第7話:破滅へのドライブ
「東京巡りツアー?」
桜川逮捕から1か月ほど。
事件以降、主だった大きな事件は起こっていなかった。
『神の国』が起因する事件も起こっておらず、先の凶悪事件の犯人たちに物資を提供したルートが、少しずつではあるが捜査一課により暴かれていった。
そのなかでも、連続放火事件で使われた道具の類、それは『神の国』から直接指示を受けた反社会的勢力が関与していたことが分かった。
主に都内を縄張りとした少年グループであったが、そのメンバーが次々と逮捕されていく中で、
「高額な仕事だったから引き受けただけ。人んちにダンボール箱を配達するだけで、1個あたり50万。怪しい仕事だとは思ったけど、殺人や強盗をやるわけでもないし、荷物届けるだけであんな大金がもらえたんだ、俺たちは夢中で食いついたよ。」
こう、少年グループの幹部は自供した。
しかし、依頼主については謎が多く、
「若い男だった。」
「女だったぞ。なんか変な話し方をしていたな。」
「爺さん……だった気がする。」
……と、逮捕された者によって依頼主の証言は食い違っていた。
『神の国』がどんな組織でどのくらいの規模なのか、それはまだ明らかになってはいないが、ここまでの捜査で分かったことは、
『莫大な資金力があること』
『幹部が数人新在すること』
『若者たちとコミュニケーションをとるすべがあること』
この3点であった。
「莫大な資金力があるとしたら、どこかで資金調達をする必要があるはず。金銭がらみの犯罪が起こっていないということは、何か合法な組織や活動が資金源であることが予想されるわ。」
「あとは、密輸とか、詐欺か……?」
「密輸の線はないと思う。密輸や密航って、今の時代じゃなかなか簡単ではないのよ。感染症対策で、水際対策が強化されたから。」
「じゃぁ、詐欺か?」
「詐欺というと語弊があるかもしれない。もしかしたら、表ではまっとうな組織で資金を稼いでいるのかもしれない。」
「なるほど……。」
煮詰まっていた捜査。
そんな時、北条が1枚のチラシを持ってきたのだ。
「ねぇ、せっかくだから、これに乗ってみたら?東京のこと、もっと詳しくなるかもしれないよ?」
それは、とある団体が主催する、東京巡りツアーのチラシであった。
「北条さん……俺たち、もう東京人、だよな?めぐっても楽しくねぇよ……。」
虎太郎が、北条に抗議の視線を向ける。
「虎、もしかして純粋に観光しようと思ってた?」
「思ってねぇよ!!」
「ほらほら、ここみて。」
北条が指をさしたのは、チラシの右下。
連絡先の電話番号が記載されていた。
「夢の国プロジェクト……?」
「そう、夢の国プロジェクト。」
「何かの会社か?」
連絡先の電話番号は、個人の携帯の番号になっていた。
「ツアーだから会社なんだろうけど、そう言う場合、旅行会社受付の番号が書いてあることがほとんどなのさ。でも、ここの受付番号は、たぶん個人の携帯。個人事業だったとしても、固定電話くらいはあるでしょう。」
北条は、この日の出勤の時にこの広告を路上で配られた。
さっと目を通したところ、この点に気がついたのだった。
「そして、ばらまいてた広告の量が尋常じゃない。ここにさ、『満席になり次第締め切らせたいただきます』って書いてあるんだけど、たぶん見た感じ1,000枚くらいは配ってる。在庫も大量だったしね。バス一台分の乗客が定員だとしたら、こんなに印刷したら逆に赤字だよ。リーズナブルで豪華なツアーなんだから。」
「おぉ……昼におやつに夕食つきで、1人5,000円……。確かに、これは安いかも……。」
「そう。僕の経験だとね、採算度外視のツアーには、必ず何か裏がある。まぁ、ツアーに限らずだけど。だからね、探ってみたいと思ったわけだよ。」
「なるほどな……。」
北条が一度目をつけると、何気ないチラシも犯罪予備軍になる。
この着眼点の良さが、北条の持ち味の1つでもあるのだ。
「そんなわけで、はい。」
「……?」
北条がチラシを虎太郎に渡す。
「なんだよ、これ」
「ちょっとさ、参加してみてよ。」
「俺が?」
「うん、最近心の余裕がないだろう?」
「……やだよ。」
なぜ、突然自分に白羽の矢が立ったのか、まったく理解できない虎太郎。
「司ちゃん、やだって。」
北条は仕方なく、司の方を見る。
「北条さん、説明のしかたが悪いわ……。虎太郎くん、このツアー、どうも裏がありそうなの。このリストを見て。」
司が1枚の資料を虎太郎に手渡す。
「乗客リスト?」
「悠真くんに調べてもらったんだけど……募集団体のツアーにしては、メンバーに偏りがあるのよ。」
「どれどれ……山田、田中、斎藤……フツーの名前じゃねぇか。」
虎太郎には、リストの名前を見ても何も想像できない。
「現参加者は15名。その全てが東京の議員、そして大企業の取締役なの。」
「お偉いさんばっかりってことか……。」
「一般人と言って電話をかけてみたんだけど、もう締め切りましたって。大型バスなんだから、あと20人は乗れるのに。」
「つまり、参加者は意図的に集められたと言うわけだな。」
「えぇ。きっと事務所に直接誘いの電話でも入れたのでしょう。ではなぜチラシを配ったか、それが分からないのだけど……。」
司は、このチラシに怪しさを感じているのだが、この『夢の国プロジェクト』が何をしようとしているのか、それが理解できなかった。
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