらしくって――」
「ほぅ」
「飾り物みたいなくせして、やけによく切れてさ――」
「ふぅーん」
「ほ、本当だって! 今度見せてあげるよ!」
「それは、それは」
あがけども、わめけども、ニアヴはすげもなく、オシアンは「ちぇッ」と木ぎれを放って降参した。
ニアヴは、改めて
「ねえ、オシアン」
ふり向いたニアヴの目に、ふたたび火が灯っていた。話は続く。
「植物はその種子を散布するために、風や虫、鳥獣に水の流れと、さまざまに利用するのよ」
「それが何だい?」
「例えば、人間とその命を利用する植物があるとすれば、どんなものかしら?」
ニアヴの瞳は、微笑とともに
「例えば、世界の終末……人の生きれぬ世の荒廃……人を、この世を
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