Word1. 「勇気」

 僕には勇気がなかった。

 何かをやる、何かに手を伸ばす勇気さえ。


 君はいつでも手を伸ばした。

 君はいつでも届いていた。


 そんな君が眩しかったんだ。

 僕とは違うなって、そう思った。


 君はさ、欲しいと思ったらすぐ掴めるよね。

 彼女も、友達も、趣味も。

 なんでも君は掴むことができる。

 それはきっと、支えてくれる人がいるから。




 僕は眩しい君を眺めているだけで、

 自分で手を伸ばすことなんて決してなかった。

 僕が君に手を伸ばしたら、君はけがれた僕に染まってしまうと思ったから。


 でもさ、期待を裏切らないでよ。

 何で君が、僕に手を伸ばすんだ?


 君が僕に触れた瞬間、君の友達は減っていった。

 陰口、いじめ。

 当たり前だった僕の日常が、君の日常にも伝わってしまった。


 それでも君は、僕に触れ続けた。

 きっとそれは――君に勇気があるから。


 僕に触れたら自分が犠牲になると分かっていながら、

 君は僕を抱きしめた。


 だからさ、ねぇ。

 僕も、少しだけ勇気を持ってみようかな。


 君にいくつもの勇気を、

 君にいくつもの光を、

 いっぱい、いっぱい、もらったから。


 ねぇ、僕も君に触れていいですか?


 抱きしめて――いいですか?


 勇気をくれて、ありがとう。

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