第13話 原価割れでも売る時
「それでは、値段が原価よりも安くなってしまう場合はあると思う?」
パパは、二人に問いかける。
「えーっ、原価よりも安い値段ってことは、利益がないってことでしょう。あ、ちょっと違うね。原価よりもだから……」
カノは、考え込んでいる。
「赤字だね。儲かっていないどころか、損をしてしまっている。お金が減ってしまうってことだ」
ハルは、お兄ちゃんとしてフォローした。
「そ、そんなにまでして、売ることってあるのかな?」
カノは、兄の顔を見て戸惑いながら言う。
「実はあるんだよ。値段を原価よりも安くして売ることを、『原価割れ』と言うんだ。そうまでして、売る理由はどんなことがあるだろう? 考えてごらん」
パパは答えを言ったあと、さらに二人に問いかけた。
「えーっと、値段が安くなる場合は、さっきの需要と供給の話からだと……需要がない、買う人が少なくて、商品の供給が多い状態なんだよね」
ハルは、確認するように言った。
「売る側は商品がたくさん余っているわけよね。原価よりも安い値段になるってことは、スーパーセール! バーゲンセール!」
カノは、楽しそうに微笑んだ。
「あっ、そうか。商品をはやく……えーっと、お金にかえたいんだ、きっと。損になってもいいから」
納得したように、ハルは言う。
「お金にしたい。戻したいってことね。お金なら他のものに交換できるから、いろいろなことに使えるもんね」
カノも、理解したようだ。
「二人とも、なかなか良いね。商品を作るためにお金を使っているから、ぜんぜん売れないとわかったら、なんとかお金に戻したいわけだ。そうすれば、再チャンスが生まれる。何か他の商品を作ることも可能になるからね。じゃ、少しふみこんだ質問。売れない商品をそのままにしておくと、どうなるでしょうか?」
「んーと、売れないから、お金にかえられません」
カノは、当たり前でしょうといった顔になる。
「えっと、ずっと売り場に残ったままなら……あ、他の商品を置く邪魔になりそう。他の売れる商品に置きかえたいってなりそうだなぁ」
ハルは、想像したことを言った。
「あ、だからかー。お洋服のバーゲンセール。夏物とか冬物はその季節が終わるころに、とっても安くなるよ。あれは新しい洋服を並べる場所が欲しいのね。だから、お金にかえるだけじゃないんだわ」
「売れない商品が残っていると、新しい商品を並べる場所が用意できなくなる。まだ売れていない商品は、在庫として場所をとってしまう。なので、原価割れでも売って、お金にかえる方が、利点が多いわけだね。お金は銀行に預けてしまえば、ほとんど場所を取らないというおまけつき。売れない商品はそのままにしておくと場所を取るし、そのために倉庫を借りたりなんかしたら、余計にお金がかかってしまうわけだね。だから、あるタイミングで原価割れでもいいから売ってしまいたいのさ」
「いつ、売れない商品だと判断するのは難しそうだよ。だって、がんばって作った商品が、人気がでない、売れないじゃ、もうちょっともうちょっとと売れるのを待ってしまいそう」
ハルは、売る側の気持ちを代弁する。
「そうだね。それは時期をしっかり見きわめるのが大事だろう。さっきの洋服のバーゲンセールは、季節の変化に応じて、次の季節物を用意できるように行うわけだ。わりと分かりやすいね」
「パパの話を聞いて、ちょっと納得。人気がない洋服が残って、バーゲンセールとなってしまうから、やっぱりオシャレな服はなかなかそこでは見つけられないのかなって」
カノは、口元に人差し指を当てながら言った。
「まぁ、その感覚は大事かもしれないね。でも、良い商品だとしても、セールになってしまうこともある。それはなぜか?」
「あ、それはなんかわかりそう……えーっと、新製品が出た時に、いままで最新だったのがちょっと古くなって、セールになる。やっぱり売る場所を確保するために」
ハルは、自分の考えを述べる。そして、残っていたコーラを飲み干す。
「そうだね。新製品なら広告もされていて、欲しい人が出てくる可能性が高いからね。そういう時に在庫になっている、ちょっとだけ古い製品はお得なのさ。家電なんかはこういうことがあるので、欲しい機能をもったちょっとだけ古い製品を買った方が良いかもしれない」
「店員さんも喜びそうね。はやく売り切ってしまいたいでしょうから」
カノは、うんうんとうなずく。
「ものの値段の話はこれくらいにしよう。長居してしまったね。さてと、とりあえずお家に帰ろうか」
「了解です。だけど、外はまだ暑そうね……。パパ、デザートの代わりにアイス買って帰ろうよ!」
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