第50話:古代語のノート
俺はお城に入るのは修学旅行先の首里城しか経験がない。
首里城は俺が生まれるよりずっと昔に王族不在になってしまったから、王様との謁見の経験なんて皆無だ。
礼儀作法とか、知らないぞ?
まあ、今まで会った猫文明の王族は全員初対面で俺に抱っこされているので、作法とか気にしなくていいのかも。
とか思いながらお城の門前まで来た俺は、着いた途端に猫文明の王族のユルさを知ることになった。
「やあタマ、よく来たね」
「って、王様自ら正門まで来ちゃうんですか」
なんと、門前に立ったらすぐに門が開いて、ニコニコしながらジル陛下が出てきたよ。
門番はといえば、俺を見ただけでスッと左右に退いて門を開けてるし。
「君が来るのを楽しみにしていたんだよ。さあ入って入って」
「じゃ、俺はサケマス漁に行くから、タマはお城でゆっくりしてこいよ」
……なんだろう、この親戚の家に来たみたいな気安さは。
イナリは魚を獲りに行ってしまい、城の中には俺だけが招かれた。
ジル陛下は尻尾をフッサフッサ揺らしながら、俺の前を歩いて城の中を案内し始める。
普通それって侍従とか侍女がやるもんじゃなかろーか?
「タマに見てもらいたい物があるんだ」
と言うジル陛下に連れられて、着いたのは大きな書庫。
猫文明の文字を、俺は読むことができる。
猫たちの言葉が分かるのと同じで、俺にはごく普通に読み書きできるんだ。
「ほら、このノートだよ。読めるかな?」
ジル陛下が棚から取り出して差し出すノートに書かれていた文字は、猫文明のものではなかった。
表紙に書かれた文字も中に書かれた文字も、みんな英語だ。
OISTの中に残されている研究ノートみたいに、専門用語がビッシリ書いてあるぞ。
「多分これ、何かの研究を書き留めたものですね」
「そのノートはね、大陸の遺跡の中から見つかったものなんだ」
「繰り返し【cats(猫たち)】【gene(遺伝子)】という単語が出てきます」
「やはりそうか。おそらくそれは、我々の進化と関係するものかもしれないんだよ」
書庫には閲覧用の机と椅子もあるので、俺はそこへノートを持って行き、座って読み始めた。
ジル陛下はといえば、俺の膝の上に乗って一緒に眺めながら話している。
小学生サイズの巨大猫を膝に乗せ、後ろから腕を回して抱くような体勢で、肌触りのいい猫毛に覆われた頭に顎を乗せてノートを読む俺。
どう見ても一国の王と共に機密情報(?)を読んでる感じがしないんだが。
ノートから読み取れた言葉は、大体こんな感じだ。
Genetic change with the medicine(薬品による遺伝子の変化)
I found that genetic sequence changed(私は、その遺伝子配列が変わるのを発見しました)
I use the cat for an experiment(私は、実験のために猫を使います)
他にも専門用語が山ほど書いてあり、俺の英語力というか科学関連の知識では解読できなかった。
あんまり大きな声で言ってはいけない気がして、俺は読み取れる内容を小声でジル陛下の耳に囁いた。
俺の息がかかるのがくすぐったいのか、時折ピクッと耳を動かしつつ、陛下は話を聞いている。
ノートの内容を共有した陛下と俺は、しばし沈黙した。
猫文明の始まりは、人間が猫に施した遺伝子操作だったのか?
だとしたら、一体何匹の猫を実験に使ったんだろう?
でも、ヤママヤー族となったイリオモテヤマネコは?
まさか絶滅危惧種だったものまで実験に使った?!
このノートを書いた者は、一体何をしたんだろうか?
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