第15話:北の国へ

 目の前に広がる、白い世界。

 砂浜よりも白い地面、木々も白い。

 舞うように落ちてくる綿毛みたいな白い物は、手で受け止めるとスーッと溶けて消えた。

 南国生まれの俺は、雪を見るのは人生初だ。


 その村がある場所は、別世界レベルに寒い地域だった。

 何だこの寒さ、冷蔵庫より気温が低い気がするぞ。


 っていうか、11月って冬なのか?!

 南国だとまだ海で泳ぐ人がいるよ?


「寒っ!」

「今年は積雪が早いなぁ。昨夜はかなり降ったみたいだ」

「防護膜を張らないと体が冷えちゃうよ」

「ここ、半袖で来ちゃダメな場所だ……」


 普段の生活では1年のほとんどを半袖Tシャツで過ごす俺。

 そのまんまの服装で来たから、初めての北国の気温に凍えそうな気がした。


「人間は毛皮が無いから寒そうだね」

「タマ、フォースで体を覆うイメージをしてごらん」

「ほら、こんな感じで」


 イナリとハチロウが左右からヒョイッと跳躍してきたので、無意識に受け止める。

 ほんわり暖かい空気に包まれて寒さは和らいだけど、成猫2匹まとめて抱っこはちょっと重かった。

 標準体型のオス猫は体重4~5kgらしいので、多分2匹で8~10kgになるんだろう。

 巨猫のミノルと大猫アババだったらこの倍になってたろうなぁ。

 一緒に来たのが標準サイズの猫たちで良かった。


「練習しながら進もうか。村はあっちだよ」

「あ~ここ快適だ。僕このまま村まで抱っこしてもらうよ」


 俺の腕の中で丸まりながらイナリが言うので、彼が片手(前足)で示す方へ向かうことにする。

 ハチロウが抱っこされて村まで行くと言うので、成猫2匹まとめて抱えたまま、俺は歩き出した。


 初めて歩く雪の上は、砂浜とは違う踏み心地。

 歩くたびに増える足跡は、砂浜よりもくっきりと残る。

 抱っこしている2匹のフォースに包まれたおかげで、寒さは感じなかった。

 フォースの防護膜を自分でもできるようにイメージトレーニング(?)しつつ進む。


 雪に覆われた家々が見えてきた。

 仔猫たちが外を駆け回っている。


 あれ?

 俺が知っている童謡では、雪が降ったら猫はコタツで丸くなってたような?

 喜んで庭を駆け回るのって、犬じゃなかった?


「あ! イナリが言っていた人間だぁ!」

「体おっきいね~」

「毛皮ないの? 寒くない?」

「二本足で歩くって本当なんだね」


 仔猫たちは俺たちに気付くと、わらわらと集まってきた。

 で、みんな揃って俺によじ登ってくる。

 俺、キャットタワーじゃないよ?


「えへへ~、いいだろ~高いぞぉ!」

「あ~っ、ズルイ! ボクも~!」

「もしもし坊やたち、俺は遊具じゃないよ?」


 仔猫まみれになった俺がツッコミを入れても、チビッコたちは聞いちゃいない。


「タマ、人気者だねぇ」

「特等席は俺たちのものだけどな」


 俺の腕の中に納まったまま、ハチロウとイナリが他人事みたいに笑っていた。



※画像:雪に覆われた川湯温泉の並木道

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093084889606896

 

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