第13話:お魚くわえたトラ猫
フォースを使って魚の種類は分かったけど。
この鮭、誰がなんのためにここへ置いたのかは謎のままだ。
「もしかして、誰かの差し入れじゃない?」
というのが、ハチロウの予想。
しかしなんでノックだけして置いて帰ったんだろう?
「ノックに返事したからいるのは分かったと思うけど、なんで会わずに帰っちゃったのかなぁ?」
「サプライズのつもりかな? 昔、祖先は餌をくれる人間の家へ獲物を差し入れたらしいよ」
「猫の恩返しか。でも俺は猫に餌をあげる人じゃなくて、猫に餌を貰ってる人だよ?」
水炊きをみんなに配ったけど、その材料は発掘でみんなが見つけたものや、アンナが狩ったものだ。
俺は猫たちに世話になっている身で、恩返しされるようなことはなにもしていない。
ハチロウと一緒に鮭を眺めて困惑していたら、1匹の茶トラ猫が瞬間移動で現れた。
「あ! 魚屋さんだ!」
ハチロウが言うまでもなく、その猫が魚屋だろうな。
現れた茶トラ猫は、俺たちの前にある鮭と同じくらいのデカイ魚を咥えている。
彼はこちらへ歩いてくると、先に置いてあった鮭の隣に新たな鮭を並べて置いた。
「えっと、魚屋さん? 鮭を売りに来たのかな?」
「これは売り物じゃなくて、君へのプレゼントだよ」
問いかけてみたら、お魚咥えてきたトラ猫は、ニッと笑ってそう言った。
魚屋さんとは初対面の筈だけど、なぜ俺がここにいることを知ってるんだろう?
「なぜ俺に? 会うのは初めてだと思うけど」
「肉屋から話を聞いたのさ」
「あ、もしかして……」
「そう。君の癒しの手を貸してほしいんだ」
肉屋の話が出た時点で、俺は魚屋の差し入れの理由を察した。
二千年前は忙しいと「猫の手も借りたい」なんてよく言ったものだけど。
猫文明になった今は、猫が俺の手を借りにくる時代のようだ。
「オレの名はイナリ。この体は病魔にとりつかれている」
「えっ?!」
「発症はしていないけどな」
と言うイナリは、見た感じは健康そうだ。
多分、体の中に病気の原因になるものが入っているけど、病気にはなっていないということなんだろう。
所謂「キャリア」という状態だな。
「君が持つという強い癒しのフォースで、この病魔を消し去れないか試してくれないか?」
「まだ初心者で何ができるか分からないけど、試すことはできるよ」
イナリの頼みを、俺は引き受けることにした。
できるかできないかはともかく、試してみよう。
「タマ、目に見えない病魔を癒す時は、患者をフォースで調べるといいよ」
「わかった」
ハチロウからアドバイスをもらい、俺はフォースでイナリの体を調べてみた。
猫免疫不全ウイルス感染症
ウイルス名:FIV(feline immunodeficiency virus = ネコ免疫不全ウイルス)
レトロウイルス科オルソレトロウイルス亜科レンチウイルス属。
状態:キャリア
外見上、健康な状態。
FIVウイルスの主な感染経路は、ケンカなどによる咬み傷からの体液の接触感染が考えられる。
ネコおよびネコ属に特異的なウイルスであり、他の種に感染することは無い。
FIVの感染が直接病気を引き起こすわけではなく、FIV感染による免疫抑制に伴う他の病原体の感染により発症する。
慢性口内炎、慢性呼吸器疾患、貧血、腸炎などの症状を呈し、数年にわたって徐々に衰弱し死亡する。
病態の進行した状況を、猫後天性免疫不全症候群と呼ぶ。
「免疫が正常に働かなくなるウイルスなんだね」
「そうだ。強い浄化のフォースなら、このウイルスを消し去れたことがあると言い伝えられている」
「じゃあ、ウイルスを消すイメージでフォースを使ってみるよ」
「じゃあ、僕はイナリの体からウイルスが消えるか見ていてあげるね」
「ああ頼む」
俺はその場で胡坐をかいた。
イナリがその上に乗ってくる。
ハチロウは俺の隣に座った。
茶色のちょっとパサついた毛並みを撫でながら、俺はイナリの体内にあるウイルスへ向けてフォースを流し込んでみた。
浄化をイメージしたからか、以前アババを治した時と光の色が違う。
純白の光が俺の手から滲み出て、イナリの体に吸い込まれていった。
「凄い……ウイルスがどんどん減っていく」
ハチロウは「ウイルスの量」を観察しているので、減っていく様子が見えるらしい。
しばらくすると、ハチロウは目をきらきらさせて、シッポを膨らませて驚きの感情を露わにした。
「き、消えた! ウイルスが全部!」
「おお!」
目を閉じて大人しく撫でられていたイナリも、シッポを膨らませて興奮しつつパチッと目を開けた。
どうやら、ウイルス消去は成功したようだ。
その後、イナリは大喜びで、恩返しに今後も定期的に魚をプレゼントすると言ってくれた。
先に貰った鮭2匹は炭火で焼いて、みんなで美味しくいただいたよ。
※第13話の裏話と画像
https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093084769076793
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