第42話 税金の使い方

「再分配の方法がいろいろあるって、お金を配りなおす以外にもあるってことね」


 カノは、確認するように言った。


「お金を持っている人からより多く集めて、お金を持っていない人に配るのは、分かりやすいけど……うーん」


 ハルは、考え込んでいる。


「みんなから税金として集めたお金をどのように使ったら、世の中がより良くなるかな?」


 パパが、二人に尋ねた。


「単純だけど……みんなのために使う」


 カノは、首を傾げながら述べる。


「そりゃそうだろうけど、何に使ったら……みんなのためになるのかなぁ」


 ハルは、つぶやいた。


「えっと、前にパパが話してくれたのだと、道路とか橋とかを作る。街を発展させるには、そういうのが必要だよー」


 カノは、気づいて明るい顔になる。


「あ、そうか。思い出した。『投資』だったね。道路や橋を作れば、街が発展して、より多くの価値を生み出せるかもしれないってことだ。その街に住んでいる人にとっては、便利になるとうれしいよね」


 ハルも、カノの意見にうなずいた。


「二人とも勉強の成果が出てきているね。では、それ以外にはあるかな? 考えてみよう」


 パパは、二人の顔を見て、さらに促す。


「えっと、学校、つまり教育もだよね。小学校や中学校って、義務教育だから……」


「んーとね、信号機や街灯の電気代よ」


「じゃ、公園の……水道代とかもかな」


「義務教育にかかるお金は、税金だね。ちなみに、小学校の児童一人あたり、一年間で約八十六万円の税金が使われているそうだよ。六年間だと五百万円以上になるね」


 パパは、カノの顔を見て言った。


「ええっっ! わたし、一人にそんなお金がかかっているんだ……」


「それから、信号機や街灯、公園といった公共の場にかかる光熱費もほとんどの場合、税金だろう。それから、図書館や市役所などの運営も税金だね。警察や消防といった街を守る仕事にも、税金は使われている」


「話を聞いていると、普段のぼくたちの生活に欠かせないものばかりなんだね。みんなから税金を集めるのは、そんなにひどいことでもないのかなぁ」


「ね、税金が集まらないとしたら、どうなるのかな? 学校はなくなりそう?」


 カノが、尋ねる。


「いい質問だ。そうだなぁ……まず、学校で授業ができなくなるだろうね。信号機や街灯の電気代が払われないので、車の運転は大変になるし、夜はそうとう暗くなってしまうだろう。火事になっても消防車は来ないし、犯罪事件があっても警察がかけつけてくることはない。道路や橋を作ることも維持することもできなくなる。つまり、道はでこぼこになってしまうだろう。結果として、自分たちの住む街がどんどんすさんで悪くなっていくだろうね」


 パパは、もしもの話を二人に説いた。


「うはー、やっぱり税金って大事なのかも。でもさ、ニュースを見て、大人が税金のムダづかいだって言うのは何故かな?」


「それは、第一に大きなお金を動かすからだ。日本全国の国民から集めた税金は、一般的な家庭ではあつかわないようなとても大きな金額になる。それを上手く使えないと、損失も大きいことがわかるよね?」


 パパは、二人に確認する。


「『投資』の額も大きいけど、失敗した場合の損失もとんでもないってことだよね」


 ハルは、習ったことを復習するように言った。


「そう。第二に、お金を使う人たちの感覚。自分が汗水垂らして働いて稼いだお金でもなく、知恵をしぼって成功させたビジネスの利益でもない、国のルールによって強制的に集まられたお金が税金だ。だとすると、お金を使うことを決める人たちは、そのありがたみがイマイチわからないのだろうと思う」


 パパは、感じていることを伝える。


「うーん、それってどういうこと?」

 

カノは、質問する。


「例をあげてみよう。いきなりここに一万円札が渡されました。本日中に使ってください。使わない場合は回収しますと言われたら……はたして良い買い物はできるかな?」


「えー、いきなり自由に一万円を使っていいって言われたら、衝動買いしそう。だって、自分のおこづかいとか関係ないもんね」


「一日以内に使わないと回収されるって……ぼくは、なんでもいいからとりあえずなんか買っておこうってなっちゃうと思う。その方が少なくとも得だよ」


「今の話は、実はたとえ話ではなくて、実際の税金の使われ方なんだよ。金額を一万円にして、期間も一日にしたけど、本来なら金額を百億円、期間を一年間とした場合だったりする。一年間といった一定期間に使ってしまわないといけないお金を予算と呼ぶのだけど、これは前年の使ったお金と同じ額があたえられる場合が多いかな。でも、使い終えないと……余った分は本来不要だったのですねと次の年から減らされてしまう」


 パパは、説明した。


「えっ、それなら、なんだか無理やりにでも、使いきった方が得よね」


「なるほどね……。だから、税金もむだづかいしちゃうんだ」


「もちろん、正しく必要な金額を考えて予算をとって、その目的どおりにお金を使っている場合も多い。でも、今の話のように、目先のお金を使い切らないといけないと思うと、良い使い方にならない場合があるだろうね。おまけに、『税金』は投資の面があるので、必ずしも成功するとは限らない」


「なんだか、『税金』を正しく使うのって、難しそう」


「みんなが働いてかせいだお金の一部でもあるから、ムダづかいはして欲しくないもんなぁ」


「そうだね。この二つに加えて、第三としてはね、次の年も、その次の年も必ず税金は集まるということ。つまりお金が何もしてなくても用意されるんだね。これはかなり使うことを決める人の心理に影響すると、パパは思う。間違った使い方をしたとしても、関係なくお金が手に入るからね」


 一息入れて、パパは続ける。


「通常の『投資』の場合は、失敗したら、儲けもなくお金を失ってしまうよね。その時、『投資』に失敗した人は反省し、次の機会のためにお金を蓄えないといけない。でも、『税金』はそんなの関係なく、また国民からほぼ自動的に集められてくる」


「それじゃ、お金を使う感覚が鈍くなりそうだよ」


 ハルは、感想を述べる。


「なんだか、大金を軽い気持ちで使ってしまいそうよね」


「みんなから集めて、みんなのために使う『税金』は、使い方がとても難しいのではとパパは思う。他にも『税金』のように、みんなから集めて、みんなのために使うお金は、健康保険や年金などがあるね。二人には、大人になった際に、こういったお金の仕組みをきちんと理解してほしいと思う。今日は基礎的な話だけにしておくけどね」


「はーい」


「やっぱり、お金って社会で生きていくためには不可欠だし、知っていないといけないんだなぁ」


 ハルは、つぶやいた。

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