4-6

一方、銀行内では……。



「これで、全員の目隠しが終わりました……。」


「良いでしょう。では、姿を現しましょうか。」



Fの姿は、もはや支店長代理しか知らない。

そうなるようお膳立てを済ませてから、Fは姿を現した。



「よしよし、完璧な段取りですねぇ。では……立て籠もり始めましょうか。そうだ、支店長代理……」


「……!は、はい!」



Fの鋭い視線が支店長代理に突き刺さる。

言いようもない恐怖に駆られながらも、必死に声を振り絞り返事をする。



「これで、私の顔を見たのは、貴方だけ、という事になります。……何が言いたいのか、それはもう分かりますよね?」


「……!!!」



つまり、警察に証言が出来るのは、支店長代理ただひとり。

しかし、そうすれば命はない。

そう言うことを、Fは言っているのだ。



「はい……。」


「良いでしょう。これで私とあなたは『共犯』だ。いい関係でいましょう。支店長代理殿……。」



支店長代理は歯を食いしばる。

その心は、後悔の念で一杯だった。


何故、言いなりになってしまったのか。

自分の命惜しさとは言え、本当にこれで良かったのだろうか。


後悔、先に立たず。

そうは言うのだが、『共犯』と言われるようになるまで、選択肢というものは支店長代理には存在しなかった。

もはや『強制』。

Fは、支店長代理が拒否する心の余裕を与えなかったのだ。



「F……上手く行ったみたいですね。」


「えぇ。しかしD……少々興奮しすぎたようですね。ひとり殺してしまうとは……。」



Fが鋭い視線をDに向ける。

その迫力に、共犯であるDも気圧されてしまう。



「すみません。つい……。コイツが携帯を隠し持っていたので……。」


「そういう時は、腕を撃てば良かったんです。どのみち死ぬのなら、少しずつ恐怖を与えながら……。命の灯が薄れていくその時まで、後悔させてやれば良かったのです。周りの方々に、『逆らったら死ぬ』という事をしっかり分かってもらうためにね。……『次は、そうしてください』。」



このFの言葉で、銀行内は完全にFに支配された。

『絶対的な恐怖』が人質たちに植え付けられたのだ。


次がある。という事は犯人たちには人を殺すことに躊躇いがない。

そして、もし逆らったら一思いには死ねない。じわりじわりと苦しめられ、そして殺されるのだという恐怖。


人質たちの表情には、絶望以外は見られなくなってしまった。



「良いですか?これが人心掌握術です。さぁ……次のステップに移りましょうか……。」



Fの口元が、歪んだ。

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