3-9

虎太郎が西尾のもとに向かっている、ほぼ同時刻……。



―――今度はお前の一番大切なものを爆破しようと思う。お前にも娘がいるな?もうすぐ大学卒業だそうじゃないか。おめでたいことだ。私が盛大に花火を打ち上げてやろう―――



「な……なんだと!?」



辰川の携帯には、次の犯行予告がメールで届いていた。



「娘……紗良を狙うだと……?」



この時に、辰川も完全に確信した。

犯人は、中山であるという事を。



「紗良が知ったら悲しむぞ、中山……。まるで俺なんかよりも親父みたいにあいつと接していたじゃないか……。」



10年前の事件で、中山は妻と子を失った。

それから10年、つい最近まで中山は同僚であった辰川の娘・紗良に対して優しく、親身に接していた。


辰川が爆弾処理班であることを嫌がった紗良に、中山は優しくこう言ったこともあった。



「親父さんの仕事は、唯一無二の仕事なんだ。警察官は民間人の安全を守ることが仕事。でもな、親父さんのいる爆弾処理班と言うのは、その中でも特に人命を守るために作られた班なんだ。たくさんの人の命を救える、英雄なんだ、紗良のお父さんは……。」



中山がそう言ってくれたおかげで、紗良も理解を示し辰川の仕事の応援をするようになってくれた。



「あの時、お前がああ言ってくれなければ、俺は今頃孤独なただの親父だったんだろうな。本当に、感謝してるんだぞ……。」



辰川は紗良にメールを送る。



―――昼休み、外で食おうと思うんだが、何がおすすめだ?今仕事で台場まで来てるんだが、もし近くにいるなら一緒にどうだ?―――



出来るだけ紗良に心配をかけまいと、当たり障りのない文章を送信する。

ほどなくして、紗良から返信が来た。




―――パパが外食なんて珍しい!!テレビ局の向かいにお洒落なカフェがあるんだけど、そこのパンケーキ絶品だよ。あーあ、卒論に追われてなければすぐに行きたいんだけどなぁ。パパのおごりでしょ?―――


―――娘と割り勘なんて恥ずかしいマネするかよ。卒論ってことは、学校か?―――


―――うん。学食で皆とランチしてから、図書館で続行。パパ、また誘ってね!―――



紗良は何の疑いもなく、自分の現在地とこれからすることをメールで送ってくれた。


「まったく……素直な子で親父は幸せもんだぜ。」



この時世、父と年頃の娘の関係が悪いなど、良くあることだ。

素直に、そして優しく育ってくれた娘に心の中で感謝しつつ……。



「絶対に、死なせはしないからな。」



辰川は、全力で娘の通う大学へと急いだ。



「今度は、辰川さんの娘さんが狙われた?」



大学に向かうという辰川の無線を聞き、虎太郎が戸惑った。


(どうする?大学に向かって学生たちを退避させるか、それともこのまま西尾さんと合流するか……。)



直近の危機は、大学の爆弾だろう。

しかし、この先の犯罪を防ぐという意味では、西尾と合流し中山の所在の手がかりをつかんだ方が効果的だ。




「司令、俺……。」


「虎、こっちは気にせず西尾と合流してくれ。大丈夫だ。誰も死ぬことはねぇ。俺が爆弾を解除すれば済む話なんだからな!!」



そのときだった。

虎太郎の考えを読んだかのように、辰川が虎太郎に告げた。



「辰川さん……。」


「何度も鼬ごっこするほど、俺たちも暇じゃねぇ。こうやって俺が右往左往する様を見るのを楽しんでやがるんだ、犯人は。俺は別に構わねぇが、そのために何の関係もない人たちが危険にさらされるのだけは許せねぇ。だから虎、西尾に合って犯人の手がかりを少しでもいい、掴んでくれ!」



辰川は、ここまでで一度でも、中山の名を口にしていない。

『犯人』は犯人で中山ではないと、今も信じているのだ。

しかし、爆弾の解除を繰り返すたびに、犯人が中山であると言わざるを得ない。


その事に、虎太郎も気づいていた。


(辰川さん……もう、中山さんの罪は消えないけど……)


「了解!!出来るだけ犯人の早期発見・確保に努めるぜ!!」


(少しでも早く捕まえれば、中山さんの罪が増えることはねぇ。辰川さん……悪いがそれで、いいだろ?)




辰川の気持ちを考えると胸が痛んだが、それでも虎太郎は刑事。犯人を捕まえることを最善の一手だと考えた。


「あぁ……サンキューな、虎。」



辰川も、虎太郎の気持ちを察し、彼に感謝した。



「さて、俺は大学に急ぐぜ!!志乃ちゃん、悪いがあらかじめ大学の方に連絡して、状況報告と学生の退避を依頼しておいてくれ!!」


「了解しました。近くにいる各課捜査員も数名急行するように手配しました!」


「サンキュー!助かるぜ!」




志乃が、まるでチェスの駒を操る様に、状況に合わせて的確に人員を配置していく。


「すげぇ……これが志乃さんの実力か……。捜査員からしたら、動きやすいし不安にならねぇ……。」



どんなに熟練した捜査員でも、現場にひとりで向かうというのは不安になるもの。

そうならないように、志乃は最低3人でグループが組めるように人員の手配をしていた。



「司令!俺は?」


虎太郎は司に、西尾との合流ポイントを聞く。



「豊洲駅前のロータリー。そこで待っていてもらうようにお願いしたわ。服装と特徴は……。」


「……了解!」



西尾の様相の詳細を聞き、虎太郎も豊洲へと急いだ。


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