13-2

「……ここだ。」


「……あぁ。」



一方、神奈川と東京の県境で司たちと別行動を取った小太郎と辰川は、再び東京都内に戻ってきていた。



「官房長官の阿久津……。だいぶやり方が悪どいって言うか……こっち側だけ見ればただのヤクザじゃねぇか。」


「あぁ。おそらくコイツが全ての悪事隠蔽の裏で糸を引いていた張本人だろう。見ろよ、小島に遠藤……既に消されたリスト作成者たちに、これだけの金を送っている。」



辰川は、捜査をしながらその裏で、警察の闇についても調べていた。



「これと神の国に、何か関係は?」


「そりゃ、大アリだろ。見てみろよ、灰島の妹の事件だけじゃねぇ。高橋とアサシンに殺されたヤツ、みーんな官僚の家族だったり、警察上層部の家族だったりだ。こっちには、大手会社の役員なんてのもあるぜ。」



この先の捜査に必要になると、辰川は所内の端末のネットワークに残されていた『小島リスト』の復元を悠真に頼んでいた。


「最近、事件に追われててよ、このリストを熟読することなんて無かったろう? ……もっと早いうちにしっかりと目を通しておくべきだったよ。俺達も……。」



辰川の表情は、いつになく険しい。



「まずここ。女性連続殺人犯・本宮の父親は、轢き逃げで死んでる。犯人は外務大臣の甥だ。そしてここ……連続放火犯・姉崎の妹は、暴行事件後に自殺してる。これも犯人は官僚の息子だ。」


「まさか……。」


「連続通り魔事件の犯人達も、それぞれ強盗に遭ったり、暴行を受けたりした被害者の家族・遺族だ。集団自殺事件で死んだ数人も……揉み消された事件によって、またはその影響で命を落とした人たちの遺族だ。」


「洗脳じゃ、無かったのか……。」



辰川と資料を見ていくうちに、虎太郎の頭の中で次々とこれまでの事件が繋がっていく。



「神の国は、この事件で辛い想いをした人たちに声をかけ、仲間に引き入れようとしていたのか。だから、犯罪者達が簡単に生まれていった……。」


「おそらくな。わざと『リストの事件』をちらつかせ、揉み消されたことを伝え、血の気の上がった遺族や被害者家族達を同志として迎え入れていった……。まったく、周到なことだぜ。」



「それで、自分も被害者だといえば、共感されて信頼度も高まる……と。」



虎太郎の苛立ちが募っていく。


「次のページ……。」


「……とりあえず、ここまでにしよう。この先は目的地に着いてからだ。」



リストの次のページをめくろうとした虎太郎を、辰川が制する。



「この先を見てから動くと……たぶん捜査が出来なくなるぜ。」


辰川は、この先の内容を知っているようであった。


「俺に限って、捜査に支障が出ることはねぇよ。これまで何度と無く修羅場をくぐり抜けてきたんだ。」



虎太郎は、この一連の事件において、もっとも成長した刑事といえるだろう。

仲間の危機、婚約者の死……。

数々の苦難が、虎太郎を成長させた。



「……それでも、だよ。」



それでも、辰川はリストの先を虎太郎に見せなかった。


「これが最後だ。どんな些細な気の乱れでも、許すわけにはいかねぇんだよ。その時に見せる。」


「……わかったよ。で、これからどこへ向かうんだ?」


「『最後の幹部』が狙ってる、最後の男。阿久津官房長官の住むマンションだ。」


「やっぱりな。了解。」



辰川の運転する車が、東京でも屈指のタワーマンションへと向かう。



「……なぁ、虎。」


「……ん?」


「俺が予想するに、おそらく相手は1人だ。どうする?お前1人で行けるか? 俺は、『万が一』の時のために応援を呼んでこのマンションを包囲しようと思うんだが。」



含みのある辰川の言葉。

しかし、虎太郎は怯まなかった。



「俺ひとりでいいぜ。そもそも何だよ、万が一って。俺が犯人を取り逃がすとでも思ってるのか?」


虎太郎が不満げな表情を辰川に見せたそのとき、ようやく車がマンションの前に停まる。


辰川は小さく息を吐くと、小島のリストの続きを虎太郎に差し出す。


「バァカ。お前は優秀な刑事だよ。俺が言いたいのはな……。」



リストを見ていた、虎太郎の手が止まる。



「……逮捕出来ないんじゃなくて、『逮捕しない』時の保険だ。」



虎太郎の手が、小刻みに震える。


「……大丈夫だよ、辰さん。」



しかし、虎太郎は険しい表情ながらも落ち着いていた。



「それならなおさら、逮捕して全てを終わらせねぇとな。そのために俺を呼んだんだろう? 辰さんは。」


「あぁ……お前が適任と思ってな。」



虎太郎が車から出る。


「悠真にセキュリティ解除するよう話しはつけてある。俺が合図すると同時にロックが開く。官房長官の部屋は、最上階。プライベートフロアになってる。エレベーターから出たら、すぐに警戒しろよ。」


「……了解。」



車を降りた虎太郎は、そのまま迷うこと無く真っ直ぐにマンションの入口へ向かう。



「悠真、いいぜ。」


「はいよ。」



そして、辰川の合図で悠真がマンションのロックを全て解除する。


「辰川さん、司です。東京に戻りました。」


ちょうど、そのタイミングで司からの無線が入った。



「みんな生きてるか~?」


「えぇ。あさみは大ケガを負ってますけど……。」


「何とか生きてま~す」


「そうか。こっちはこれから大詰めだ。みんな、無線をちゃんと聞いて、出来るところはサポートしてやってくれ。」



辰川がメンバーに声をかける。



「本当にこれが……最後だぜ。」


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