志乃は、北条逮捕の直後に辞表を出した。


高橋を取調室から出したことに対する責任を取ってのものだった。

『神の国』という大犯罪組織の壊滅に大いに貢献した志乃であったため、この問題を不問にしようという上層部の動きも活発ではあったのだが、本来、曲がったことは嫌いな志乃の性格が、それを良しとしなかった。



「懲戒免職でないだけ、ありがたいことです。」


様々な機転、そして知識を持って特務課を支え、助けてきた彼女。

昇進の話も上がっていたのだが、それら全てを志乃は固辞。

警視庁を去ることとなった。



それから2か月。

志乃は都内の法律事務所に就職。

まずは助手から下積みを重ね、いずれは弁護士の資格を取りたいと勉強中である。


もともと、刑事であった父の影響で、正義を守る仕事をしたいと思い育ってきた志乃だったが、今回は警察とは違った正義の貫き方を追求していくつもりだ。



「警察と弁護士……立場は全く違います。もしかしたら、犯人側の弁護を依頼されるかもしれない。それでも私は、しっかりと真実を見極め、たとえ依頼人であろうと、悪であればそれを追求できるような、そんな弁護士になりたい。そう思っているんです。」



特務課メンバーたちは皆、志乃の選んだ道を疑わなかった。

志乃ならきっと、素晴らしい弁護士になれる。

そう、確信していたからだ。



その後、志乃は異例の速さで司法試験をパス。

所属していた法律事務所で弁護士として活躍することになる。

もともとそれほど都内では大きくはなかった事務所であったが、志乃がある裁判で決定的な矛盾を突き、凶悪事件の真犯人をあぶり出すことに成功。

その真犯人が弁護側の依頼人であったこともあり、一時報道を騒がせた。


この裁判が、志乃の弁護士史上初の敗北となったのだが、志乃の表情は晴れやかだった。


「私、勝ち負けなんて気にしてません。真実を追求することが出来れば、それが私の弁護士としての存在意義になるんです。たとえ何度敗れたとしても、真実がわかるのは喜ばしいことです。」


この言葉は世間を賑わせ、志乃に弁護を頼みたいという依頼人が殺到。

事務所は少しずつではあるが大きくなっていく。



そして志乃自身も、後にこう呼ばれるようになる。


『美しき真実の代弁者』と……。

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