「じゅうななさい」は世界樹まつりの夢を見る
音無 雪
爆乳姫子さんは世界樹まつりの夢を見ない(前編)
さらさらと 五色の恋を 纏う笹
――――
ふと気が付けばこんな時間でしたか
机に広がる五色の短冊 作業に没頭しておりますと時間を忘れがちでございます。
予定の数は揃えることが出来たようですね。
そろそろ皆さんがいらっしゃいます。現地でお迎えいたしましょう。
作業用エプロンの紐を解き、長い髪を留めていたヘアクリップを外します。
ちょっと肩が凝りましたね。腕を上げてストレッチ
少し身だしなみを整えて、サインペンの入った箱を抱えて部屋を出ます。
姫子さん 短冊の箱をお願いしますね。
目的地はお祭りが行われる小さな広場
広場は当家と隣接しておりますので徒歩1分 交通至便でございます。
『世界樹広場』
世界樹と呼ばれている大きなクスノキが枝を広げ木陰を作る広場
ここで旧暦の7月7日に合わせお祭りが行われるのです。
始まりは当家での個人的な七夕祭りでございました。
年中行事は欠かすことのないわが父 もちろん七夕行事も私の生まれた年から笹を庭に飾っておりました。
その後、娘可愛さに親バカが加速いたしまして年々笹が大きくなり、今ではご近所さまを巻き込んでのお祭りまでになりました。今更止めることも叶いません。
「お嬢が生まれてから毎年飾ってきたから今年でにじゅ・・・『じゅうななさいです』 ・・・まあ そうだね あはは」
何を宣っておいででしょうか姫子さん 私は『じゅうななさい』ですので十七回目の七夕でございますよ。
折り畳み机の上に短冊を用意してくれているのは親友の爆乳姫子さん(仮名)
昨日から泊まり込みでお手伝いをしていただいております。いえ 作業量は大したことはないのですが、単にお泊り女子会がしたかっただけでございます。
このお祭りも回を重ねるうちに今では『世界樹まつり』と呼ばれております。七夕の領域を超えてきましたからね。ご近所さまもお祭り好きでございまして、いつの間にかこの地区の催し物となりました。
今年も二日ほど前から準備が始まり、いよいよ明日が本番でございます。
そろそろお客様がいらっしゃるはずですが・・・
§
可愛らしい園児さんが団体でご到着です。引率の先生方もお疲れ様でございます。
近くの園からお散歩をかねて毎年来ていただけるようになりました。
さっそく笹に飾る短冊に願いを書いていただきましょう。
わいわいと机を囲んで楽しそうにしております。似顔絵を描いたり、お花の絵もありますね。
文字を書ける園児さんもかなりいらっしゃいます。お願い事を書けますか
「大好きな人の名前を書くと結婚できるかもね」
姫子さん 園児さんに何を教えているのですか・・・
違いました。引率の先生にペンを渡しております。戸惑いながらもペンを受け取る先生
意中の方がいらっしゃるようですね。良いことでございます。
「たんざくをわたしてかいてもらえばけっこんできるよね」
小さな乙女が何かを思いついたようです。
「わたし『あっくん』ってかいたからね。あっくんは『えっちゃん』ってかくんだよ」
短冊を手にして殿方に迫っております。ぐいぐい行きますね。有無を言わせない圧力がございます。
恋する乙女は強いのです。このまま結婚まで押し切ってくださいませ。
「おにいちゃんにもっていっていいですか」
短冊を持ち帰りたいのですね。何枚でも良いですよ。
「わたし おにいちゃんとけっこんする」
そう来ましたか お兄さん小さな恋をきちんと受け止めてくださいよ。頑張れお兄さん
§
みなさん書けましたか 書いた人から短冊を笹に飾りましょう。
父が用意したのは二階の屋根を超える立派な笹
流石に笹の先まで手が届きませんので今は斜めに倒して台座に乗っています。好きなところに飾ってくださいね。
「じゅうななさいにもなると笹も大きくなるねぇ」「そうですね。じゅうななさいですからねぇ」
姫子さん 園長先生とにやにやしながらこちらを見ないでください。
一生懸命に全身を伸ばして高いところに付けようとしている子がいますよ。助けてあげてくださいな。
小さな子を抱き上げる爆乳姫子さん
子供を胸に抱いている姿に母性を感じます。私と同じ『じゅうななさい』のはずですが圧倒的な母性を感じます。なぜでしょうか
「おねえちゃん せんせいよりおっぱいおおきいね」
事実かもしれませんが比較はやめましょうね。それを先生に言ってはいけませんよ。
「おねえさん わたしも」
私の前で手を広げてお願いをする乙女がいらっしゃいます。
上の方に付けたいのですね。さあどうぞ しっかりと抱いていますから落ち着いて付けましょうね。
「おねえさんのおっぱいはどこにあるの」
純粋な目で姫子さんと見比べる乙女
えっとですね。そこに無ければございませんね。
お姉さん泣いてよろしゅうございますか
§
みなさん飾り終わった後、七夕のお歌まで歌ってくれました。楽しそうで何よりでございます。
きっと七夕飾りも喜んでいることでしょう。
お姉さんは心で泣いていますけど・・・
「そろそろ学生さんが来る時間になるよ。泣いてないで用意しないと」
姫子さん 腕にお胸をぐいぐい押し付けないでください。泣きますよ。今は現実を認めたくはございません。
それに用意なら既に出来ているではありませんか。あとはお迎えするだけですよ。
「乙女のために『七夕の大発明』したからね。早く作らないと間に合わないから 早く 早く」
だから腕を離してください。揉みますよ。
――――
――――
地道に作業をしております。
私の部屋に戻ってひたすらに単純作業を繰り返しております。
地道に 慎重に
サインペンの裏ブタをあけまして特殊なインクを注いでいます。
紫外線に反応して発色する透明なインクでございます。どのご家庭にもひと瓶くらいは在庫がございますよね。
赤色サインペン 緑色サインペン 青色サインペン
地道に 慎重に
単純作業を繰り返せば心も落ち着いて辛いことも忘れてしまうのです。
お胸なんて飾りです。エロい人にはわからないのですよ。ぶつぶつ
§
「何とか時間までに完成したね ご苦労様 ご褒美に揉ませてあげるから」
姫子さんは私を何だと思っているのでしょうか まあご褒美でなくても揉みますけど
出来上がったサインペンを使ってみると少しだけ色が薄くなったサインペンと言った印象ですね。
これのどこが大発明なんですか
「私も思い付きだからやってみないと分からないけどね。それに発明には失敗がつきものだから」
自分から思い付きと言ってしまっては発明ではありませんね。それに失敗したときの逃げ道を作るのはやめなさい。
「まだ必要なものはあるけど今のところはこれだけかな。さあ広場に戻ってお迎え お迎え♪」
誤魔化しましたね。
追求したいところですが時間がありません。
乙女のための七夕 今からが本番です。
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