12-2
特務課メンバー達は、一度司令室に集結する。
これから、『神の国』という組織を追い詰める捜査に出る警視庁各員。
それぞれの課が勢い良く飛び出していった中で、特務課は一度、司令室で冷静に仕切り直そうと考えたのだ。
「今回は私も出ます。替わりに、総合指揮を北条さんにお願いしようと思います。」
「司ちゃんと比べたら些か役不足だけどねー。ま、精一杯やるよ。」
特務課の大筋の方針はこの司令室での話し合いで決まった。
北条が各課との連携を取りつつ総合指揮。
そのサポートに、志乃と悠真がつく。
志乃は道路交通情報、防犯カメラやNシステムなど、あらゆる方法を使い、灰島たち幹部を追い詰めていく。
そして悠真は神の国関連のサイト、ホームページなどに次々に侵入し、組織の全貌・全容を探る。
司、虎太郎、あさみの3人は、3人1組で灰島を追い詰める。
途中でなにか起こったら、辰川が応援と協力しながら対処する。
司はとにかく灰島確保のために動く。
そういうシナリオだ。
「さて、司令からなにか一言、ある?」
方針も決まり、メンバーたちが動き出そうとするその前に、北条が一言、そう言った。
「私……ですか?」
「うん、わたし。せっかくの大捕物なんだから、ビシッと締めていってよ。」
北条の言葉に、司が驚く。
(やっぱり敵わないわ……。全体的に前のめりになっているこの状況で、冷静さを失わず、かつ士気を上げる方法を、この人は知ってる。なら、私は……。)
司は、ほうじょうを見て頷くと、大きく息を吸う。
「これが最後だとは思わない。たぶん、今後事件は起こるだろうし、その度に私たちは今と同じように声を掛け合い、鼓舞し合っていくんだろうと思う。だから……今回も同じ。これは、たくさんある事件のうちのひとつにすぎない。」
北条が小さく口笛を吹く。
(さすが。みんなの気が締まった。)
「無茶はしない。危険だと感じたら、深追いせずに応援を呼んで。命は大切に。それは私たちのたったひとつの約束事にしましょう。深追いしないで逃げられても大丈夫。仲間を信じて。きっと仲間が、少しずつかもしれないけど犯人を必ず追い詰めてくれるわ。」
メンバー全員、真っ直ぐに立ち司の話を聞く。
「犯人は必ず逮捕する。取り逃がしたら、また悲しむ人が出てくる。私たちは、安心で幸せな未来のために、刑事をやっている。そうでしょう?」
「おう!」
「もちろん!」
「とーぜんだ。」
「……はい。」
「ま、簡単じゃないけどね~」
「……お手本のような言葉、だね。」
メンバー全員が頷く。
「私たちは7人しかいない。でも、その7人がどこにも負けない7人だと、私は信じてる。行きましょう!」
司のこの言葉を皮切りに、メンバー達は、一斉に動き始めた。
―――――――――――――――
捜査チームの4人が司令室を出ていく。
「うーん、こういう人を顎で使うような役割は苦手なんだけどねぇ……。」
残された北条は、これからの仕事を考え、苦笑いを浮かべる。
「北条さんなら、誰も異議を唱えないと思いますよ?」
「そうそう、どーんと行けって! まずは景気良く挨拶と行こうじゃないの!」
志乃と悠真が、北条を盛り上げようとする。
「えー、でも僕、課長とか係長とか役職者じゃないし~」
「北条さん、警部補じゃないですか。」
「まーそうだけどさー」
煮え切らない様子の北条。
「あーめんどくさいなぁ。ほら、全局に繋ぐよ。3、2、1!」
完全に北条をからかっている悠真は、半ば強制的に音声を各課に繋いだ。
「あーっと! まだ心の準備が……って、これ、入ってるの?」
北条が志乃と悠真に視線を送り、ふたりは声を出さないように小さく頷く。
「……えー」
何から話そうか考えている北条。すると……。
「北条さん、こんな時に遊んでないで、さっさと指示を出してくれよ! みんながバラバラに動き始めて困ってるんだ。」
稲取の声。
「この期に及んで役職がどうとか言ってはいないよな? お前がやらずに誰がやるんだよ。」
続いて熊田の声。
「貴方なら私達も納得です。北条さん、ご指示を。」
そして、秋吉の声。
北条が狼狽えている声を聞き、現警視庁のエースたちが、次々と無線を飛ばしてきた。
「みんな……。」
ずっと捜査員一筋でやってきた。
人に指示を出すのは苦手。
自分の頭脳で割り出したものを、自分の手で手繰り寄せ、犯人逮捕に繋げていく。
そんな生活を、ずっと北条は続けてきた。
しかし、今回は違う。
頭脳を使うことは同じ。
しかし、自分自身が動くのではなく、警視庁各課に指示を出し、動かしていかなければならないのだ。
「……もう、緊張するなぁ。」
その仕事に関して、不満も緊張もなかった。
ただ、引っ掛かっていたのが、『自分が動かない』ということ。
これまでの捜査員人生を否定してしまうのではないのか?
そう思ったのだ。
「あー、えー……、分かった。今回だけね。」
しかし、そうまごついてもいられない。
悩んでいる間に、犯人達はどこまで逃げるか分からないのだ。
「僕の指示に完全に従えとは言わない。僕がこれから無線で飛ばすのは、あくまでも『アドバイス』。現場での判断は、捜査員みんなの判断に任せることにするよ。今から、僕がひとつだけ約束事を伝えようと思う。これだけは守って、捜査してほしい。」
北条は、大きく息を吸うと、一言だけをしっかり、ハッキリと無線で伝えた。
「『人命最優先』。これだけは各自徹底してほしい。いいね?」
「了解!!」
「了解です!」
「任せとけ! 北条さんの指示なら、誰も文句は言わねぇよ!」
口々に北条の言葉に反応する無線が飛んでいく。
「ありがとう、みんな。」
北条はひとまず安堵する。
これで、各課間の連携はうまく行く。
あとは、逃げた灰島たちの行方、そして確保の手段である。
「とりあえずどうする?やみくもに探し始めたってどうにもならんだろう?」
熊田が北条に訊ねる。
「そうですね……まだ都内にいるかもしれないし、いないかもしれない。まずは、隣の県の警察署と連絡を取って、東京から通じる道全てに検問をかけよう。我々、警視庁班は都内の捜査を重点的に。まずは海。船等を使って脱出されないように気を付けよう。」
「了解!」
「北条、俺は念のため、関西の伝手をたどって各港のチェックさせるぜ。」
「ありがとう熊さん。助かります。」
北条を中心に、次々と捜査の輪が広がっていく。
「すごいね、北条さんって。」
「えぇ。元捜査一課のエースだった人だもの。彼の言葉に疑問を持つ人なんていないわ。検挙率が、刑事の中でずば抜けて高いんですもの……。」
北条と各課のやり取りを横で見ながら、志乃と悠真が感心する。
「じゃ、僕たちは僕たちの責務を果たさなきゃ、だね。」
「えぇ。気を抜かずにいきましょう。」
志乃と悠真が、モニターの画像を注視しながら犯人グループの逃走した経路をたどる。
「……見つけた!!」
志乃が、Nシステムの情報と付近の防犯カメラの映像から、灰島たちが逃走したと思われる車両を割り出す。
「黒のワンボックスカー。警視庁から東方向に走行中!」
志乃が各課の端末に一斉に映像を流す。
「ナイス志乃ちゃん!」
北条が映像を目視で確認すると、指示を出す。
「稲取くん、一課は二手にわかれて東と南に進んで!」
「了解!……って、東と南?」
「首都高、環状線、あらゆる逃走経路を想定する。途中で東京湾岸方面に進路変更する可能性もあるから、それに備えて主力を南に!」
「なるほど……了解!」
「熊さん、四課は北と西に展開して、いざというときの退路を塞いで欲しいです。心配がなくなったら、包囲網を徐々に南側に。」
「オーケイ! なるほど、俺達が迫ることで、敵さんを挟み撃ちにするんだな?」
「よろしくお願いしますよ、重要な役割です。」
「任せとけ!」
各課に指示を出していく北条。
その状況を記録し、モニターに出していく志乃。
「すごい……」
その画面を見て、悠真が思わず息を飲む。
「僕……こんな状況になったら、逃げるの諦めるなぁ……。」
「完璧な包囲だわ……。」
犯人グループの位置はまだ特定できていない。
しかし、どこに逃げてもそこには警察がいる。
そんな包囲網を、北条は短時間で作り上げた。
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