ガチ恋にハマった私⑤




「ただいまぁ・・・」


シンジと別れ家へ帰るとそのままソファーへとダイブする。 久しぶりのシンジとのデートだったというのに早めに切り上げてしまった。 恋人同士ではないためやはりお金がないとなかなか楽しめない。

この後はホストへも行く予定があるのだ。 というより、それがあってこそシンジとのデートは成り立っている。


―――キツッ・・・。

―――常にお金に過敏になって気が抜けないしこれじゃあ精神的に参っちゃうよ・・・。

―――あぁ、疲れたぁ・・・!

―――それ程距離歩いたわけじゃないのになぁ。


時刻を確認する。


「まだ夕方か・・・」


今朝もらった花束へ視線を移した。


―――今日ホストへ行くの遅らせようかな・・・。

―――そしたらたくさん注文しなくて済むし。

―――でもそれじゃあ余裕がないってあからさま過ぎる・・・?


実際お金がないのは事実だがそれをシンジには知られたくなかった。 いや、今日の感じだと気付いているのかもしれない。 最近はお店でも露骨にお金を使う額を減らしている。


―――バイトでもするか、でもなぁ・・・。


そこで気合いを入れ直しパソコンの電源をつけた。


「あぁ、もう! 悩んでいても仕方がない! 配信しよう、配信!!」


悩むくらいなら今稼げばいい。 そうして配信の準備をしている時だった。


「うん、誰だろう?」


スマートフォンが震え確認してみると陽向からだった。 今は手が空いているため電話に出てみることにした。


「もしもし? 陽向?」

『あ、遥香ー? 今平気?』

「平気だよ」

『明日の午後、一緒にスイパラへ行く予定のことなんだけど』

「・・・え!?」


突然の出来事に慌ててスケジュールを確認する。 そこには確かに陽向とスイーツパラダイスへ行く予定が入っていた。

スイーツパラダイスとは最近テレビでも特集されたケーキ屋で店内でホールケーキを自分でカットして食べることのできるお店だ。


「あ、あぁ、スイパラね! でもごめん! 明日はパスにして!!」

『え? いや、急過ぎない? 一週間も前から決めていたことだよ?』

「そうだけど予約とかしていないでしょ?」

『予約はしていないけどそろそろ私に構ってくれてもよくない・・・?』

「何それ、構うって。 私たち付き合っているみたいな可愛いこと言っちゃってー」

『・・・』

「ちょっと今週お金を使い過ぎちゃって今は稼がないとマズくてさ」

『切羽詰まり過ぎじゃない?』

「え? ま、まぁ・・・」

『どうせホストでしょ? いくら何でもホストに貢ぎ過ぎだって! 今までいくらくらい貢いだの?』

「うーん・・・。 1000万円くらいか、な・・・?」

『1000万ッ!? どこにそんなお金があったのよ!? 本当にヤバいって!!』

「ヤ、ヤバイかなぁ・・・?」


今は厳しいが配信状態がよかった時は遥香はかなり稼いでいた。 配信一回で数十万円のお金が入ってくることも珍しくなかった。 それで金銭感覚が狂っていてもおかしくない。

ただ配信業は収入的には安定せず多く稼げる時もあれば全然稼げない時もある。 仕送りはもらっていないため当然生活費などもそこから捻出していて稼げないと厳しい。


『本当にパパ活とかしているんじゃないでしょうね?』

「なわけないって! そんな知らない男に自分を売ってお金を稼ぐなんて無理だから」

『ホス狂の末路みたいになろうとしてない?』

「ホス狂の末路・・・?」


想像してみる。 実際に見たことはないが破産して大変な人生になるのは目に見えた。


―――借金してお金を貢いで、それでもお金がなくなって捨てられて、それが嫌で夜のお店に・・・。


「・・・や、止めてよ、本当」

『それはこっちの台詞だって。 そういうのって中毒性があるから気を付けなね?』

「分かってるって」

『というかもう遅いかも・・・。 一度病院へ行って診てもらった方が』

「だから止めてって! 私を病気扱いしないで!!」

『ごめん・・・。 でも私は遥香のことが心配で』

「分かってる。 それは感謝してるって言っているでしょ」

『本当に感謝してる・・・?』

「え・・・」

『余計なお世話とか思ってない?』

「・・・お、思ってないよ」

『今口淀んだよね』

「いや、本当に有難いと思ってるよ。 ただそれとこれとは別というか今日の夜もホストへ行かないといけないの」

『行きたい、じゃなくて義務みたいになってるじゃん・・・』

「義務と言えば義務なのかもしれない。 長期休みは頑張りどころだからね!」

『どうしてそんなに夢中になるの?』

「シンジくんにとってのナンバーワンは私だから」

『それはシンジくんにとって、でしょ? 遥香にとってのナンバーワンはシンジくんじゃないの?』

「え・・・?」

『・・・もうずっとそういう感じだと本当に大切なものを失うことになるかもしれないよ』

「え、ちょ、何それッ」


尋ねようとしたところで通話を切られてしまった。


「え、何、今の・・・?」


―――別に陽向には迷惑をかけていないよね?

―――確かにドタキャンは申し訳ないけど一緒に遊ぶ機会が減ったくらいだし・・・。


不思議に思いながらもお金を稼ぐため配信を開始した。 ただどうしても今の言葉が気になってしまい胸のモヤモヤが晴れない。


“あれ? 何か元気なくない?”


「え? あ、あぁ、そうかな?」


“この半日で何かあったの?”


「べ、別に何もないよー。 さぁ今回の話題をもらおうかな」


―――お金のことだけじゃなく陽向のことも気がかりになっちゃった。

―――でも今は仕事、平常心平常心・・・!


「えー、今回のテーマは政治が人生に影響する割合はどのくらいか・・・。 って、何それ!? ムズッ!!」



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