カ ワ ギ
芦屋 瞭銘
第1話 久々の依頼、久々の銭湯
一件のメールが届いた。何ヶ月ぶりだろうか、ああ、思い出した。四ヶ月ぶりだ。
件名は怪奇現象の調査依頼。軽く目を通した感じだと、噂で聞いた怪奇現象の真偽を確かめて欲しいらしい。俺はごくりと喉を鳴らして、メールの文をゆっくりと目をなぞっていった。
『初めまして。水曜と申します。今回は噂になっている怪奇現象について調査いただきたくご連絡いたしました。〇〇区XXのXX浴場にて出没する、カワギという妖怪の真偽を知りたいです。
カワギについては調べてもよく出てこなかったのですが、噂によれば銭湯の壁の一部が濡れずに乾いており、その乾いた壁に気がついたら濡らさなければならないようです。気がついたのに濡らさなかった場合は、カワギがその人物の自宅の風呂に移るらしいのです。そして自宅の風呂の壁を瞬時に乾かしてくれるとお聞きしました。本当かどうか調査をしていただけないでしょうか?』
「ふーん、なるほどねぇ……」
俺は自称不思議調査員の典太として、依頼人からの不思議な事案の調査を行なっている。依頼数はまずまず。今日は久しぶりの依頼だった。依頼内容は主に怪奇現象系と怪しい飲食店のレビュー調査。気になるけれどなかなか試す勇気がないものを俺が代行して試しているのである。
メールを見終わった瞬間、俺の口角は上がった。なんて面白そうな依頼なんだ。依頼が全くなかった期間のフラストレーションを一気に吹き飛ばすほどの興味が、俺をまるごと包んでいる。
それにこの浴場は俺の家から徒歩圏内だ。まだ足を運んだことはなかったが、目の前を通ったことくらいはある。知り合いは少ないので、噂を効いたことはなかったけれど。好都合すぎる。
「行ってみるか。えーっと、営業時間は……」
営業時間は昼過ぎから朝方まで。今は正午なので開くまであと数時間はある。俺は着替えをカバンに詰めて、悠々とベッドに横になった。
「いらっしゃい」
そして浴場が開店してから一時間ほどが経過した午後四時に、俺はその暖簾をくぐっていた。ここにカワギという妖怪がいるのか。窓口にいるご婦人に七五〇円を支払い男と書かれた入口から脱衣所に進んでいく。
「…………」
正直久しぶりの銭湯だったので、少し気分が上がる。銭湯特有の爽やかな濡れた木の匂いに思わず息を吐いた。扇風機の風に髪を弄ばれながら服を一気に脱いで中に入った。ロッカーの鍵を腕につけて辺りを見渡しながら中を確認していくことにした。
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