7-6

一方、バスの車内では……。



「ふざけやがって……マウント取ってるつもりかよ……!」



両手両足を縛られたまま、最後尾の座席に座らせられている虎太郎が舌打ちをする。


あらかじめ用意されていた映像だったのか、バスの中でも同じ映像が流されている。


「わ、私たちが……人質?」


「ふ、ふざけるな!すぐに助けを……!」



画像を見て、現在の自分達の状況を知った乗客達が、半ばパニックになる。



「すぐに警察に……!」



通報をしようと自身のスマホを出した1人の会社社長。



ーーーバンッ!ーーー



その手を、香川は容赦なく拳銃で撃った。



「う……うわぁぁぁ!!!」



右手から血を流しながらのたうち回る社長。


「う、撃った!!」


「いやぁぁ!命だけは!!」


「あ、あぁぁ……」



一気に乗客たちは混乱する。



「香川テメェ!誰も抵抗してねぇだろうが!!」


虎太郎が香川を睨み付ける。


「警察には僕が通報したじゃないか。今だって電話は繋がってる。それなのに……チョロチョロと虫みたいに動くからさ……。大人しく座って、黙ってみていてくれないか?この国を担う人材なら、この国の対応を良く見て学ぶと良い。今後の日本に何が足りないのかをね……。」



躊躇うことなく乗客を撃った香川。

その瞳に感情は感じることが出来ない。



「この野郎!」


拳銃を持つ香川に怯むことなく、大柄な議員が立ち上がる。



「待てって!いまアイツを刺激したって逆効果だろ!」



必死に虎太郎が制するが、議員は少しずつ香川に歩み寄ってくる。

しかし、香川は発砲しない。



「……何で撃たねぇ?」



虎太郎も、その様子に疑問を持った。



「下手なことは考えない方がいい。だいたい、バスジャックを個人でするんだ。考えなしに乗り込んだところで成功するわけないじゃないか。拳銃の弾だって全部で6発。9人も生き残ったら、僕なんて皆に取り押さえられてゲームオーバーさ。」



ニヤニヤと笑みを浮かべながら、詰め寄ってくる議員の前で香川は自身のジャケットに手をかける。



「オッサン!!下がれ!!!」



その瞬間、虎太郎が叫んだ。

その迫力に圧され、議員が足を止める。


悪い予感がしたのだ。

このまま、議員と香川が接触したら、取り返しのつかないことになりそうな、そんな予感が。



「良く踏みとどまったね。……まぁいい。見せてあげよう。」



香川はそのままジャケットを脱ぐ。



「……マジかよ……!!」



『それ』を見た虎太郎の表情が凍りついた。


香川の身体には、大量の爆弾が装着されていたのだ。



「凄いだろう?この爆弾は、僕の身体に一定以上の衝撃が加わると起爆する。僕を取り押さえればその衝撃で、そして僕を遠いところから射殺すれば、僕が倒れたその衝撃で。一気にドッカンさ。このバスは、きっと跡形もなく弾け飛ぶよ。」



香川は、再びニヤリと笑った。



「バカな……お前だって無事じゃすまないだろう、香川ぁ!」



稲取が大きな声で香川に訴える。


「……えぇ、このバスの中でもし爆弾が爆発したら、真っ先に死ぬのは僕……でしょうね。100%、僕は助からない。」



香川は淡々と答える。



「でも、それがなんだって言うんですか?日本という国が要求をのめば、この爆弾は爆発しないし、乗客も無事。そして僕たって死なない。ただ、それだけのことでしょう?」



(こいつ……自分が死ぬことに恐怖心はねぇのか?)



後部座席で手足を拘束されている虎太郎が、香川の様子をしっかりと観察する。



「とりあえず、誰かスカーフでもネクタイでもいい。撃たれたオッサンの手当てをしてやってくれ。幹部と手首、そして脇の下辺りを少し強めに縛ってくれ。このままじゃぁ出血が多すぎる。オッサンは多少痛くても患部をしっかり圧迫するんだ。」



香川の動きを注視しながらも、乗客達がパニックにならないよう、そして負傷者が無事降りられるよう声をかける。


乗客たちも、虎太郎の指示にしたがう。



「俺たちは……殺されてしまうのか?」


「まだ、死にたくない……」



次々と不安を口にする乗客たち。


「どうなるかは俺にだって分からねぇ。ただ、いつまでもビクビク、メソメソしていたところで、俺達の運命は変わらねぇ。」



状況は、正直に言って最悪。

香川は完全にバスを掌握し、一方で虎太郎は手足を拘束され身動きが取れない状態。

そして乗客の中には負傷者もいる。長期戦を選択することが出来なくなった。


まさに崖っぷち。

そんな状況を、虎太郎は察していた。

出来るなら替わって欲しい、そう思いたくなるような現状で……。



「まぁ、ここはどーんと構えて落ち着こうぜ。あんたら、国を背負う議員と、会社の頂点に立つ社長達だろ?なるようにしかならない状況なんて、これまで何度も経験してるだろ?」



虎太郎は、不適に笑った。 

この虎太郎の一言で、乗客たちが落ち着いてきた。



「よし、手当てしたら出来るだけ安静にしよう。大丈夫か?」


「うぅ……すまない……」


「みんな無事にバスを降りよう!」


声を掛け合い、励まし合う乗客たち。



(そうだ……それでいい。)


虎太郎は、乗客達が励まし合い、運命と向き合うことにしたことに安堵する。



「さーて、俺もこのまま縛られっぱなしってのも癪だからな。上等じゃねぇか、人質目線で見つけてやるよ、突破口をな!」



高鳴る心臓の鼓動を落ち着けるように深く深呼吸をした虎太郎。



(頼んだぜ、みんな……!)


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