【短編】幼馴染少女2人がASMR練習に使うダミヘになったらしいので、黙って見守ることにします
misaka
第1話 「力を貸して、ダミへ君……っ!」
気がつくと、アナタは暗い場所にいた。声を発することも、体を動かす事もできない。それでも何故か、音だけは聞こえてくる。
遠くに聞こえる足音と、それに合わせて耳元で聞こえる擦過音。どうやらアナタは、何か小さな箱に入れられて運ばれているらしい。……と。
──ピンポーン
インターホンが鳴る音が箱を隔てて聞こえてきた。続いて、
『はい』
「
インターホン越しに対応する少女の声と、配達員の声が聞こえる。
そのまま、待つこと少し。ガチャリと鍵が開くとともに玄関ドアが開き、より鮮明に少女──入鳥黒猫の声が届くようになる。
「配達、お疲れ様です」
「いえいえ。ではこちらにサインを……」
箱の中にいるため、入鳥と配達員のやりとりは、壁を一枚挟んだような状態で聞こえる。手渡される際、を含め、耳元では梱包材と思われるものが擦れる音がする
「……はい、ご利用ありがとうございました。それでは」
「はい! ありがとうございます!」
そんなやり取りののち、配達員が遠ざかっていく。その音を背に玄関ドアが閉まり、入鳥が鍵を閉める音が聞こえた。
「ふふふっ、やっと届いた!」
弾む声とスリッパによる足音が少し。再び耳元で擦過音が聞こえ、今度は入鳥に運ばれているのだと分かる。
そのまま数秒。ドアを開ける音がしたかと思えば、コトンと重量のある物を机に置く音が聞こえてきた。同時に擦過音がしなくなったため、どうやらアナタが入れられた箱が置かれたらしい。
「早速あの子に連絡しないと。えっと、
スマホを操作する数秒の間を置いたのち、「よしっ」と入鳥の声が聞こえてくる。そして、段ボールからガムテープを剥がす音が聞こえてきて、
「よいしょ、よい……しょ……っと!」
そんな入鳥の掛け声がクリアに聞こえるようになったことで、アナタが入れられていた段ボールが開けられたことが分かった。
アナタの耳元でガサゴソと、梱包材を剥がす音がしばらく聞こえてきたと思えば、
「ゴクリ……。これが、柑奈の言ってたダミーヘッド……ダミへなのね」
真正面から、ハッキリと入鳥の声が聞こえてくるようになる。そのまましばらく、興味深そうにあなたを前後左右から観察する入鳥の声と息遣いが聞こえる。
「か、柑奈。ASMRも好きって、言ってたわよね? あたしのV……『ニオ』のASMRも聞いてみたいって言ってくれてたし……」
そして、アナタの耳元でも息が聞こえた直後、
「『柑奈、好きよ』」
そんな入鳥の囁き声が、聞こえてきた。しかし、すぐに、
「〜〜〜〜〜〜っ!」
悶絶するような吐息が、耳元で聞こえてくる。続く言葉も、羞恥をこらえて絞り出すような声量だ。
「あたし、何やってるのかしら!? 恥ずかしくて死ぬ! 先輩配信者さんたち、よくこんな事ができるわね!?」
はぁ、はぁ、と。荒い息遣いがしばらく響いたあと、コトンとあなたを机に置く音がする。
「幼馴染って関係を壊したくなくて。面と向かって言えないから、ASMRの練習にかこつけて『好き』って言おうだなんて。我ながら、情けない話。きっと学校の子たちに見られたら、失望されちゃうわね」
自嘲気味に呟いた入鳥。
「けど、こうでもしないと柑奈への好きが溢れてしまうもの……。だから、どうか──」
話しながら近づいてくる入鳥の声。やがて耳元で聞こえた力強い衣擦れの音から、入鳥がアナタを胸に強く抱いたことが分かる。
そして、すぐ頭上にある入鳥の口から、ハキハキとした印象のこれまでとは一転。
「──情けなくて弱いあたしに、力を貸して、ダミへ君……っ!」
祈るように弱々しい口調で、そんな言葉が漏れるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます