ガチ恋にハマった私⑦
お金稼ぎの面が強い配信活動であるが全く楽しくないというわけでもない。 その証拠に配信をやっているうちに気付けば外はすっかり暗くなっていた。 とはいえ今回の稼ぎもそれ程盛り上がっていない。
ざっくり計算しても一万円を超えるかどうかというところ。
―――・・・そろそろホストへ向かわなきゃ。
前までは“ホストへ行きたい”だったが今では“行かなければならない”と義務のようになってしまった。 それも全てお金に余裕がないせいである。
―――結局Trueさんは来なかった。
―――最近お金を稼げていない。
―――これじゃあ今月シンジくんはランキングから落ちてしまうかも・・・。
先程のこともありホストへ行くことすら憂鬱な気分だった。 お気に入りのカフェをチラリと見てから溜め息を一つ、隣にあるコンビニでカフェオレを買って一気に飲み干すとホストへ向かった。
ホストへ着くと早速とばかりにシンジが迎えてくれた。
「さっきはごめん。 少し節操なかった」
開口一番に言われたのは謝罪の言葉だった。 確かに普段のシンジとは違うと思い遥香も気になっていたところだ。
「あ、ううん。 同伴ってそういうものだから大丈夫」
「いや、遥香を楽しませるのが同伴なんだけど・・・」
「何かあったの?」
「最近ちょっと生活が厳しくてな。 それでイライラしていたのかも」
「生活・・・? お金が厳しいっていうこと?」
「あー・・・」
「先月もナンバーワンになったんじゃないの?」
「なったけどそれが全てもらえるっていうわけじゃないから」
「そうなんだ・・・」
「それに入ってくるのが多くても出ていくのも多くて。 お金を使う勝負みたいな感じで使い過ぎた。 ・・・実は借金までしていてさ」
「え、そうなの・・・!?」
「こんな職業だからまともなところだと貸してもらえるわけもなくて」
―――シンジくん、そこまで追い込まれていたんだ・・・。
―――一体お金を何に使っているんだろう?
―――助けてあげたいけど私もお金は今あまりないんだよね・・・。
―――一番高いものを頼むと私も借金することになる。
―――シンジくんのことは好きでシンジくんにとっての一番になりたいけど流石に借金なんて絶対に駄目。
そこでシンジはパンッと手を叩いた。
「ごめん、湿っぽい話はおしまい! 今日も楽しんでいって。 ボトルはどうする? いつものでいいかな?」
そう言っていつもの流れで一番高いものを頼もうとする。 先程借金話を聞いたのはあるが遥香もない袖は振れない。
「ちょ、ちょっと待って! そうだね・・・。 時間はたっぷりあるからまずはこれで」
ドリンクの店内表示されていないメニュー表から手頃なものを選んだ。 ホストクラブではドリンクだけでなく滞在時間にもお金がかかってくる。
「これでいいの?」
「ま、まぁ、まずはね! さっきカフェオレを飲んできちゃったし!」
現在の遥香の経済状況で高額なドリンクを入れればホストクラブにいられる時間が短くなってしまう。 そう考えると高額なドリンクは控えて長いことここにいたかった。
「カフェオレを飲んだのにカシオレ? もしかして疲れでも溜まってる? というか最近は豪快にお金を使わなくなったね。 どうしたの?」
「え? いや、別に・・・」
「もしかして遥香もお金が厳しいとか・・・?」
悟られないよう視線をそらしたが隙を突かれてしまった。
「・・・! い、いや、そういうわけじゃないけど今は身体が糖分を必要としているみたいだから・・・」
それも全くの嘘というわけでもない。 寝不足気味でもあるし、お金のことを考えて精神的にも疲弊している。
「やっぱり疲れているのか。 無理はしないようにね」
しばらく二人の時間を楽しんでいるとシンジを指名していた女性が店内表示されている高額なお酒を注文した。
「ちょっと俺行ってくるね」
「あ、うん・・・。 行ってらっしゃい」
―――いつかこうなると分かってはいたけど。
―――いざいなくなると寂しいな・・・。
シンジは行ってしまった。 シンジはナンバーワンになってから確かに忙しくなった。 だがそれでも10分程したら確実に戻ってきてくれていた。 それでも今日は何十分待っても戻ってこない。
―――・・・流石にカシオレだと凡客過ぎるよね。
―――でも私には今そんなお金なんてない。
―――すぐに配信しに帰りたいけど、ここで稼ぐためにお店を出たらシンジくんは私のものではなくあの人のものになってしまう・・・。
―――シンジくんにとってのナンバーワンは私じゃないと駄目なの。
―――私じゃないといけないの!!
そう思った時以前気にかけてくれていたルイが席に着いた。
「あ、ルイくん・・・」
「見ていたよ。 酷いね、彼」
「え?」
「高い酒を入れなくてもこの時間を楽しめばいいのに」
そう言って遠くにいるシンジを見る。
「あー・・・。 でもホストってそういうものじゃ」
「俺はそうは思わないな。 高い酒なんて頼まなくていい。 カシスオレンジいいじゃん」
「・・・ありがとう」
「ウチはカクテル類も充実しているから女の子が来やすいんだと思ってる。 高い酒のオーダーが入れば店は潤うしホストの実入りもいい。
だけど金なんて無限にあるわけじゃないんだしいつかはきっと無理が出る」
「・・・!」
その言葉が今の自分に響きドキッとした。
「遥香ちゃんはできることをやってくれればそれでいい。 今だけシンジを忘れてこの席で楽しも?」
ルイはよく笑う人で遥香も楽しかった。 もし最初に知っていたのがルイだったら惹かれていたのかもしれない。 だが結局シンジが戻ってくることはなく時間制限が来るまでルイとの時間を過ごした。
―――確かにルイくんとの時間は楽しかった。
―――・・・だけど私の心は満たされていない。
―――私が求めているのはシンジくんであって楽しくてカッコ良い別の人ではないんだ。
そう思うと遥香は陽向に電話をかけるため手洗いへと向かった。
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