最恐の縛り

@tapichan1212

第1話

「大手工事会社のヨシダ製作所の椿村店所長であったワタナベ所長が遺体で発見され、事件性があるとして警察は犯人の行方を追っています。」


自分が今、追っている事件のニュースを見ながらご飯を食べ、身支度をすませ家を出た。

この事件はハルミが警察になって初めて扱う事件であった。せっかく事件を解決するならもっとビックな連続殺人とか立てこもりとかどのメディアも注目するような事件が良かったなと呑気なことを考えてるうちに今年の4月に配属された椿村警察署についた。


警察署に着くとさっそく上司が眉間に皺を寄せながら近づいてきた。

「遅いぞ。部下は上司よりも早く出勤しなさい。今日はワタナベ所長が遺体で見つかった事件の現場検証に行くから付いてくるといい。準備をしなさい。」

部下は上司よりも早く出勤って時代遅れかよと心の中で悪態をつきながらも二つ返事をして準備を始めた。


「ここら辺は足元が滑るから気をつけろよ。」

ワタナベ所長の遺体が見つかった場所は椿山を登る必要があり少し遠く暇を持て余していたので上司に質問をしてみた。

「あの、先輩って初めて扱った事件って なんだったんですか?」

その後、上司は何も言わず沈黙が続いた。

「あー、覚えてませんよね!」と笑って誤魔化そうとしたが上司はぽつりぽつりと話し始めた。

「覚えていないわけがない。初めてに限らず全ての事件を忘れることはないだろうな。初めての事件は空き巣事件だったよ。」

なんだ空き巣かと思った。殺人事件ですらないのかと。すると上司は私の気持ちを見透かしたように言葉をかけてきた。

「君は今回の殺人事件をなんだこんなものかと捉えているのか。だから私に初めての扱った事件を聞いてきたんだろう?私の初めての事件が殺人事件ですらないことにきっと衝撃を受けただろうね。でも覚えておくといい。君はきっとこれからいくつもの事件に出会うだろう。でもその全ての事件を忘れることはあってはいけない。私達にとってはたかがかもしれないけどその遺族にとってはあってはならない一生背負っていかなければいけない事件なんだ。」

私は何も言えず黙ってしまった。そうしているうちに現場につき現場検証が始まった。始まってからも上司の言葉が頭から離れずずっと頭の中をぐるぐる回っていた。


結局、現場検証では私はただ上司が仕事しているのをついていくだけで特に何もできず家に帰ってきた。

鍵をあけると家の電気がついていて、中から足音が聞こえてきた。

「おかえり、姉さん。久しぶりだね。」

弟だった。私は幼い頃に両親が交通事故でなくし、弟と一緒に施設で育てられた。

「ケイスケ!久しぶり。来るなら連絡してくれればよかったのに。」

急に会いに来るなんて珍しいなと少し疑問に思いながらも久しぶりに弟に会えたことに嬉しさを感じていた。

「姉さんご飯まだでしょ?一緒に食べよう。俺、作るから風呂でも入ってきなよ。」

「ありがとう!じゃあお言葉に甘えてお風呂入ってこようかな。」

弟も大人になったんだなと感心し、弟の作ったご飯を楽しみにしながらシャワーを浴びた。お風呂からでると美味しそうな匂いがしてきて、お腹がなりそうだったので急いで着替えて食卓についた。

「美味しそう!ケイスケ料理うまくなったんだね。」

「毎日ちゃんと自炊してるからね。それじゃあ、せーの・・・」

『いただきます』

「んー!美味しい!」

「ほんと?姉さんの口にあってよかった。」

久しぶりに弟に会い、話したいことがたくさんあったこともあって時間はあっという間に過ぎていった。


「明日には帰るの?明日も仕事ならもう寝ようか。」

「いや、一週間の長期休暇をとったんだ。」

私の家と弟の家は電車で30分ぐらい離れた場所で長期休暇を取るほど遠くもなんだけどなと思いながら、少し気になっていた事を聞いてみた。

「ケイスケは今日なんで家に来たの?なにか話したいことでもあった?」

「・・・言うのやめようと思ってたんだけど姉さんに隠し事はできないね。」

弟は少し困ったように笑いながら、今までとは違う少し深刻そうな顔つきで話し始めた。

「姉さんが警察学校に通い始めてから今まで会ってなかったから知らないと思うけど去年の夏から水野建設の椿村店に異動になったんだ。だからここから職場の方が近いんだよね。それで椿村でも根強い取引先をつくろうってなっていろんな企業に視察に行ってたんだ。結局、ヨシダ製作所と取引することに決まってヨシダ製作所の椿村店所長のワタナベ所長と出会ったんだ。姉さんが今扱ってる事件ってそのワタナベ所長が殺された事件なんだよね?」

「・・・そうだよ」事件の話はたとえ身内でも絶対に秘密にしなければいけないがケイスケがなにかに怯えているように見えたので話してしまった。

「俺が殺したんだ。」

ケイスケがヨシダ製作所の話をし始めてからなんとなく気づいていた。でもそうではないことを願いながら話を聞いていた。だからこの一言を聞いて私は何も言えなくなってしまった。

「どうする?警察に通報する?通報するって自分が警察か。じゃあ姉さんが俺を今ここで逮捕する?」ケイスケは悲しそうな寂しそうな顔で笑いながら言った。

「ケイスケは・・・なんで私に話したの。そもそも、なんで・・・殺したのよ。」

「理由は言えない。でもどんな理由でも殺したことに変わりはないんだ。俺、当たり前だけど人を殺したことなんてなかったから殺してから気が気じゃなかったんだ。どうしたらいいかわからなくてでも警察には捕まりたくなくてでも見つかったらどうしようって怖くて、ほんとに何もかもわからなくなっちゃって。・・・姉さんはいつも正しかったから、だから姉さんに話そうと思ったんだ。俺は・・・どうしたらいいかな。」分からなかった。考えても考えても動揺が頭を支配していた。

「・・・明日の朝まで待っててくれる?ちょっとゆっくり考えたい。」振り絞って言った一言だった。

「わかったよ。おやすみ姉さん。」そう言ってケイスケは寝室に入っていった。


どうしたらいいか?そんなの警察に自首しに行くに決まってる。私が通報したっていいし、逮捕したっていい。それが普通だ。当たり前だ。・・・・じゃあ私は今、何に悩んでいるんだ。・・・・私は警察だ。両親が死んでから私の両親を車でひいたやつを見つけてこらしめてくて、そんなやつこの世から一人もなくしたくて警察になった。なりたくてなりたくて、たくさん勉強して警察学校の辛い訓練にも耐えて首席で卒業して、やっとの思いでなったんだ。ケイスケをここで見て見ぬふりをしたら私にも危害が加わるかもしれない、匿ったりしたら牢屋行きだ。そんなの一瞬で警察手帳も剥奪される。だから、警察に自首することを勧めるんだ。そう思って眠りについた。でも、寝室に入るときにちらっとみえたケイスケの顔が忘れられなかった。


朝起きたら姉さんはいなかった。警察に通報しに行ったのかなと思いながら姉さんと自分の分の朝ご飯を作っていた。朝ご飯ができて少し冷め始めたころ玄関があいた。

「姉さん・・・・。おはよ。」これが姉さんと話す最後なのかと思いながら言った。

「そんな悲しそうな顔しないでよ。・・・今警察に行ってきた。」

「うん。」

「警察に行って退職届出してきた。」

「うん・・・え?」

「一緒に逃げようケイスケ!」


「一緒に逃げようケイスケ!」思いっきり言ってやった。ケイスケは案の定驚いていた。それはそうだ、朝起きて姉がいなくて帰ってきたと思ったら警察に行ってて。通報したと思わないほうがおかしい。そう・・・私はおかしいんだ。だから警察は向いていない。あそこは正しい人達の集まりだから。私は世間が求める正しい人間じゃない。警察なったのだって、もとを返せば両親の復讐のためだし、上司になにか言われるたびに外面はよくても心のなかで悪態をついていた。私は世間の求める正しい人間じゃなくて家族の求める正しい人間なんだ。だからやっぱり警察は向いていない。見つかるのは時間の問題かもしれないけど、私は警察である前にケイスケの姉だから。警察に見つかるまで、いや見つかってからも隣にいてあげたいんだ。守ってあげたいんだ。殺した理由なんてなんでもいい。気まぐれでもムカついたでもなんでもいい。私は一緒に逃げるから。家族というのはある意味、最恐の縛りなのかもしれない。


「行くよケイスケ!」そして弟の手を引っ張った。





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