第8話:猫たちと鍋パーティ

 人類滅亡後の世界では貴重な食料品の数々。

 研究棟で保管する方が保存状態が良いと思った俺は、いくつかは食べるために持ち帰り、大半はそのまま残しておいた。


「ここは記憶している場所だから、いつでも連れて来てあげるよ」

「ありがとう」


 モリオン博士もそう言ってくれたから、またここへ来られそうだ。

 何より、まだ他にも探索する場所があるから、当分通うことになるだろう。


 古代文明研究所へ帰還した後、俺は持ち帰った白菜、鶏肉、昆布と、土鍋を使って水炊きを作った。

 あ、モチロン土鍋はきれいに洗ったよ。


「うわぁ、おいしそうな匂いがするぅ!」

「我々の舌は熱いものが苦手だから、冷ましてからいただくよ」

「じゃあ、小分けして冷ましてあげるよ」


 俺の肩の上でワクワクしているのはミカエルだ。

 他の猫たちも興味津々で眺めている。

 彼らは文明を築いた後も猫舌は変わらないらしいので、俺は加熱しながら食べるのではなく、まとめて作って小分けして冷ましたものをみんなに配った。

 俺の分だけポン酢醤油をかけて、猫たちにはち〇ーるを少々混ぜてあげた。


「ん、美味い! 二千年ぶりの水炊きだぁ」


 ミレニアムレベルの保存技術を完成させた研究者たちに感謝。

 俺は水炊きを美味しくいただいた。

 白菜の旨味と鶏肉と昆布のダシは、二千年前と変わらぬ味。

 ポン酢醤油も、柑橘系の香りと酸味がしっかり残っている。

 猫たちはといえば、ちゅーるで美味しさアップした水炊きに大満足の様子。


「んみゃっ!」

「んーみゃっ!」

「んみゃあっ!」

「ンマンマンマ……」


 よほど美味しかったんだろう、猫たちが言葉を失くして夢中で食べているよ。

 モリオン博士の指示のもと、猫たちのお皿にはお肉多めで白菜は少なめに入れておいた。

 その博士も、ハグハグと美味しそうに食べる姿は普通の黒猫みたいに見えた。


「あ~やっと野菜が食べられた」

「そんなに野菜が食べたかったのかい?」


 俺が夢中で白菜を頬張っていたら、モリオン博士が聞いてきた。

 肉食の猫には野菜はそんなに食べたいと思うものではないから、不思議に思ったらしい。


「人間は、いろんなものを食べることで満足する生き物なんだよ」

「なるほど。肉も野菜も食べられることは、それらをまんべんなく食べたくなるということなんだね」

「そうそう、それに肉も野菜も食べないと、体の調子が悪くなるんだ」

「ふむふむ。我々は獲った獲物を丸ごと食べて、そこから必要栄養素を摂取しているよ。植物をそのまま消化する機能を持っていないから、食事として野菜を食べることは無いな」

「消化できないんだね。なら、ダイエット代わりになったりして」


 モリオン博士と話しながら、俺は巨猫ミノルをチラッと見る。

 みんなに「ダイエットしろよ」って言われている彼は、全く痩せる気なんか無さそうに水炊きの肉をガツガツ食っていた。



※第8話の裏話

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093084446394658

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