失くし物

@mohoumono

失くし物

物を失くしても、ふとした時にそれが出てくる時がある。例えば、来客用の布団を出そうとした時、年末に大掃除をした時、衣替えをした時、ベットの下を覗いた時、そんな時に見つけた物達は、隠れんぼを楽しむ子供が、見つかった事を嬉しがるような表情をしていた。物を失くしたとしても、無くなったわけじゃない。それこそ、火で燃やしたり、土に埋めたり、海に沈めたり、宇宙に飛ばしたり、そんなことをされない限り、無くなるわけじゃないと思う。でも、君は亡くなって無くなった。今もこうして、墓に来ているわけだけど君の声の記憶すら失くしてしまった。思い出そうとも思い出せない。君が忘れて欲しいなんて言ったあの時は、腹が立ったが、君の言う通り、君に関する物を失くしていけばいくほど、人生に余裕が生まれた。雨が降り続けたら、虹は差さないなんて言っていたけれど、その通りだと思う。失くしたなんてカッコつけたけど、君の言葉に関してはまだ失くせてない。君の姿も声も性格も思い出も、もう失くせたのに、幸せに生きれている。それがなんとなく嫌になった。だから、この少し黄色く変色したペンダントは、もう少し借りておく。5年前に君の家に行った時、君の部屋は、君が亡くなった時のままだった。声をかければ、眠たそうに椅子を回転させるこちらを見る君が見えた。瞬きをしたら消えたけどね。君の母に頼まれた掃除をしていると、押入れの奥に、くちゃくちゃになった箱があった。その箱には、一度握られた跡がある付箋が貼ってあって、僕の名前が書いてあった。その箱の中には、綺麗な緑色のペンダントがあった。

失くしたら返してくれ。そう書いてあった。

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