第33話 魔族の脅威
「こ、古代魔法……あの伝説の、夢物語だとされていた古代魔法を使う人間が現れるなんて……」
エレイア王子はあんぐりと口を開けてそう呟く。
隣の騎士のおじさんも呆然と私の方を見ていた。
「流石はレイラ様です! 私は信じてました!」
とリーチェ。
「レイラ……もうそんなことが出来るようになったのかい……。子供の成長は早いな……」
と、ずれ落ちそうになっている眼鏡をかけ直している父。
「い、いや、そんなことよりも……そんなことでもないんだが、魔族の話をしなければならない。良いだろうか?」
何とかエレイア王子は気を取り直すとそう言った。
私たちは頷く。
それから父はこんなことを言った。
「ここで立ち話するわけにもいきません。客間まで案内します。……リーチェ、イザベラは?」
「メイド長ですか? メイド長は……そういえば今朝から見てませんね」
「はて、何処に行ってしまったんだろうか。まあ仕方がない。リーチェ、代わりにお茶の準備を。エレイア様、こちらです」
そう言って父が先陣切って客間に案内する。
しかしあの礼儀作法にうるさいイザベラなら絶対にこんな場面、見過ごさないのに。
出てこないなんて珍しいこともあるもんだ。
それから父に続いてエレイア王子とそのお付き、そして私も客間まで歩いた。
「こちらが客間になります」
父が自ら扉を開け、中に案内する。
そしてソファに座るよう促して、ちょうどリーチェが紅茶を淹れて戻ってきた。
父と私がエレイア王子の座ったソファの対面に座ると、早速父が話を始めた。
「さて、それじゃあ話を聞かせてください。魔族についての」
「了解しました。順を追って説明いたします」
***
どうやらアムステラ神聖大国は実験と研究のために数匹の魔族を牢に繋いでいるらしい。
そのうちの二匹が逃げ出してしまったとのこと。
逃げ出した二匹はコウモリ型の魔族とネズミ型の魔族だったと言う。
「魔族には人を魔族にしてしまう能力があります。どのような方法かは分かりませんが、魔族にされた人間は理性が暴走し、人を襲うようになったりするのです」
それはおそらく、魔族の持つ魔力が負の感情を持つ魔力であるから、という理由だろう。
魔族は何らかの方法で、人間が上手くバランスを取っている魔力を負の感情に傾けてしてしまうのだと思われる。
「魔族になった人間が、さらに魔族を増やしていき……といった感じで魔族は爆発的に数を増やしていきます。歴史を勉強したことがあるのなら知っているでしょうが、今から三百年ほど前、当時大陸を統べていた超大国アウリスが一年で崩壊したのは、この魔族の拡散力にあるのです」
その話を聞く父は難しそうな表情だ。
父のこんな真剣な表情は始めて見たかもしれない。
「なるほど……。それで、魔族を見かけたら即刻駆除する必要があると言うわけですね」
「はい、そうです。だから大慌てでここまで早馬で駆けてきたわけです。大雨で足止めを食らってしまいましたが」
「しかし、魔族だって足止めを食らっているのは同じはずです」
父の言葉にエレイア王子は頷いた。
「ですから、おそらくこの周辺に潜んでいてもおかしくはないと思います。警戒しておいた方が宜しいかと」
「そうですね。わざわざ伝えてくれてありがとうございます」
そう言う父の顔は複雑そうだ。
相手が神聖大国の王子だからそう言ったが、心の中ではブチ切れたいのだろう。
面倒ごとを持ち込んできてくれたと言っても過言ではないのだから。
そんな話を聞きながら、私は更なる思考を巡らせていく。
魔力が正と負の感情によって変質するということ。
そして古代魔法はそれらを超越した、希望という感情によって引き起こせるということはほぼ確定だ。
古代魔法が使えたのだからね。
ここからは憶測が含まれるが。
おそらく、人間の中の魔力は基本正の感情であり、負の感情の魔力は正の感情の魔力に反発して体外に放出されている。
それが空気中の魔素に反応して溜まっていくと、突然魔物が誕生するという現象に繋がる。
しかし、それらが放出されず負の感情が人間の中に溜まると魔族となってしまうのではないか。
そして魔族はその負の感情を放出させずに増幅させる何らかの方法を持っているのではないか、というふうに考えていく。
だとすれば……。
再び魔族に正の魔力を与えられれば、負の魔力が反発して人間に戻るのではないか……?
よしっ。
ちょっとこの話をエレイア王子にしてみよう。
「あの……ちょっと話したいことがあるんですけど……」
「どうしましたか?」
私がそう言うと、みんなの視線が一斉にこちらに集まる。
そこで、私は先ほどの考えをみんなに述べていくのだった。
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