水の神話〜水神様に取り憑かれたわたしと、謎のイケメン〜

瑞葉

序(1)神社の跡取り娘のわたし

 森嶋神社の起源は、古くは鎌倉時代にさかのぼると言われる。地元の水神様、「おろち様」を祭る、山の上の神社だ。今にも廃線になりそうな路線バスで登らないとならない。


 そして、その跡取り娘がわたし、森嶋杏奈(もりしま・あんな)。


 お父さん、お母さんは今のわたしにはいない。フェリーの海難事故でふたりを亡くしてしまって、神職はお母さんからおばあさまにまた戻った。

 おばあさまはスパルタだ。高校二年生のわたしは毎朝六時起き。井戸の水を汲んで、井戸から五分くらい歩く距離の「おろち様」の石像にかけないとならない。石像は胴体が蛇の女性の姿をしている。

 毎日の水かけをおばあさまとわたしは「水やり」と呼んでいた。一族の女性が毎朝水やりをしないと、「おろち様」の封印が解けて、災いが起きるとかなんとか。

 わたしが初潮を迎えた十二歳の時から、おばあさまに授けられた、大事なお勤め。

 毎朝欠かさず、続けてきたお勤めなんだけれど。


「水やりなんて知らないよ。わたしも反抗期だ」


 朝六時五分前、わたしは布団を深くかぶって、「推しの韓流アイドル」のライブ配信のアーカイブを見ていた。


 この家、ほんと雑務が多すぎる。


 朝は石像に水やりの後、家に戻って、十五分で朝ごはんの支度でしょ。学校でしょ。放課後は「ファーストフード店に寄り道」なんてもってのほか。

「スーパーあらい」でいい野菜とお肉を物色して、保冷袋にありったけ入れて、バスに三十分乗って帰って、家中の拭き掃除して、夕飯の支度でしょ。


 この配信、見る時間がなかった。五千円で配信チケット買ったのに。今日のお昼までが視聴期限なのに。


 いろいろ考えたけれど、「おろち様」の石像への水やりなんて、「やってもやらなくても同じ」だもんね。

 

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